『ノーカントリー』でアカデミー賞助演男優賞に輝いたスペインの名優ハビエル・バルデムが、『007 スカイフォール』の悪役シルヴァ役のオファーを当初は断っていたことを明かした。考えを変えるきっかけとなったのは、サム・メンデス監督との話し合いだった。その際にハビエルが出した提案が、あの忘れがたい名場面につながっていた。(フロントロウ編集部)
「僕がボンド映画で何をするの?」
ハビエルが当時を振り返ったのは、現地時間10月11日、第70回BFIロンドン映画祭で行われたトークイベントでのこと。米The Hollywood Reporterによると、ハビエルはオファーを断った理由について「たぶん緊張していたんだと思う。『ジェームズ・ボンドの映画で僕は何をするんだ? 何ができるんだ?』という感じで」と話した。
ところが、メンデス監督と脚本を読み合わせるうちに気持ちが変わった。「サム・メンデスは天才です。彼は僕の提案にとても前向きでした。その提案というのが、あの男のセクシュアリティに関することだったんです」
世界を滅ぼす以外の“何か”
ハビエルがメンデス監督に持ちかけたのは、従来のボンド映画の悪役像を覆すようなアイデアだった。「これまでの悪役は、世界を破壊するためにあらゆることをしてきた。でも、もっと個人的な動機があってもいいんじゃないか? 世界を滅ぼすこと以外の何か。たとえば、彼がミスター・ボンドとセックスしたがっているとしたら?」
それを聞いたメンデス監督の返事は「スタジオと話して、また連絡するよ」。ハビエルはこのエピソードを笑いながら披露したという。こうして生まれたのが、椅子に縛られたダニエル・クレイグ演じるボンドの太ももを、シルヴァが意味ありげになでるあのシーンだ。
ハビエルは「スタジオはとても勇敢だった」と振り返り、「あのシーンが観客の記憶に残っているのは、少し踏み込んだからだと思う。ボンドを、それまで経験したことのない状況に置いて、居心地を悪くさせる方法だった。そこからの彼の切り抜け方が見事なんです」と語った。
ジュディ・デンチを前にセリフが飛んだ
撮影では、思わぬハプニングもあった。メンデス監督が初めて「アクション」と声をかけたとき、ハビエルは自分がボンド映画の撮影現場にいることを実感し、セリフを忘れてしまったという。
「サムに『カット! ハビエル、どうした?』と言われて、『ごめん、今気づいたんだ。ボンド映画に出ているって。ジュディ・デンチとジェームズ・ボンドがこっちを見ていて、うわ、僕はボンド映画に出ているんだ!って。すみません、もう一回やりましょう』と。とにかくうれしくてたまらなかったんです」
『007 スカイフォール』は2012年公開。ハビエル演じるシルヴァは、ジュディ・デンチ演じるMのかつての部下で、元MI6のエージェントという役どころ。危うい色気をまとった悪役として強い印象を残した。現在はシリーズ26本がPrime Videoで配信されており、あの場面を見返すにはちょうどいいタイミングかもしれない。
「オスカーの半分は彼のもの」
トークでは、アカデミー賞助演男優賞を受賞した『ノーカントリー』にも話が及んだ。ハビエル演じる殺し屋アントン・シガーが、ガソリンスタンドの店主にコイントスを迫る緊迫の場面について、相手役のジーン・ジョーンズを「僕のオスカーの半分は彼のもの」と称えた。わずか4分ほどの出演ながら、「恐れや不安、迷いを見事に演じているからこそ、あの場面が成立している」というのが理由だ。
俳優を目指す若者へのアドバイスを求められると、「別の仕事を選びなさい」と冗談を飛ばしつつ、「AIの時代だからこそ、感情を表現し、観客とつながることのできる仕事は大切に守っていくべきものだ」と続けた。
なお、この日は次のボンド役を誰が演じるのかという質問は出なかったという。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が手がける次回作をめぐってはさまざまな憶測が飛び交っているが、かつてボンドを苦しめた悪役を演じたハビエルが、次期ボンドについてどう考えているのかは、またの機会に明かされるかもしれない。




















