7月29日〜7月31日に新潟県湯沢町にある苗場スキー場で開催されたFUJI ROCK FESTIVAL’22にて、最終日となった31日のヘッドライナーとして登場したホールジーのステージをレポート。(フロントロウ編集部)

ホールジーが日本語でフェミニズムのメッセージを発信

 ホールジーがフルライブとしては5年ぶりに日本のステージに帰ってきた(※)。映画音楽界の巨匠としても知られる、ロックバンド、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとアッティカス・ロスの2人がプロデュースを手がけた2021年8月リリースの最新作『イフ・アイ・キャント・ハヴ・ラヴ、アイ・ウォント・パワー』を引っ下げた「Love and Power」ツアーの一環として、7月31日に新潟県湯沢町にある苗場スキー場で開催されたFUJI ROCK FESTIVAL’22の最終日のステージに立ち、27歳にしてヘッドライナーを務めた。

※ホールジーは2019年に東京ガールズコレクションで来日し、2曲のパフォーマンスを披露している。今回、フジロックのステージでは全18曲をパフォーマンスした。

画像1: Peter Donaghy - Photographer
Peter Donaghy - Photographer

 定刻の21時10分を少し過ぎた頃、ボンデージのようなトップスに白のフリルのハーフパンツを合わせた衣装をまとい、日本を舞台にした「Ghost」のMVを彷彿とさせるような、ライトグリーンの髪をしたホールジーがステージに登場。ドラム、ギター、キーボードという3人編成のバックバンドの前に立ち、2019年にリリースしたシングル「Nightmare」からセットをスタートさせた。

 3度の流産の末に昨年7月に恋人で脚本家のアレヴ・エイディンとの間に第1子を出産したホールジーは、現行のツアーで、「Nightmare」のパフォーマンス中にバックスクリーンに中絶の権利を求める映像を映し出すのが恒例となっているのだが、フジロックのステージでもその演出は健在。

 バックスクリーンに映し出された、中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド」判決がアメリカの最高裁によって覆されたことを受けて行なわれたウィメンズ・マーチなどの映像には、「my body, my choice(私の体、私の選択)」というボディ・オートノミー(からだの自己決定権)のスローガンなどと一緒に、性暴力の根絶を訴える日本のフラワーデモで掲げられたと見られる、「性犯罪の不当な無罪判決に抗議します」「性暴力を許さない」といった日本語のプラカードも登場。日本語以外にも世界各国の言語で書かれたメッセージの映像が使われていたが、1曲目からこの演出を持ってきたという選択に、社会にインパクトを与えることがホールジーの音楽活動の中枢にあることを感じる。

 冒頭から演出に炎を用いるなど、ホールジーの現在の姿勢の強烈なプレゼンテーションとなった「Nightmare」を経て、笑顔で「こんばんは。元気ですか?」と日本語で問いかけた後で、フジロックでパフォーマンスをするという「夢を叶えてくれてありがとう」と伝えたホールジー。2曲目に初期の名曲である「Castle」をパフォーマンスして、デビュー間もない頃からのファンたちを歓喜させた後で、続けて最新アルバムから「Easier than Lying」を披露。この曲はアルバムの中でも最もアップテンポな楽曲だが、観客からは自然とハンドクラップが起きるなど、3曲目にしてすっかり観客の心を掴んでいた。

画像2: Peter Donaghy - Photographer
Peter Donaghy - Photographer

 曲間では時折笑顔も覗かせるホールジーだが、驚くべきは、イントロが鳴らされた瞬間、楽曲に憑依されたかの如くパフォーマーへと変貌を遂げてしまえること。この日のセットでは多くの場面で、楽曲をパフォーマンスする際、バックスクリーンに時にはグロテスクなまでに楽曲の世界観を再現したヴィジュアライザーが映し出されていたが、そのヴィジュアライザーと同じように表情を切り替え、1曲1曲の歌詞に込めたメッセージを忠実に体現していく。

 イントロが歓声に迎えられた「You Should Be Sad」、「1121」、フィーチャリングで参加したポスト・マローンの「Die For Me」とパフォーマンスを続けた後で、ここで「みんなすごくクールだよ」と観客を称えたホールジー。大声を出せないというコロナ禍ならではのライブに触れた、「今は状況が今までと違うけど、みんな楽しめるよね?」という問いかけに観客が拍手で応えると、ホールジーの表情にまた笑顔が灯った。

ロックスターとしてステージに立ったホールジー

 その後も、「Graveyard」、「Colors」、「Hurricane」とこれまでのキャリアを振り返るようなセットを披露していくホールジー。「Hurricane」のパフォーマンスではステージがブラックライトで照らされたのだが、この日ホールジーが着けていたウィッグはブラックライトで光るというものだったようで、暗闇のなかでライトグリーンの髪に光が灯っていたほか、オレンジのアイメイクも同じくブラックライトで光る仕様のもの。シアトリカルなステージへのこだわりは、ヘアメイクにまで徹底されていた。

画像1: Jasmine Safaeian - Photographer
Jasmine Safaeian - Photographer

 「みんなは誰のものでもない。自分のものでしかないんだよ。だから私はこの曲が大好き」と「Hurricane」を締め括ったホールジーは、ギターを手に持ち、ロックへと方向転換した『イフ・アイ・キャント・ハヴ・ラヴ、アイ・ウォント・パワー』より「You Asked for This」と「The Lighthouse」をパフォーマンス。この日のセットではいくつかの曲でホールジーが自らギターを弾いていたが、バンドをバックにギターを掻き鳴らすホールジーの姿は、まさにロックバンドのフロントマンそのもの。

 「ありがとうございました!」と明るく日本語で感謝を伝えた後で、「まだ終わりじゃないけど(笑)。だからまた終わった後にきちんとお礼を言うね」と、お茶目な側面も覗かせたホールジーだが、続けて「Bad At Love」をパフォーマンスする時には、すぐさま表情を切り替えて、「恋愛は得意じゃない」と吐露する楽曲のモードに入れてしまえるのだから、さすがとしか言いようがない。楽曲に綴った“憤り”や“怒り”、“悲しみ”と、等身大のアシュリー・ニコレット・フランジパーネ(※)が感じているファンの前でライブできることの“喜び”という、相反した感情を一瞬にして切り替えられるところにパフォーマーとしてのホールジーのすごさがある。

※ホールジーの本名。

画像2: Jasmine Safaeian - Photographer
Jasmine Safaeian - Photographer

 火花も使った「3am」の演出でオーディエンスの盛り上がりをさらに高めた後で、最新作の楽曲をここ日本でパフォーマンスできるのは「夢のよう」だとホールジー。というのも、最新作には日本に滞在していた時に抱えることになった感情を落とし込んだ楽曲がいくつも収録されているそうで、続けて披露された、女性とのキスについて歌った「Honey」もそうだという。自身が経験した赤裸々なストーリーを楽曲でシェアしてくれるのもホールジーの魅力だが、この「Honey」のパフォーマンスでも、タイトルであるハチミツを味わうように指を舐めるような仕草を見せたり、続く「Gasoline」でもタイトルに合わせたように炎を上げたりと、そうした楽曲の世界観を再現することには余念がない。

画像3: Jasmine Safaeian - Photographer
Jasmine Safaeian - Photographer

 「ここでカバーを1曲やってもいい?」と確認した後でホールジーが披露したのは、Netflixオリジナルシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4で使われたことで世界的にヒットしたケイト・ブッシュの「Running Up That Hill」。グロテスクでホラーな映像がバックに使われることが多かった今回のホールジーのセットに『ストレンジャー・シングス』はぴったりだと言えるし、「お気に入りの1曲」だとホールジーが話すこの曲のテーマは、ホールジーが自身の楽曲でもたびたび訴えているジェンダー差別について。様々な意味でホールジーらしいチョイスだと言えるこの曲を、『ストレンジャー・シングス』を思い起こさせる青と赤のライティングに照らされながらパフォーマンスした。

 他のアーティストの楽曲を違和感なく自分の世界観に迎え入れてしまえるホールジーのパフォーマーとしての才能や、タイムリーにこの曲をセットリストに組み込んでみせるその抜群の反射神経に圧倒されていると、ここで「みんなロックショーに来たんでしょ?」とホールジー。自身の現在地がロックにあることを改めて提示した上で、「じゃあ、1曲あげるよ!」と伝えて、観客のハンドクラップを煽って披露したのは、ホールジーの歴代の楽曲のなかで最もエネルギッシュな「Experiment on Me」。DC映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』に提供したこの曲を、熱量が下がることのなかったライブの終盤までどこにそんな余力を残していたのかと思ってしまうほどの強烈なシャウトと共にパフォーマンスすると、オーディエンスからはこの日一番とも言える歓声が上がった。

画像4: Jasmine Safaeian - Photographer
Jasmine Safaeian - Photographer

 観客に余韻に浸らせる間を与えることなく、「また同じようなサウンドだよ」と立て続けに披露されたのは、ホールジー最大のヒット曲の1つである2018年リリースの「Without Me」。紙吹雪もあがった演出で最後まで観客を楽しませた後で、この日最後の楽曲として「I am not a woman, I'm a god」をパフォーマンス。最後は「ありがとうございました!」と改めて日本語で伝えて、「終わった後にきちんとお礼を言うね」という約束を守り、ステージを後にした。

 大ヒット曲である「Without Me」を最後の曲として選ぶこともできたはずだが、90分弱のセットを締め括ったのは「I am not a woman, I'm a god」だった。「女性じゃない、私は神」と歌うこの曲は、ノンバイナリーの人々が使用することの多い「they」というジェンダー代名詞をインスタグラムのプロフィール欄に記載しているホールジーが、“女性らしさ”を求められることや、他者が自分に抱くイメージへの反発を歌った1曲。

 フェミニズムのメッセージを掲げた「Nightmare」からスタートしたこの日のセットで一貫していたのは、自身が大切にしている権利や、自身の楽曲に載せたメッセージを忠実に届けようとするホールジーの徹底した姿勢。男性たちの性的な眼差しを皮肉ったような衣装も含めて、パフォーマンスを通じてそれをステージの上で完璧に体現してみせられるのがホールジーがヘッドライナーたる所以だが、最後の最後まで自分の姿勢をプレゼンテーションし、あらゆるレッテルを拒むように「I am not a woman, I'm a god」で“私は私!”と宣言してステージから去って行ったホールジーの姿は、あまりに神々しかった。

記事内のライブ写真を撮影したフォトグラファーのインスタグラムアカウントは以下の通り。
Jasmine Safaeian - www.instagram.com/yasi/
Peter Donaghy - www.instagram.com/donslens/

※公開後、表現を一部変更しました。

(フロントロウ編集部)

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