トールキン財団が全面協力、「発掘されるのを待っていたような物語」
J・R・R・トールキンによる『ホビット』や『指輪物語』の数千年前を舞台にした壮大なファンタジードラマ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』が、2022年9月2日からPrime Videoにていよいよ独占配信される。ピーター・ジャクソンによる映画3部作『ロード・オブ・ザ・リング』とは違い、本ドラマには原作となる小説はない。代わりに、本作ではトールキンが付属書などでその存在に触れた“中つ国第二紀”という時代を舞台に新しいストーリーを創造しているのだ。
プロデューサーのパトリック・マッケイが「発見され、発掘されるのを待っていたような物語なのです」としたドラマでは、著書を通して人間であることの意味をみつめたトールキンの精神を守りながら、自分が大切にするものを守るために人間はどこまでいくのかという質問を問いかけているそうだが、新しいストーリーを創造してはいるものの、トールキンの世界観に忠実であることにはこだわっているという。「私たちは、自分たちの仕事を考古学者のようなものだと考えています。なぜならこれは自分たちのストーリーではなく、他人のストーリーだから。私たちの役割は、自分のスキルを駆使して、そのストーリーを前進させ、管理し、導いていくことなのです」と語ったマッケイ氏。
トールキン財団から制作の許諾を取りつけたマッケイ氏は、トールキンの孫であるサイモン・トールキンをコンサルタントに置いたうえで、トールキンの世界観に詳しい学者や衣装デザイナー、方言のプロといったトールキンのエキスパートを多数起用。新生活を求める人間のハルブランドを演じたチャーリー・ヴィッカーは、「ダイアレクト(方言)コーチのリース・マクファーソンと一緒にハルブランドの声を開発しました。方言の指導をしてくれたのですが、声だけでなく、イントネーションや話し方のリズム、アクセントなどでもアドバイスをくれて、役を構築するプロセスにおいて不可欠な存在でした」と、役作りにおけるエキスパートたちの重要性を語った。
もちろん10億ドルをかけた作品なだけに、トールキン・ファンだけを意識しているわけではない。このドラマを通して新たにファンタジーにのめり込む観客が多く生まれるだろうと、エグゼクティブプロデューサーのリンジー・ウェバーは期待する。「この作品は、トールキン・ファンのためだけのものではないという点でも重要だと思います。衣装やセット、言葉の選び方など、細部にまでこだわりがあって、どこかに魅力や意味を感じるはずです。本を読んだことがなくても、映画を見たことがなくても、まったく問題ありません」。
ファンタジー作品における多様性を進展させる大作
ファンタジー作品は人気の高いジャンルでありながら、白人男性の冒険を中心とした設定や展開がメインとなりがちな、ステレオタイプが強いジャンルでもある。ドラマ『ホイール・オブ・タイム』がファンタジー大作としては珍しく有色人種をメインキャストに多く起用したことが話題になったのがつい昨年であることからも、他ジャンルに比べて多様性の進展はスローペースであることが伺える。『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』はこの点においてジャンルを大きく進展させる可能性を秘めている。
映画3部作『ロード・オブ・ザ・リング』はキャストの顔ぶれが白人ばかりだった独占したことで有名だが、ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』では多様なバックグラウンドを持つキャストを見つけるために、「グローバルな探求を行ないました」とマッケイ氏。「いくつかの役柄では、数千人の候補者を見ましたね」というオーディションは半年近くに及んだそうで、チャーリーは「7、8回はオーディションに呼ばれました。非常に過酷なプロセスでしたね」と振り返る。シングルマザーの母を持つテオ役のタイロー・ムハフィディンは、「オーディションテープを送ったけど返事がなかったから不合格だと思っていたら、急にエージェントから連絡を受けて、ショートリスト(候補者)に残っていると言われました。しばらくしたら突然ニュージーランドに飛ぶよう言われて、部屋でオーディションをして、スクリーンテストを少しして、その週には起用が決まっていたのです。だから決まるまではゆっくりだったものの、決まる時はものすごいスピードで決まりました」とコメントした。
そんなキャストたちの中でとくに注目を浴びているのが、女性のドワーフ、ディーサを演じるソフィア・ノンヴィート。トールキンの物語ではドワーフはよく知られたキャラクターだが、女性のドワーフは物語で言及されたことはあってもキャラクターとして登場することがなかった。女性のドワーフの登場には、本作がファンタジージャンルにおける多様性の遅れを進展させる姿勢が現れており、演じるソフィアは、「この作品は、私の娘や、私の娘のような人たちに、この規模のテレビシリーズを観たときに自分自身を投影できる世界を切り開いているのです。この作品はこれまでにないものです。私は女性として、娘を持つ者として、このような瞬間を創り出すことが私たちのクリエイティブな義務であると思っています」と言葉を強めた。
また、ドラマにはファンに馴染みのあるキャラクターも登場する。その一人が、映画『ロード・オブ・ザ・リング』でケイト・ブランシェットが演じたエルフのガラドリエル。演じるモーフィッド・クラークは、「ファンタジーはみんなのものであり、話すことはみんなのものです。違う時代ならば、こういった役を得る機会がなかったであろう人たちと働ける時代にいられることを本当に光栄に思っています」と、ドラマの多様性を誇らしそうに語った。
ちなみにモーフィッドとソフィアはぜひ日本に来たいそうで、モーフィッドは、「日本にぜひ行ってみたいです。すべての国に神話や逸話があり、人間の意味を示すヒントがあります。だからぜひそちらに行って(日本のストーリーを)経験したいですね」とコメント。ソフィアは、「来日は死ぬ前にしたいことリストに入っています。日本のみなさん、私たちをぜひ呼んでください!」と笑顔でシャウトした。
大型契約の背景にあった“同意” 「映画とテレビの区別がなくなりつつある」
ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』はトールキンの大ファンであるAmazon CEOのジェフ・ベゾスの後押しを受けて5シーズンという壮大なスケールでの制作が決まっている。エグゼクティブプロデューサーのリンジー・ウェバーいわく、ハリウッドでも5シーズン契約は「異例」だそうだが、「それはアマゾンとトールキン財団のあいだで同意されたことで、中つ国という壮大なキャンバスを埋めるためにはこのスケールでのストーリーテリングが必要だと全員が同意した」結果なのだという。
現時点で制作が決定しているのはシーズン2までで、シーズン1は全8話(1話1時間)となっている。プロデューサーであるマッケイ氏とウェバー氏は普段は映画で活動しているクリエイターたちだが、テレビシリーズという新たなプラットフォームでの制作はどうだったのか?
「長編映画とテレビの区別がなくなりつつあるエンターテインメントの新時代の恩恵を受けられていることは非常に幸運だと思います。長編映画を観たときに得られるような視覚的な想像力の広がりと幅を持ちながら、テレビシリーズのタイムスケールの中で物語を語る機会を得られたわけですから」とウェバー氏。マッケイ氏は、「2時間構成の長編映画は最初と最後の物語が決まっています。今回のような1時間ごとのエピソードはまったく異なる構造で、あらゆる新しいアプローチの仕方やストーリーの紡ぎ方が可能です。数え方にもよりますが、劇中には5つか6つの世界があります。ある世界から別の世界へと自由に行き来できることは、作家としての新しい遊び場のようなものでした」とつけ加えた。
Prime Videoで独占配信されるドラマ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』は、第1話と第2話が2022年9月2日(金)AM10:00より一挙配信。その後は毎週金曜日PM1:00に新エピソードが追加され、最終話となる第8話が10月14日(金)PM1:00に配信開始となる。(フロントロウ編集部)