善意が通じると思ったら、命を落とす。そんな世界が、現実に存在する。
映画『アスファルト・シティ』は、ニューヨーク・ハーレムの救急医療の現場を舞台に、その“地獄のようなリアル”を真正面から描いた没入型スリラーだ。第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも正式出品された本作が、ついに6月27日、日本上陸を果たす。
主演は、名優ショーン・ペンと若き実力派タイ・シェリダン。人生を救うはずの仕事が、精神を破壊していく様を2人の名演がえぐり出す。ペン演じるベテラン隊員ラットは、もはや理想も信念も過去に置いてきた男。そこに現れた新人隊員クロスが見るのは、綺麗事では済まされない現場。ギャングの抗争、オーバードーズ、暴力、叫び声――どれもが“ただの日常”だ。
監督はジャン=ステファーヌ・ソヴェール。リアルに裏打ちされた緊迫感は、彼ならでは。原作は、実際に救急隊員だった作家による証言的フィクション。その記憶と記録の間を縫うように、本作は観る者を容赦なく引きずり込む。
90分という上映時間が短く感じるのは、スクリーンの中があまりに“現実”だからだ。映画館という安全地帯の椅子に座っていても、息をするのを忘れるほど緊張する。その体験こそが、『アスファルト・シティ』最大の魅力なのかもしれない。
