誘拐犯に負けなかったアン王女
英国王室の故エリザベス女王とフィリップ王配には4人の子どもがいるが、第2子であるアン王女はたった1人の娘。そんな王女が誘拐されそうになった事件が、1974年3月20日に発生した。
この時、アン王女は最初の夫マーク・フィリップスと結婚したばかりの新婚で、あるチャリティイベントに出席した後にバッキンガム宮殿へ帰路についていた。その道中で突然、ある1台の車が王女たちの乗ったロールスロイスの行く手をふさいだ。
そしてその車の運転手であった26歳のイアン・ボールは、車を降りて王女たちの方へ向かい、運転手やガードマン、そして現場に居合わせたタブロイド紙の記者に発砲!(※3人に命にかかわるケガはなかった)。フロントシートに乗り込んだ犯人は、アン王女に車の外に出るよう脅迫したが、そこで王女が返した言葉は…?
「ありえない(Not bloody likely)」
母エリザベス女王と同じく、強い女性であるアン王女の毅然とした態度。さらに、1980年に行なわれたマイケル・パーキンソンによるインタビューでは、当初は犯人に対して丁寧な態度で接していたが、ある瞬間から“ブチギレた”ことを明かし、会場を笑いの渦に巻き込む才能も見せていた。
「私はあえて非常に礼儀正しく対応していましたよ。その時点では、無礼にふるまうのはまだバカバカしいことのように思えましたので」と話す王女。しかし、犯人が拳銃を持っていることを知らなかった巡回中の警官が犯人に近づき撃たれるなかで、車のドアを閉じることに成功するも、またドアを開けられと、バタついたという。そんななかで、王女の着ていたドレスが破けてしまったのだそう。それによって王女は?
「私の着ていたドレスの後ろが上から肩にかけて裂けてしまったんです。その瞬間が彼にとってもっとも危険な時だったのではないかしら(笑)。そこで私の堪忍袋の緒は切れましたので」
王女が着ていたドレスは、それはそれは素敵なものだったのだろう。ちなみに、2020年に放送されたドキュメンタリー『Anne: The Princess Royal at 70』のなかでは、趣味の乗馬やスポーツでは予期せぬ問題が起こることを想定して、準備に取り組むことが必要とされるため、そのトレーニングが役立ったのではないかと分析している。
アン王女誘拐未遂事件、通りがかったアマチュアボクサーが活躍
アン王女の誘拐未遂事件は、偶然通りがかったアマチュアボクサーのロニー・ラッセルの活躍によって幕を閉じた。彼は犯人の頭を殴り、地面に抑えつけた。イアンは現場から逃げたが、すぐに警察によって逮捕された。
犯人は王女を誘拐し、エリザベス女王に当時の金額で200万ポンド(約3億円)の身代金を要求しようとしていたという。事件では合計で4名が犯人に撃たれ、犯人は精神病院で終身刑に処すことになった。
また、撃たれた4人に女王はメダルを授与。女王は、「このメダルは女王から贈られたものです。しかし私は、アニーの母親としてあなたに感謝したい」と話したという。
ちなみに、ロニーは2020年にメダルをオークションに出品し、プライベートコレクターによって5万ポンド(約800万円)で落札された。また、メダルを出品した際に初めて、彼は自身の住宅ローンも女王がすべて払ってくれたことを明かした。
(フロントロウ編集部)