無表情で「ひと言」
日本時間の1月13日夜に発表が行なわれた、第92回アカデミー賞のノミネート発表。今年のプレゼンターを務めたのは、映画『スター・トレック』などで知られる俳優のジョン・チューとドラマ『インセキュア』で注目を集めた女優兼クリエイターのイッサ・レイだった。
各部門の候補者および候補作品を軽快なトーンで発表し、祝福の言葉を述べていた2人だったが、最も世間の注目を集める主要部門の1つである「監督賞」の候補者の発表中に、イッサの表情が一変。
カメラに向かって冷たい視線を送ったイッサは、「Congratulations to those men(おめでとうございます、男性のみなさん)」と、あえて候補者たちの性別を強調して笑顔を一切見せずにコメントし、例年に続き、同部門に1人も女性監督がノミネートされず、男性監督の名前ばかりが並んだことを皮肉った。
Issa Rae gives the best reaction after not a single woman was nominated for Best Directing at the 2020 Oscars. #OscarNoms
— The Pop Hub (@ThePopHub) January 13, 2020
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今回のアカデミー賞では、グレタ・ガーウィグ監督の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』やルル・ワン監督の『フェアウェル』、ローリーン・スカファリア監督の『ハスラーズ』、オリヴィア・ワイルド監督の『ブックスマート』といった、女性監督がメガホンを取り、一般の観客や批評家からも高い評価を得ている作品のノミネートが有力視されていたにもかかわらず、監督賞にノミネートされた5人の監督は男性のみ。
<アカデミー賞 監督賞の候補者>
マーティン・スコセッシ(『アイリッシュマン』)
クエンティン・タランティーノ(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)
ポン・ジュノ(『パラサイト 半地下の家族』)
サム・メンデス(『1917 命をかけた伝令』)
トッド・フィリップス(『ジョーカー』)
さらに、そのほかの部門でも、男性候補者たちが圧倒的に優勢となった。
1月に行なわれた同アワードの前哨戦とも呼ばれるゴールデン・グローブ賞でも、同じような現象が起き、女性の権利向上や性差別撤廃が声高に叫ばれる昨今においても、なかなか変化を見せない映画界の“男性至上主義体質”が問題視されたばかり。
自身も監督や脚本家として活動しているイッサが、“どうしても黙ってはいられない”と言わんばかりに放った、アカデミー賞選考者たちへの鮮烈なディスには、賛同や称賛の声が上がったほか、2018年のゴールデン・グローブ賞の授賞式の舞台で、さりげなくも強烈に映画界に根強く残る性差別を皮肉った俳優のナタリー・ポートマンの言動とも比較されている。
片手で数えきれるほど
92年という長い歴史を持つアカデミー賞で、監督賞を獲得した女性監督は、2009年に映画『ハート・ロッカー』で受賞を果たしたキャスリン・ビグロー監督ただ1人。
そして、これまでに監督賞へのノミネートを果たした女性監督は、ビグロー監督のほかには、『セブン・ビューティーズ』(1976年)のリナ・ウェルトミューラー監督、『ピアノ・レッスン』(1993年)のジェーン・カンピオン監督、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)のソフィア・コッポラ監督、そして、『レディ・バード』(2017年)のガーウィグ監督の5人のみ。
現在までに、片手で数えきれるほどの女性たちしか監督賞の候補に選出されたことがないという、悲しすぎる現実にさらに追い打ちをかけるべく、2020年のアカデミー賞では、女性監督が監督賞から締め出しを食らうことに。ほかの部門で、どれだけの女性映画人たちが正当な評価を得られるかに視線が集まっている。
第92回アカデミー賞の受賞式は米現地時間の2月9日に開催される。(フロントロウ編集部)