環境、親子関係、多様性と、『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は『ベイマックス』で知られるドン・ホール監督が伝えたいメッセージの盛り合わせ弁当のような作品になっている。(フロントロウ編集部)

メッセージ良し、レプリゼンテーション良し、可愛キャラ良し!な作品

 『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』の主人公はクレイド一家。伝説の探検家である父に反発するように冒険嫌いになった農夫のサーチャー、そんな彼と朝からイチャイチャする妻のメリディアン、冒険に憧れる息子のイーサンからなるクレイド家は、自分たちが暮らすアヴァロニアの生活を支える植物パンドの危機を救うために、アヴァロニアのリーダーであるカリストと一緒に“もうひとつの世界<ストレンジ・ワールド>”への探検ミッションに参加する。

画像1: メッセージ良し、レプリゼンテーション良し、可愛キャラ良し!な作品

 そんな彼らが旅する“ストレンジ・ワールド”は、一歩間違えれば悪夢スレスレという奇妙な夢から抜け出してきたような生物たちがうようよ登場するファンタジー空間。観ている時にジブリの世界観を思い起こさせられたが、実際、ドン・ホール監督は「特に宮崎駿さんの映画は僕の中ではとても大きくて、これまで観た中でも最も好きな映画作品なんです。確かに『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』の影響は大きくて、それらの作品を僕たちは観てきました。それから『もののけ姫』も大きな影響を受けた作品です」と、ジブリを中心に日本のアニメーションにも影響を受けたことを明かしている。

画像2: メッセージ良し、レプリゼンテーション良し、可愛キャラ良し!な作品

 ただ、ストレンジ・ワールドの本当の魅力は、この不思議な世界のビジュアル以上に、この世界に隠された秘密にある。映画では“環境”というビッグテーマをベースに、“次の世代に何を残してあげられるのか”という問いかけをしているが、最後にストレンジ・ワールドの真実が明かされたときには、それまでに見た不思議な生物や世界のひとつひとつがコマごとに頭のなかでリピートされ、「なるほど、そういうことか」とすべてが理解できるカタルシスがある。映画を観終わったときに、新たな視点が持てるような、世界観が変わる人は多いのではないだろうか。アニメだからできるファンタジーいっぱいの冒険ストーリーに、環境に対するメッセージを隠してどんでん返しストーリーにするというのは、監督としてはずいぶんな冒険だったがきちんと遂行されていると感じた。

 そんな『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は、ディズニーが推し進めようとしている多様性とレプリゼンテーションを有言実行した作品でもある。クレイド夫妻はインターレイシャル(※異人種)カップルで、息子のイーサンはLGBTQ+。ただ本作の素晴らしいところは、劇中でそれが分かりこそすれど本題ではないところ。3人のストーリーは、冒険における活躍や親子関係が本題で、人種やセクシャリティには依存していない。例えばクレイド夫妻を白人夫婦に変えても、イーサンをストレートの役に変えても、ストーリーには何も変化は起きないのだ。それこそ、適切なレプリゼンテーション(表象)ができている証拠だろう。

画像3: メッセージ良し、レプリゼンテーション良し、可愛キャラ良し!な作品

 そして、本作におけるイーサンの存在意義も特筆する価値があるだろう。10代の彼は、争いや勝ち負けよりも協力し合うことを大切にし、共感心と同情心が非常に強く、利益よりも正当性を支持する、Z世代の良いところを凝縮したようなキャラクター。ストレンジ・ワールドのなかではイーサンの自由で非利己的な行動力が探検チームをさまざまな局面へと連れて行き、彼こそが人類の未来へのキーパーソンとなっている。現実世界でもこれは同じ。大人が環境、政治、生活など多くの面で争っているなか、Z世代は地球や生活や権利を守るために歩むべき道をハッキリと大人たちに示している。イーサンというキャラクターには、制作陣が次世代に持つ尊敬と希望が感じられ、劇中のように大人たちがZ世代の声に耳を傾ければ、現実世界はきっとよくなるだろうという希望を持たせられる。

画像4: メッセージ良し、レプリゼンテーション良し、可愛キャラ良し!な作品

 最後に、環境とか、家族の在り方とか、多様性とか、すべて置いておいて、本作は謎の生物スプラットとクレイド家の愛犬レジェンドを観るためだけでも劇場に行った方がいいと言える。とにかく可愛いのだ。スプラットは効果音だけでなぜあそこまで可愛く感情表現できるのかとサウンド・エフェクトのクルーにハグしたくなるし、レジェンドは犬好きじゃない人も絶対「可愛い~」と言ってしまうだろう。そのうち2人主演でスピンオフ短編映画が作られてもおかしくない、というか作ってほしいほど最高のキャラクターだ。

画像5: メッセージ良し、レプリゼンテーション良し、可愛キャラ良し!な作品

 “圧倒的なストーリーテリングで、世界中の人々をエンターテインして感動させ、観客に新しい視点を与える”。そんなディズニーの精神がつまった『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』は上映中。

(フロントロウ編集部)

This article is a sponsored article by
''.