ビリー・アイリッシュが平和的抗議に参加
シンガーのビリー・アイリッシュが、現地時間の6月5日、米カリフォルニア州ロサンゼルスで行なわれた人種差別撲滅を訴える「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター/黒人の命も価値がある)」の抗議デモに参加した。
ビリーは、自身のインスタグラムストーリーで、たくさんの参加者たちと一緒に平和的抗議を行なう様子を収めた動画を公開。
彼女自身は映らないものの、彼女の目線から撮影された動画には、周囲の参加者たちが黒人への人種差別に平和的に抗議するための象徴的なジェスチャーとなっている「Take a knee(テイク・ア・ニー)」と呼ばれるポーズを取り、拳を上げて訴えている様子が映っている。
Billie is at a protest for #BlackLivesMatter (via Instagram Story) pic.twitter.com/jyBnTYYexV
— Billie Eilish Updates (@eilishupdates) June 5, 2020
「テイク・ア・ニー」とは?
「テイク・ア・ニー」もしくは、「テイキング・ア・ニー(Taking a knee)」とは、2016年8月、当時、NFL(米フットボールリーグ)のサンフランシスコ・フォーティナイナーズに所属していたコリン・キャパニック選手が、有色人種のへの差別に抗議するために、試合前の国歌斉唱中に起立することを拒否し、その代わりに、ひざまずくアクションを見せたことが発祥。
キャパニック選手は、この行動を起こした理由について「黒人や有色人種を虐げるような国に対して、起立して誇りを見せるつもりはない」と試合後のインタビューで明かしていた。
チームメイトたちも賛同した「テイク・ア・ニー」は、その後、NFLのほかのチームの選手たちや、野球界にまで飛び火。MLB(米メジャーリーグ)の選手たちも、国歌斉唱中にひざまずくという行動を見せた。
これに対し、不満を感じたトランプ大統領が政治集会での演説や自身の公式ツイッターを通じて、選手たちやNFLオーナーを猛烈批判。“国家に対する侮辱だ”として、ファンたちに試合をボイコットするよう呼びかけるなどしたことを受け、2019年、NFLは選手たちが国歌斉唱中にひざまずく行為を全面禁止に。キャパニック選手はチームを解雇され、どのチームとも契約できずフットボールができない状態へと追い込まれたが、その後活動家へと転身している。
Black Lives Matterの渦中で広がる「テイク・ア・ニー」
白人警官による拘束中に首元を膝で8分46秒間圧迫されたことが原因で窒息した黒人男性ジョージ・フロイドの事件をきっかけに、全米だけでなく世界各国の都市でも連日行なわれている「Black Lives Matter」をスローガンに掲げた抗議デモにおいても、キャパニック選手が始めた「テイク・ア・ニー」は、非常に重要な役割を果たしている。
人種差別や人種差別に基く暴行に対する怒りを非暴力的な方法で表現するという意味を持つこの行動は、非黒人の賛同者たちにとっては、黒人たちと一緒にひざまずくことで、団結や志を同じくしていることを表明する手段。さらに、デモを取り締まる警官隊に向かって両手を挙げ、非武装であることを証明するという場合もある。
テキサス州ヒューストンでは、ある白人グループが、これまでずっと白人としての特権に甘んじ、黒人への人種差別に見て見ぬふりをしてきたことに対する許しを請いたいと、黒人グループの前でひざまずき、一緒に祈りを捧げる様子が目撃された。黒人たちは、白人たちがひざまずく様子を涙を流しながら見ている。
一方で、「Black Lives Matter」の主催団体の1人であることを名乗り、通行人の白人女性に声を掛けて「テイク・ア・ニー」をさせ、謝罪させる様子を撮影した動画を公開するという悪質なSNSユーザーの行動も報告されており、白人が黒人に対して謝罪や許しを請う目的でひざまずく行為に関しては、本来の主旨からはズレているという声もある。
Unreal...pic.twitter.com/sWYLqsLhIe
— Zoomer Clips (@ZoomerClips) June 2, 2020
この動画の撮影者であるSNSユーザーは、米ロイターの取材に対し、実際には「Black Lives Matter」の団体職員ではなく、面白半分で撮影したと明かしている。
白人たちに“目を覚ませ”と訴えるビリー
ビリーの場合は、もちろん、その日、ロサンゼルスでの平和的デモに参加した人々と同様に、「テイク・ア・ニー」を本来の意図で行なっていた。
ビリーは、黒人への差別の存在を把握しながら、ずっと我関せずとスルーしてきた白人たちに対して、目を覚ますよう長文メッセージを通じて忠告。
「この社会では白人というだけで優遇される。貧乏だろうが、苦しんでいようが、肌の色が白いというだけで、あんたたちは自分たちが思っている以上に、他の色の人たちよりもたくさんの特権を与えられている。でも、白人だからといって、あんたたちが他の人たちよりも優れているというわけじゃない。その肌の色のおかげで、生きることへの不安や心配を抱えて生きる必要がないというだけ」、「今、この瞬間にみんなで話し合うべきことは、何百年と続く黒人の人たちへの制圧について。『Black Live Matter(黒人の命にも価値がる)』というスローガンは、“黒人以外の命に価値がない”と言っているわけじゃない。このスローガンは、今の社会が黒人の命をまるで価値のないもののように扱っているという、まぎれもない事実を訴えているだけ」などと、力強く語ったことも記憶に新しい。
ちなみに、普段から世の中の不正や地球環境問題、動物愛護問題に声を上げているビリーが、大規模デモに参加するのは、今回が初めてではなく、2019年にはロサンゼルスで行なわれた若者たちが中心となって行なった気候変動ストライキにも参加していた。
(フロントロウ編集部)