「もうゲイの役はやらない」
学園ミュージカルドラマ『グリー』でゲイの美男子高校生ブレイン役を演じて一躍ブレイクしたダレン・クリス。
ブロードウェイで培った確かな演技力と歌唱力を活かし、『グリー』以降も数々の幅広い役柄に挑戦してきたダレンだが、とくに話題を集めたのは、舞台『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で演じたトランスジェンダーのロックシンガー、ヘドウィグや、有名デザイナーのジャンニ・ヴェルサーチェ殺害事件の謎を追った実録犯罪ドラマ『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』で演じた同性愛者の連続殺人鬼アンドリュー・クナナンといった、同性愛を公表している人物の役柄だった。
『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』では、次々と男性たちを魅了していく実在した男娼クナナンを色気と狂気たっぷりに熱演し、第70回エミー賞のリミテッド・シリーズ部門で主演男優賞を受賞したほか、第76回ゴールデン・グローブ賞の主演男優賞にノミネートされるほど、同性愛者役の演技が高く評価されている。
しかし、ダレンは最近登場した啓発イベント『クロロックスズ・ホワッツ・カムズ・ネクスト(Clorox’s What’s Comes Next)』のパネルディスカッション中に、「今後は、もうゲイ役を引き受けるつもりはない」と発言した。
ハリウッドに根強く残る「ストレート・ウォッシング」
このダレンの発言の背景にあるのは、ハリウッド映画界に根強く残る「ストレート・ウォッシング(Straight Washing)」という問題。
「ストレート・ウォッシング」とは、昨今、人種差別的だという理由から批判の的となっている、本来ならば非白人が演じるべき役柄を白人が演じる「ホワイト・ウォッシング」と同様の原理で、同性愛者の役柄をストレート(異性愛者)の役者が演じるというもの。
アメリカ国内におけるLGBT+の人々のイメージに関するメディアモニタリングを行っている非政府組織GLAADが発表したレポートによると、2018年から2019年にかけて米大手テレビ局5社(※1)がプライムタイム(※2)に放送しているドラマシリーズに登場する合計875人のレギュラーキャラクターのうち、LGBT+の役柄はわずか75人。
※1:CBS, NBC, FOX, ABC, CWの5社。 ※2:夜の看板番組が並ぶ時間帯。アメリカでは月~土曜の20:00~23:00と日曜の19:00~23:00の時間帯を指す。
これは、過去14年間にわたって行なわれてきた同調査の結果としては、史上最も高い数字であるものの、エンタメ業界のLGBT+コミュニティに対する取り組み方には、まだまだ改善の余地があるという事実を証明するものでもある。
ダレンは、そんな、ただですら少ない同性愛者の役柄を、これ以上ストレートである自分が”横取り”してしまうことに疑問を持ち、罪悪感を感じているよう。
パネルディスカッションでは、これまでに演じて来たゲイやトランスジェンダーの役柄を通じて「かけがえのない経験を得た」と話しながらも、「クィア(※3)の役にはすごく魅力的に感じるものもあるけれど、ストレートである僕が本来は同性愛の男性が演じるべき役を奪ってしまうのは、もうやめにしたいんだ」と語っていた。
※3:ゲイだけでなく、レズビアンやトランスジェンダー、クロスドレッサー(自身の性を表現するにあたり、異性装を行う)なども包括する概念。
ダレンが同性愛者役から“卒業”することを決めたのは、LGBT+コミュニティへの強いリスペクトの気持ちの表れだった。(フロントロウ編集部)