実在した女性の戦士軍を描く『The Woman King』
『オールド・ガード』のジーナ・プリンス・バイスウッド監督がメガホンを取り、『マ・レイニーのブラックボトム』のヴィオラ・デイヴィスが主演を務めた映画『The Woman King(原題)』が非常に高い評価を受けている。
本作は、アフリカのベナン共和国にかつて存在したダホメ王国で活躍した女性だけの戦士軍アゴジエ(Agojie)の物語。実在した最強軍隊だが、知っている人は少ないのでは? また、本作は奴隷貿易という暗い歴史も取り扱っている。
「黒人」「女性」だけのアクション映画はこれまでになかった
そんなかっこ良い戦士たちが実在していたのなら、これまでに彼女たちをモデルにした作品が多く作られていても不思議ではないにもかかわらず、大作は作られてこなかった。それはやはり、彼女たちが「女性」で「黒人」であることが大きな理由としてあるだろう。本作は2015年から計画が進められてきたが、7年後の今年2022年に遂に公開となった。
しかし、ここまで聞いて1つの大ヒット作の名前が頭に浮かんだ人もいるかもしれない。マーベル・スタジオによるMCU映画『ブラックパンサー』は黒人による黒人のための作品が遂に制作されたとして非常に重要なものだが、本作に登場する女性たちの軍隊“ドーラ・ミラージュ”は女性の戦士たちからなる。そして何を隠そう、彼女たちはアゴジエがモデル。そして『ブラックパンサー』の商業的大ヒットは、本作が製作され、公開される後押しをしてくれたという。監督は米Colliderのインタビューで、感謝の思いを語っている。
「『ブラックパンサー』の成功は、『The Woman King』が作られるためのドアを開けてくれたと信じています。本作の製作は『ブラックパンサー』の公開前から進んでいましたが、ゴーサインは出ていませんでした。『ブラックパンサー』がすべてを変えたのです。ビジネスを、文化を、価値観を。私たちの物語の価値を示し、観客も足を運んで、私たちの物語を見てくれると証明した」
一方で、『ブラックパンサー』においてアゴジエがモデルの戦士たちが描かれたことで、『The Woman King』の製作を担ったトライスター ピクチャーズのニコール・ブラウンには焦りもあったと、米THRで認めている。しかし『ブラックパンサー』はアメコミ原作のファンタジーであり、本作は史実に基づく作品であるため、問題はないと感じたという。
“黒人のなかでも肌が黒い”女性俳優たちが集結
本作では、ヴィオラやラシャーナ・リンチ、シェイラ・アティムといった黒人のなかでも肌の色が暗めの女性たちが集まっており、これもまた特筆すべきポイント。白人優位社会では肌の色が白いほうが良いとされているため、黒人同士であっても肌色の濃淡で差別しあう「Colorism(カラーリズム)」という悲しい問題が起こっている。そのような社会では、肌色が比較的明るい黒人俳優のほうが受け入れられやすいという現実がある。
しかし本作ではダークスキンと呼ばれる、肌の色合いが濃い女性たちが集結した。ヴィオラは米THRでこのようなコメントを残した。
「本作について私たちが愛している部分は、ハリウッドを怖がらせるものでもある。それは異質で、新しい。私たちは、そこに大スターが、男性の大スターがいないかぎり、異質で新しいものは求めないことが多いです。『The Woman King』にはそれがなかった。(ハリウッドは)可愛く金髪の女性、もしくは可愛く金髪に近い女性であれば前向きになるでしょう。本作の女性たちは(肌や髪の色が)ダークです。そして彼女たちは男性たちをぶちのめします。だから、そういうことです」
スタッフにも多くの女性を起用
本作では俳優はもちろんのこと、監督からプロデューサー、撮影監督、衣装デザイナー、プロダクションデザイナー、VFXスーパバイザーなど、ほとんどの部門のトップに女性が起用された。これは、監督が前作『オールド・ガード』から力を入れていることで、『オールド・ガード』ではポストプロダクションのチームの85%が女性だった。監督は当時、THRのインタビューでその意図について語っている。
「才能のある女性達の履歴書を見ていると、同じような立場の男性達ほど経験豊富ではない。しかし私は、それが才能によるものではないと知っています。それは機会に左右されるんです。自分が行なっていることにとても向いているのに、チャンスを得られてこなかった女性は、とても多くいます」
作品の中でも外でも、女性たちが尽力した。もう女性たちの勢いを勝手に止めないでほしい。このまま多くの女性たちが自由に大暴れする姿をスクリーンの中でも外でも見続けたい。
(フロントロウ編集部)