アメリカの最高裁が中絶の権利を保障せず、同性同士の恋愛の権利まで侵害されそうな状況となっていることで、サミュエル・L・ジャクソンが保守派判事を批判した。(フロントロウ編集部)

中絶禁止で止まらない、アメリカで様々な権利がはく奪される危機

 アメリカで1973年に女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド」裁判の判決が、2022年6月24日に米最高裁で覆され、女性の中絶の権利が憲法で保障されなくなった。保守派のドナルド・トランプ氏は大統領だった期間に3名もの最高裁判事を指名したため、終身任期である米最高裁判事9名のうち保守派が6名、リベラル派が3名となっており、最高裁が保守寄りになっているのが原因。

 さらに、保守派であり1991年から最高裁判事を務めるクラレンス・トーマス氏は、今回の判決に対する意見書のなかで、1965年に避妊の権利を認めた「グリスウォルド対コネチカット」判決、2003年に同性同士の性行為の権利を認めた「ローレンス対テキサス州」判決、そして2015年に同性同士の結婚の権利を認めた「オーバーグフェル対ホッジス」判決を見直すべきだと書き添えたことで、大きな波紋を呼んでいる。

 トーマス氏は、「いかなる実質的適正手続きの決定も“明らかに誤り”であるため、我々はそれらの判例で確立された“誤りを正す”義務がある」と述べている。

サミュエル・L・ジャクソンが判事を批判

 人間は絶対ではない。しかしトーマス氏の口ぶりからは、自分が絶対であるというような態度が見て取れる。そんななか、俳優のサミュエル・L・ジャクソンの意見が賛同を集めている。彼は「ロー対ウェイド」判決が覆された後、ツイッターでこうコメントした。

 「クラレンスおじさんはラヴィング対ヴァージニア州を覆すことについてはどう感じてるんだ??!!」

 「ラヴィング対ヴァージニア州」裁判とは、1967年に米最高裁が白人と黒人の結婚を認めたもの。黒人であるトーマス氏は、1987年に白人である妻と結婚しており、今年で結婚35年。クラレンス判事の言うように過去の判例を見直すべきと言うならば、「ラヴィング対ヴァージニア州」判決も見直すべきだとされてもおかしくないわけだが、トーマス氏はこの裁判には触れていない。

 民主党の上院議員であるエリザベス・ウォーレン氏が、「クラレンス・トーマスが明白にしている。極右は中絶では終わらない。結婚の平等、避妊、彼らの理想のアメリカのアイディアに合わない&生きない人を追ってくる。しかし最高裁が最終決定をするのではない。アメリカの人々がするのだ」と指摘しているとおり、現在の状況は最高裁で過半数を占める保守派の判事たちが自分たちの良いように人権を踏みつぶしていると批判されても当然だろう。

 「オーバーグフェル対ホッジス」裁判の原告の1人であるジム・オーバーグフェル氏は、米Peopleの取材で怒りをあらわにした。

 「クラレンス・トーマスは人間によって指名された最高裁判事であり、彼は最高神ではない。自分の家族を持つために、結婚の平等な権利を持つ数百万人の愛に溢れたカップルたちは、クラレンス・トーマスのこじらせた個人的なモラルを強要される筋合いはない。間違った判断というものを見たいなら、クラレンス・トーマス、鏡を見ろ」

 トランプ氏が大統領時代に取った行動の結果は、様々な形で悪影響となって噴出している。アメリカだけでなく、現在の世界を見れば、国民が政治に向き合わなければ人権や国民の生活は一気に崩壊すると感じさせられる。日本でも7月10日に行なわれる参議院選挙は今後の社会に大きな影響を及ぼすだろう。それが良い結果となるか、悪い結果となるかは、国民の責任。

(フロントロウ編集部)

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