『GoT』の反省を生かした『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の200年前を舞台に、ターガリエン家やその側近達を描くスピンオフドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、8月22日にU-NEXTで配信開始。
『ゲーム・オブ・スローンズ』では様々なタイプの女性キャラクターが活躍したように、本作ではエマ・ダーシーが演じるレイニラ・ターガリと、オリヴィア・クックが演じるエンアリセント・ハイタワーなどが主要キャラクターとなった。
一方で、『ゲーム・オブ・スローンズ』では、ソフィー・ターナーが演じたサンサ・スタークのレイプに代表されるように、性暴力のシーンや展開は非常に大きな批判を浴びた。物語のなかで性暴力が取り扱われる必要があることはあるが、演じる俳優たちや視聴者への悪影響を考えて、犯行の様子を実際に描かなければいけないかについては議論が起こってきた。そして、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の制作陣は、描かないことにしたよう。脚本家でエグゼクティブプロデューサーのサラ・ヘスが、米Vanity Fairでこう明かした。
「このドラマで性暴力は描かないことを明確にしておきたいと思います。画面上では描かれない1つの事例があり、それによるその後の様子や、被害者への影響、加害者の母親を見せます」
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は家父長制を描く
暴力の直接的なシーンがないからといって暴力が存在しないわけではない。サラは続けて、本作がフォーカスした物事についても説明。家父長制のなかで生きる女性が描かれるという。
「私たちのドラマがしていること、そして私が誇りに思っていることは、家父長制の中に備わっている女性への暴力に集中すると決めたことです。“歴史的”、もしくは歴史が基となっているドラマで、女性が“そう望んでいた”としても、同意ができる年齢ではない女性との性的関係や婚姻関係にある、権力を持つ男性をロマンチックに描いた作品は多くあります。
私達はそれをカメラに収めましたし、ドラマの前半では女性主人公2人が、成人男性の意思に操られ、強制されているという事実をはっきりと描いています。それらのことは、必ずしもレイプ犯や暴力犯によって行なわれたわけではなく、多くの場合には、自分がしていることは相手にトラウマを与え、抑圧することだと理解できる善良な男性によってなされます。なぜなら、彼らが生きる社会システムはそれを普通のことだとしているからです。それはレイプほど分かりやすくはないですが、異なる方法で同じようにずる賢いでしょう」
彼女の発言からは、本作が現代社会にも繋がる社会構造的問題を鋭く突いた作品になっていることが期待される。また、HBOのコンテンツチーフであるケイシー・ブロイズは米THRで、「ドラマはその時代の産物です。今では、自分たちが何を描き、それはなぜなのか、そして誰がその会話をしているのかについて、私達はより自覚しています」と話しており、“誰がその会話をしているのか”という言葉からは、男性目線で女性を描くことから脱却しようとしている姿勢がうかがえる。
また、『ゲーム・オブ・スローンズ』では監督を務め、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』ではエグゼクティブプロデューサーとなったミゲル・サポチニクは、制作にあたり、妻であり、制作会社のエグゼクティブであるアレクシス・ラベンのアドバイスがあったと、英Empireで明かした。
「妻にある日、『これが2人の女性主人公についてだったら、そして家父長制における女性への認識や、彼女達は、女性が権力につくよりも自分達を破壊するという事実にフォーカスしたら、かなり興味深くなるのに』と言われました」
ミゲルは、この視点はそれまでの自分にはなかったものだと認め、現代でドラマを作るうえで、そのアドバイスを受け入れたという。
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』にセックスシーンはある
性暴力のシーンはないという『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』だが、セックスシーンはあるよう。デイモン・ターガリエンを演じるマット・スミスは英Rolling Stoneのインタビューで、こう話している。
「自分自身に対して、“僕達はさらに他にもセックスシーンが必要?”と問いかけていることに気がつきます。そして、“イエス、必要”だとなる。自分に、“僕は何をしているのか?原作を表現しているのか、それとも現代に表現するために原作(の中身)を薄くしているのか?”と問いかける必要があるかもしれませんね。僕は、原作で書かれたことを誠実に、正直に表現するのが仕事だと思っています」
『ゲーム・オブ・スローンズ』では、デナーリス・ターガリエンを演じたエミリア・クラークなどが不必要なヌードシーンが苦痛で泣いていたという過去を明かしており、セックスシーンの存在には不安も募る。しかし『ゲーム・オブ・スローンズ』と『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の制作局であるHBOは、2018年にセックスシーンで俳優を守る専門家のインティマシー・コーディネーターの起用を全作品で決定しており、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』では労働環境は守られたと思われる。
2011年から2019年にかけて放送された『ゲーム・オブ・スローンズ』。そのスピンオフドラマである『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が作られるまでには、制作陣の意識にも変化があったことが感じられる。その点からも、注目のドラマだと言えるだろう。
(フロントロウ編集部)