キャリー・マリガン主演でエメラルド・フェネル監督が手掛け、第93回アカデミー賞脚本賞に輝いた見事なストーリーラインを誇る映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』。本作には女性なら共感する“あるある”がいっぱい! どんなものがあった?(フロントロウ編集部)

 【※以下ネタバレなし】

酔ってたらイケる…って、そんなワケないだろ

画像: 酔ってたらイケる…って、そんなワケないだろ

 主人公のキャシーは、酔った女性を狙ってセックスをしようとする男たちをターゲットにして復讐をしている。キャシーがそういった男をターゲットにして復讐を繰り返せるということは、それだけそういう男がいっぱいいるということ。“酔った女性を狙う男”は、あるあるすぎてスルーしそうになるほどのあるある。

ストリート・ハラスメント

 道端で性的なヤジを飛ばされる。キャシーの場合は朝帰りを揶揄されたが、普通に毎日道を歩いているだけで男性から性的な言葉を叫ばれることはある。道で性的な言葉を投げかけたり、何かしらの性暴力に及んだりすることは“ストリート・ハラスメント”という名前があるぐらいにあるあるで、2020年には化粧品ブランドのロレアル パリがストリート・ハラスメント撲滅のためにキャンペーンを行なったほど。

 そのキャンペーンのSTAND UP Against street harassmentによる調査では、78%もの女性が公共の場で性的嫌がらせを受けた経験があると分かった。

「女だろ?にっこり笑え」

 これは、ストリート・ハラスメントを受けたキャシーが、無言で男性たちのほうを向いていたら言われた言葉。さらには、「冗談通じねえのか」という言葉も。女性はいつでもニコニコしていることを求められるし、嫌がらせに声をあげるどころか、嫌がらせ=面白い冗談として受け入れないとキレられる。

女性でも敵になることはある

画像: 女性でも敵になることはある

 ニーナの味方をしなかった人たちには、女性もいる。マディソンや、その仲間。これだけ多くの人間が生きている社会において、性別によって全員が団結できると思うほうがナンセンスというもの。

 でも、監督はこれによって、やっぱり女の敵は女なんてアホらしい主張にはしていない。マディソンの言動からは、彼女が男性の価値観を通して、自分も含めた女性の価値を計っていることが分かる。それは、この男性優位社会の産物というもの。

性暴力被害はもみ消される

 性暴力被害において深刻な問題の1つに、被害者に口を閉じるように求める抑圧が大きくのしかかることがある。英RapeCrisisによると、2021年に警察で“記録”されたレイプ事件は100件につきたったの1件だった。さらには、まずもって被害に遭った女性の6人中5人は警察に通報していない。

 自尊心を踏みにじられた事件の後に警察に足を運ぶということの心理的ハードルが高いことはもちろんだが、ニーナのように、大学や弁護士といった権力者から被害の訴えを取り下げるよう要求されたり、セカンドレイプに遭ったり、被害者が自分が悪かったと思わされることが多いのが大きな要因の1 つ。

 通報される件数がかなり少ないのに、記録される件数はさらに少なく、そして性暴力に関する裁判は加害者が有罪判決を受けることがかなり少ないことで知られている。

「あんた自分の顔分かってんの?」

 女性はファッションやメイク、スキンケア、体型など、気にしなければいけないとされていることが大量にある。でも、それらを気にしてないであろう男性が、女性を上から目線でジャッジしたり、酷い言葉を浴びせたりすることは多い。酔ったフリをしたキャシーが言った「あんた自分の顔分かってんの?」という言葉、言いたくなったことがある女性は多いはず。

加害者やその仲間は覚えてない

 あとあとになって出てきたニーナの動画。マディソンたちは、それまで忘れ去っていた。被害者には一生消えない記憶と経験が残るのに、加害者たちは覚えていない。

画像: 加害者やその仲間は覚えてない

「彼女もソノ気だった」

 酔っていて、判断が出来るような状態ではなかったニーナに性暴力をしたアル。本来だったら急性アルコール中毒になっていないかと心配すべき相手を前に、性行為をしようと思うことすら異常だが、さらにそれを後から問われたときに「彼女もソノ気だった」と言う。これは、加害者の発言としてよく聞く言葉

加害者がいつまでも被害者意識

 アルが、「あんな告発は男にとって地獄の悪夢だ」と言うシーンがある。相手への謝罪ではなく、自分のほうがむしろ被害者だとする主張は、これまでに性暴力で告発されてきた加害者たちの態度にも共通するところがある。

「あなたにこそ彼女の名がついて回るべきだから」

 被害に遭ったあと、被害者であるニーナには加害者であるアルの名前がついて回り、罪をもみ消したアルにはニーナの名前がついて回らなかった。親友を思うキャシーの怒りは辛い。

 犯罪がバレなかったり、逮捕されなかったり、不起訴になったり(※不起訴は無罪だったということではない)することが多い性犯罪では、その加害者は何食わぬ顔で生活していける。そして、アルの犯罪行為を知っている大学内であっても、彼にはニーナに対する加害者であるイメージがついて回らなかったのはなぜなのかは考えるべき。

 【※以下ネタバレあり】

信じていた男性に裏切られる

 ニーナをレイプして、結果的に殺したのはアルだが、本作の悪役はボー・バーナムが演じたライアンだと言える。彼の存在こそが、本作が誇る徹底したミソジニー描写の真骨頂。

画像: 信じていた男性に裏切られる

 ライアンは、人に心を閉ざしたキャシーにもゆっくり寄り添ってくれるし、彼女の心の傷も包み込んでくれるし、ゲイルにも両親にも優しい。本当に“良い人”。しかし最後の最後で、ニーナが被害に遭っている時に動画を撮影していたことが明らかになる。

 自分に対しては良い彼氏だったり、父親だったり、兄弟だったりする人物が、他の女性には、性暴力ではなくとも、差別的な行動や発言をする。そんな裏切りの絶望を経験している女性たちがいる。

 バチェラーパーティーでのアルも、最初から最後まで婚約者のアナスタシアのことを気にかけ、キャシーがストリッパーのフリをして来た時には拒否感を示し、キャシーを殺した後には「アナスタシアに愛想をつかされる」と悲しむ。アナスタシアは彼に溺愛されていたけど、彼がしてきたことを知ったら、彼女も“よくある絶望”を経験することになるんだろう。

ボーイズクラブの存在

 アルの親友であるジョーの存在は、ホモソーシャルにおけるボーイズクラブが社会でどのような機能を果たしているか理解させる。

 ホモソーシャルとは、同性同士、とくに男性同士の繋がりのことを指す言葉で、ボーイズクラブは男性だけのグループのこと。単に男性だけというより、女性を意図的に排除しているニュアンスを含む。

 アルはバチェラーパーティーでストリッパーが来てもバレないと言い、殺人すらも隠させる。権力・特権を持つ男性たちだけで構成されたグループが多くの問題を起こし、しかし問題をその中に隠してきた社会構造が、現代社会を形作っていると映画は伝えている。

性暴力に抵抗することは命をかけることになりえる

 キャシーが殺されるというのは、衝撃の展開だった。しかし、性暴力に抵抗することは、命を落とす可能性すらある行為なのだ。例えば、元TBS記者である山口敬之に性的暴行をされた伊藤詩織さんは、様々な人から脅迫を受けたことを明かしている。自衛隊内で起こっている性暴力を告発した五ノ井里奈さんも、殺害予告を受けたという。

 また、レイプの末の殺人という事件も多く発生しており、性暴力に抵抗すること、声を上げることはどれも危険が伴う。女性が身を守るようにと指示されることは多いが、殺される可能性もあるため、男性が犯罪を起こさないように指導する必要がある。

画像: 性暴力に抵抗することは命をかけることになりえる

性暴力被害に遭い、死を選ぶ女性は少なくない

 アルから性暴力に遭い、その後セカンドレイプにも遭ったニーナは死を選んだ。

 苦しい現実だが、レイプ被害に遭ったことで自殺を選ぶ女性は少なくない。米RAINNによると、レイプ被害に遭った後で自殺を考えたことのある女性は33%。自殺を試みた女性は13%。

 また、被害によって精神的な後遺症を負い、仕事が出来なくなり、生活が難しくなる女性もいる。レイプ被害から2週間以内にPTSDの症状を経験した女性は94%にのぼり、被害から9カ月以内では30%となる。さらに、性暴力の被害者はそうでない人に比べて、マリファナを使う確率が3.4倍、コカインを使う確率が6倍、そしてその他の有名な薬物を使う確率は10倍になる。

 性暴力は被害者家族にも影響する。現実でレイプ被害に遭い、その後非常に深刻なセカンドレイプにも遭いながらも、学校での性暴力を防ぐことを目的とした非営利団体SafeBaeの発足に関わったデイジー・コールマンは、2020年8月に23歳で自ら命を絶った。そして、その母親であるメリンダ・コールマンも約4カ月後に自殺した。

 フェネル監督は本作について、「キャシーには他の選択肢がいくつも差し出される。彼女が過去を手放しさえすれば、すてきな人生を歩むこともできる。でも彼女は断固としてつらく厳しい道を選ぶ。つらい生き方だけど、私たちには彼女の気持ちが分かる」と語っていた。そう、私たちには彼女の気持ちが分かる。

(フロントロウ編集部)

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