A24 × アレックス・ガーランド監督による新作映画
『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』を手掛け、クオリティの高い映画製作に定評のあるアメリカの配給会社「A24」とSFスリラー『エクス・マキナ』でアカデミー賞®️視覚効果賞を受賞したアレックス・ガーランド監督による究極のタッグで完成した映画『MEN 同じ顔の男たち』。
夫の死を目撃してしまった女性ハーパー(ジェシー・バックリー)が心の傷を癒すため、自然あふれる美しいイギリスの田舎街を訪れ、豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリー(ロリー・キニア)に歓迎されるのだが、少年、牧師、そして警察官など、そこで出会う男たちが全員、ジェフリーと全く同じ顔をしているという不穏な物語。
ハーパーが出会うのは、主演のジェシー・バックリーが「男のアーキタイプ(原型)とでもいうべき男たち」と言う男性たち。女性性、男性性、そして男女の関係性について訴えている本作について、「ホラーというよりは、非常にピュアな映画だと思った」と興味深い考察をするジェシーのインタビューをフロントロウ編集部がウェブ独占で解禁。
ジェシー・バックリー、「こういう脚本には滅多に出会えない」
——この映画に出演したいと思った理由は何だったのですか?
ジェシー・バックリー(以下J):「脚本を読んで…..アレックスは3日くらいで書いたのではないかと思うけど、それがあまりに素晴らしいものだった。こういう脚本には滅多に出会えない。何より、自分がすぐに答えられないような、非常に大きな質問を投げかけているように思えたことが好きだった。それからアレックスはこれまでにも、非常に大胆で、興味深くて、映画的に美しい作品を手掛けてきた監督だと思う。だから彼と仕事できるというだけで、すごく嬉しかったし、彼の世界観が探求できるのも好きだった。うん、つまり脚本が素晴らしかったし、参加している人たちも素晴らしかったから、この作品に出演するというのは簡単に決められた。私は実はホラー映画は大嫌いで、ものすごく怖がりなんだけど(笑)。でも、この脚本を読んでいる時にホラーというよりは、非常にピュアな映画だと思ったし、包み隠されていなくて、非常に澄んだ作品だと思った。アレックスに実際に会ってみたら素晴らしい人だったし。すぐに意気投合して、出演することになった」
——撮影中はどんな雰囲気だったのでしょうか。やはり不穏な精神状態にならざるを得なかったわけですか。
J「いいえ、楽しい時間を過ごしました。撮影現場にもすぐに馴染めたし。アレックスは俳優と密にコラボレートをする監督で、俳優やスタッフ、プロダクション・デザイナーをはじめみんなが、プロジェクトに深く身を投じることを願う監督。とくにこの映画ではハードなシーンや奇妙なシーンがあるから、みんなエキサイトしていた」
——非常に現実的な設定と非現実的な設定の中で、恐怖感を演技することについて。
J「うーんよく分からないな。ただやっただけで、本当に自分ではうまく言葉で説明できない(笑)。共演者のパーパとかロリーが素晴らしいから、その場で一体何が起きるのか見てみようという感じて演じたものだった。その場の経験以上のものを考えて表現しないようにした。観客が体験しているように自分もその場を体験しているものとして演じようとした。パーパとのシーンの撮影は、この映画の撮影の最後に行われたもので、田舎のシーンで、全てを体験した後に、あのシーンを撮影したのが、すごく面白かった。きっかけとなることをある意味最後に撮影したことになるから。つまりそれは、彼女が折り合いをつけようとしていたことであり、または彼が折り合いをつけようとしていたこと。だけど、それをどうやって演じたかは、うまく説明できないな」
——役柄をあなたなりにどのように理解して、この作品に挑みましたか?彼女は自分がやっていることは正しいのだと常に分かっているように見えましたが。
J「彼女は自分がやっていることは絶対に正しいのかどうかは分かっていなかったと思う。彼女は、自分の中のモンスターと対面しなくてはいけないような場所に自分の身を置きながらも、同時に彼女の人間関係が終わりを迎える中でのモンスターとも対面しようとしている。彼女がいかにしてその苦痛と向き合おうとしたのか、彼がいかにしてその苦痛と向き合おうとしたのか。さらにその苦痛が実際の死によって、いかに苦痛を増加させたのか(笑)。彼女は、自分が正しかったのかどうかは分かっていなかったと思うけど、でもそれと対峙する心の準備はできていたと思う。最も怖いことってそれと対峙するということだと思うから。”男たち”との関係性、愛との関係性、彼女自身との関係性、そして世界との関係性についてね。彼女は最後の最後まで自分については確かではない。最後の最後に、愛について訊かれた時に、『そう』と答えるまでね」
——恐ろしいのは、それぞれの男性が、タイプは異なりながらも彼女に対してとてもアグレッシブで男尊女卑的だという点です。彼女を取り巻く人間関係についてはどう思いますか。
J「そうね、わたしにとって興味深かったのは、そもそもなぜ、どのようにしてこんな事態になったのかを考えることだった。カップルの関係がどのように崩れ、喪失がどんな影響をもたらすか。人によっては苦しみがどんどん増していって、それが周囲や、コミュニティに反映される。その後の人間関係に影響をもたらすこともある。毎日その痛みを抱えながらやっていかなければいけない。そしてそれでも生きることを選ばなければならない、真実や誠実さに向き合いながら。たとえそれが彼女にどんな恐怖をもたらすとしても。それは興味深いことだし、愛、喪失、そういったことは誰にでも起きるものだと思う」
——彼女はなぜさほど罪悪感を感じなかったと思いますか? 愛する人を死なせてしまったことに対して、本来ならもっと罪悪感を持ちそうですが。彼女がそれに対してどう感じているのか、あなたの見方はいかがですか。
J「もちろん罪悪感は持っていると思う。人が生きる上で、痛みや激しさを感じずにいることはできない。愛する人を失ったこと、そしてその原因を作ってしまったことに対する罪悪感はある。でも彼が持っていた罪悪感まで背負うことは彼女にはできない。それは彼女の問題ではないから。でもだからといって、彼女が痛みを持っていないわけではないわ」
——ロリーが異なるキャラクターに変身するのを目撃していかがでしたか。
J「毎回ロリーが異なるモンスターになって撮影現場に来るのは見ものだった。“ジェフリー”はみんなから愛された。ロリーもジェフリーを愛していた。彼はとってもユーモアがあるから、ジェフリーもユーモラスなキャラクターだった。でも“グリーンマン”がセットに来たときは、みんな彼を避けていた(笑)」
——映像もとても印象的ですが、撮影前はどんな映像になるか、監督から説明などはありましたか。
J「とくには。アレックスは子供の頃、自然のなかで育ったから、自然の風景が1つのキャラクターであり、大きな構成要素であり、どこか自然のパワーが感じられる。こういう世界を観るのはとても魅力的だわ。今まであまり観たことがない。どこか英国的な名残が感じられる」
——あの家は貸し出されているのですか。
J「今はもう誰も借りないんじゃないかな(笑)でも映画を観たら、度胸試しで借りたがる人が出てくるかも(笑)」
——監督としてアレックスを信頼できたのはどんな要素からでしたか?
J「彼は知的でヴィジュアル的にも傑出した作品を撮る監督で、それこそわたしが一緒に仕事をしたいと思うタイプの監督だから。わたしは答えを与えずに問いかける作品が好きだし、彼は大胆で勇気があって、創造的な空間があり、一緒に何かを作り上げていくという意識が持てる監督。彼のような人と一緒に仕事ができるのは恩恵だと思う」
——ホラー映画でありながら、タイトルが『MEN』(=男たち)であり、1人の俳優がその男たち全員を演じていることに、すでに多くが語られていると思います。この映画で描かれている男性性、女性性に関する問題提起についてはどう思いますか?
J「そうだな。私も男性、女性として分けて対立させるのではなくて、男性との関係性を元にした探求をしたいと思っていた。この映画に登場する多くの男たちとの関係を元にね。ハーパーは、悲しみや苦痛と折り合いをつけたくてあの場所に行くわけだけど、同時に、彼女があの究極の状況の中で、失った男性との関係性とも折り合いを付けようとしていた。そしてそれはなぜだったのか、ということについてもね。そこから彼女は絶対に逃げようとはしなかった。実際は、そのために郊外へは行くわけだけど。でも、彼女があの家に行ったのは、そこで自分が最も恐れる苦痛と向き合おうとしたからだった。そしてそれと折り合いを付けようとしたからだった。その過程で、男のアーキタイプ(典型、原型)とでもいうべき男たちに出会う」
——ハーパーはあの家に入る前と、入ってからではどのように変わると思いますか?
J「それは全く分からないな(笑)。本当によく分からないの。自分の演じた役を客観的に見つめて語るのがすごく苦手だからね。でも人がどう思ったのかはすごく知りたいと思う。だけど、最後に彼女が言うセリフは、『私から何が欲しいの?』で、彼が、『愛』と言うと、彼女が『そうね』と答えることが、総括していると思う。それは、彼女は彼には与えられないものだから、彼女は、彼に与えられないものと折り合いを付けるわけ。彼はそれを自分で自分に与えなくてはいけない。私は役作りをする時、自分の思ったままに演じてみて、壁を色んな色でペイントするみたいな感じでね。それで後でそれがどう完成したのか見てみようと言うタイプだから。でも究極的に大事なのはやはり脚本であって、それが常に最初にあって。脚本の世界に自分が引き込まれたら、物語における自分のキャラクターの周りの世界が見え始める。そしてその世界の中で起きていることに自分がどのように反応するのかが大事となる。脚本を読んでいて自分の中から何かしらが生まれてくることもあるし、出てこない日もある。でも、そんな時でも、ロリーやパーパみたいな人と共演できるわけで、彼らは本当に最高で。とりわけロリーが一体どうやってあんなにたくさんの役を演じ切ったのかと思うと、想像すらできない。彼はすごく繊細で、かつものすごく詳細に拘った演技をして見せたと思うから。だから、彼1人で全ての”男たち”を演じているって思わないと思う。あまりに1人1人が特徴的で違うからね。つまり彼みたいな人が共演者だと私の演技が楽になる。彼の前に立って台詞を言うだけで良い。そこから何かが生まれてくるように思えるから。それからアレックスに関してもそうで。私たちは撮影が開始する2週間前からリハーサルしたから。みんながこの映画の制作過程の一部だったし、全員で作っていると言う感じがしていた。それは、カメラマンも、アレックスも、私も、ロリーも、パーパもね。全員がこの世界に引き込まれていた。そもそも自分1人だけでできることなんてないわけだしね」
——アレックスが言っていましたが、そのリハーサル期間に、ジェシーが言ったことで、脚本が変わったそうですね。
J「えっと、変わったところはひとつだけだった。それはthe vicarがバスルームにいるシーンで、私が初めてアレックスに会った時に、私が大好きな詩について語ったの。最終的には、the vicarがバスルームで言うことになる詩なんだけど。それが、すごく興味深い詩で(笑)。女性に恋をして、白鳥に変装するゼウスについて描いたもので、女性の名前は忘れてしまったんだけど….名前何だったかな?(*レーダー)とにかく、でも攻撃にあい、街が燃えて崩れてしまい、しかし、その女性は妊娠して、”トロイのヘレン”を出産する。それでこの暴力と攻撃によるトラウマから、より大きくて、強いものが生まれてくる。それに私は感動したからアレックスに伝えたの….今あまりうまく説明できなかった気がするけど(笑)」
——映画全体のテーマについてはどう思いますか?監督は、観た人の経験や思想によってこの映画は違うものになると思うと言っていましたが。
J「えっと、この映画は、男性と女性にとって人間関係というものが何なのかという問いかけをする作品であり、それからいかにして苦痛と向き合うのか、についてだと思う」
映画『MEN 同じ顔の男たち』は12月9日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開。(フロントロウ編集部)