「白人作品が優先される」アカデミー賞の歴史
アカデミー賞は歴史上、「白人が優先される」という問題をずっと抱えてきた。
発表されたノミネート作品で有色人種が主導のものは、作品賞9作品のうち1作品。監督賞・主演男優賞・主演女優賞ではそれぞれ5作品のうち1作品ずつのみで、多様性のラインナップとしては過去4年間で最も低い結果となった。
アカデミー賞における“白人優遇”は以前から指摘されている問題で、87回目が開催された2015年の時点で、授与された全1,668の演技賞の93.6%が白人俳優に与えられていた。2015年までの25年だけで見ても、この数字は88.8%と高い。
そして2015年と2016年には、2年連続で演技賞の全20ノミネートを白人が占めた。これを受けて、2016年にはウィル・スミス&ジェイダ・ピンケット夫妻やスパイク・リー監督が授賞式をボイコット。授賞式の開催中にはツイッターで「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)」というフレーズがトレンド入りし、観客からも多様性の低さが批判された。
2017~2019年のオスカーでは多様性が増えたが…
そんな論争を受けてか、2017年以降のオスカーでは少しずつ変化が見えた。
2017年には、黒人主導作品のノミネート数が一気に上昇。そして『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスが黒人として初めて、作品賞・脚色賞・監督賞のトリプルノミネートを果たした。
2018年には、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグが女性としては史上5人目となる監督賞ノミネートを果たし、『マッドバウンド 哀しき友情』のレイチェル・モリソンが女性として初めて撮影賞にノミネートされた。
さらに2019年は、ノミネーションでも受賞でも多様性が大きく見られた年となった。
作品賞では、黒人ピアニストと白人運転手の関係を描いた『グリーンブック』、黒人監督と黒人俳優によるスーパーヒーロー映画『ブラックパンサー』や、メキシコ人俳優ヤリッツァ・アパリシオが主演したスペイン語映画『ROMA/ローマ』、黒人刑事が白人至上主義団体のKKKに潜入するスパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』などがノミネート。最終的に作品賞は、『グリーンブック』が受賞した。
また演技賞では、『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックがアラブ系俳優で史上初の主演男優賞に、『グリーンブック』のマハーラシャ・アリが史上初めて助演男優賞を2度手に入れた黒人男性となり、黒人俳優のレジーナ・キングが『ビール・ストリートの恋人たち』で助演女優賞に輝くなど、業界に大きな変化をもたらした年となった。
2020年のアカデミー賞は一転、再び「白人中心」に
アカデミー賞が変化を見せたのもつかの間、2020年の第92回アカデミー賞ノミネート作品が発表されると、白人が目立つラインナップに批評家や視聴者からは落胆の声が。再び「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)」というフレーズが叫ばれている。
2020年のアカデミー賞は、映画『パラサイト 半地下の家族』が韓国映画として初めて作品賞にノミネートされたことで、脚光を浴びている。そればかりではなく同作品は、監督賞、オリジナル脚本賞、国際長編映画賞など6部門にノミネートされる快挙を達成。
しかし、監督賞・作品賞では『パラサイト』以外の全てのノミネート作品が白人主導のもの。同作品で迫真の演技が評価された韓国人俳優のソン・ガンホも、俳優賞にノミネートされることはなかった。
そして、主演部門にノミネートされた有色人種も、男優と女優のそれぞれで5人中1人のみ。非白人の主演男優・女優賞ノミネーターは、スペイン人俳優のアントニオ・バンデラス(映画『ペイン・アンド・グローリー』)と、イギリス国籍の黒人俳優シンシア・エリヴォ(映画『ハリエット』)だけだった。
ゴールデン・グローブ賞ミュージカル/コメディ部門の主演女優賞に輝き、オスカー獲得も期待されていたアジア系俳優のオークワフィナ(映画『フェアウェル』)もスルーされる結果に。
さらに、Netflixオリジナル映画『ルディ・レイ・ムーア』の主演として、久々の映画界カムバックで注目されていたコメディアンのエディ・マーフィーも、主演男優賞への期待がかかっていたものの、ノミネート発表でその名が呼ばれることはなかった。
また、監督賞については、ゴールデン・グローブ賞に続いて女性監督が1人もノミネートされていないことでも大きな波紋を呼んでいる。
2019年には優秀な有色人種の映画が多数
では、2019年公開作品に優れた有色人種の映画がなかったというと、そうではない。
有色人種が監督の映画には、米批評サイトRotten Tomatoesで観客スコア97%を記録したケイシー・レモンズ監督の『ハリエット』や、同批評サイトで92%のスコアを記録したメリーナ・マツーカス監督の『クイーン&スリム』、ゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞にノミネートしたルル・ワン監督の『フェアウェル』などがあった。
これらの作品は、多くの観客から高評価を受けていたにもかかわらず、アカデミー賞では監督賞を含めてスルーされた。
さらに、映画『それでも夜は明ける』で第86回アカデミー賞を受賞したルピタ・ニョンゴ主演の映画『アス』や、映画『ブラックパンサー』で高評価を得たマイケル・B・ジョーダン主演の映画『黒い司法 0%からの奇跡』、映画『ドクター・ドリトル』シリーズで知られる人気コメディアンのエディ・マーフィー主演映画『ルディ・レイ・ムーア』など、オスカーに近いと言われていた作品も、選ばれることはなかった。
アカデミー賞ノミネーションは誰が決めている?
2020年、再び「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)」と批判を受けているアカデミー賞。では、こういったノミネーションは誰が決めていて、何が多様性の低さに影響しているのか?
アカデミー賞のノミネーションと受賞に投票ができるのは、米映画芸術科学アカデミーの会員に選ばれた全世界の俳優・監督・技術者などの映画関係者。日本からも、俳優の渡辺謙や監督の是枝裕和などが選ばれている。会員数は8,000人以上と見られている。
2019年の映画芸術科学アカデミーの発表によると、アカデミー会員における有色人種の割合はたったの16%で、白人の割合が84%。男女比は女性会員が32%、男性会員が68%と、米映画芸術科学アカデミーは“白人男性”を中心に形成されていることがわかる。
アカデミー賞で有色人種のノミネートや女性監督のノミネートが少ないことは、白人男性が中心となった投票母体の構造上の問題が原因のひとつと考えられている。
2019年発表の時点では男性が7割を占めていたアカデミー賞。2020年には、“2020年までに女性とマイノリティの会員数を倍にする”という目標を達成したものの、元の数が少なかったため、その目標を達成後も女性の割合は34%、アメリカの人種の45.6%を占める有色人種が19%と不均等が起きている状態。そのため、まだまだ根深い差別構造を改善するために、2025年までの新たな目標も発表した。(フロントロウ編集部)