『マトリックス』3部作でシネマトグラファーを務めたビル・ポープが、2作目と3作目の撮影現場の暗い思い出を振り返った。(フロントロウ編集部)

プレッシャーがあった『マトリックス』制作現場

 現在、約20年ぶりとなる新作『マトリックス4』が制作中の映画『マトリックス』シリーズは、当時まだ今ほどテクノロジーが進んでいなかったなかで、近未来的映像を完成させて世界中で一大旋風を巻き起こした。

 興行収入としては2作目の『マトリックス リローデッド』が最も良く、全世界で800億円を超えている。しかし、3部作のシネマトグラファーを務めたビル・ポープは、2作目の『マトリックス リローデッド』と3作目の『マトリックス レボリューションズ』にかなり苦い思いを抱いているよう。米ポッドキャスト『Team Deakins(原題)』で、こう語った。

画像: ⓒROADSHOW FILM LIMITED / Album/Newscom

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「最初の時には良かったことが、次の2作では良くなかった。私達は自由ではなくなっていたからね。人々の注目もあり、プレッシャーが強かった。心の中では、あれ(続編2作品)は好きじゃなかった。別の方向へ進むべきだと感じたんだ。多くの衝突があったし、個人的にも問題を抱えていたし。そして正直に言うと、それらは映像に出ていたと思うよ」

“あの監督”の影響を受けた撮影現場

 テクノロジーの過渡期に、VFXを駆使して作り出された『マトリックス』。その続編制作では制作予算も約70億円から約170億円へとあがり、ファンからの期待も熱かったことから、制作陣に大きなプレッシャーがかかっていたことは想像にたやすい。

 「あのときの自分は最高の状態にはいなかったし、誰しもそうだったはず」と振り返るビルだけれど、じつは、その思いの裏にはプレッシャー以外にも撮影現場で起こったある出来事があるという。

「ウォシャウスキー姉妹はスタンリー・キューブリックの最悪な本を読んだんだ。その中では、『俳優はこき使われないかぎり、自然な演技はしない』って書いてあって、だから90テイクしよう!ってね。スタンリー・キューブリックを掘り起こして、殺したかった。276カット撮るような日々で、頭も魂も無になったし、映画自体も無にしただろ」

画像: 『マトリックス』の撮影現場

『マトリックス』の撮影現場

 映画『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』などを手掛けた有名監督で、1999年に亡くなった故スタンリー・キューブリック監督は、撮影現場では何度もリテイクをしてきたことで有名。また、俳優やスタッフへの態度も強気で、『シャイニング』の撮影ではウェンディ役のシェリー・デュヴァルを神経質にするために暴言を浴びせたと、キューブリック監督の人生に迫った著作『映画監督 スタンリー・キューブリック』で綴られている。『フルメタル・ジャケット』で主演したマシュー・モディーンは、映画『キューブリックに魅せられた男』のなかで、撮影現場を「磔のようだった」と語るほど。

 そんなキューブリック監督の影響を受けて撮影現場が厳しいものになったとなれば、苦い思い出となってしまっても仕方はないかもしれない。

 とはいえ、ウォシャウスキー姉妹がどこまでキューブリック監督を見習っていたかは明らかでなく、『マトリックス4』にはネオ役のキアヌ・リーブス、トリニティー役のキャリー・アン・モスだけでなく、ナイオビ役のジェイダ・ピンケット・スミス、メロヴィンジアン役のランベール・ウィルソンが続投すると言われており、姉妹と俳優たちとのわだかまりはこれまで伝えられたことはない。

 『マトリックス4』では妹のリリーは帰ってこず、姉ラナが監督兼脚本家を務める。そんな続編に出演することを決めたキアヌは、「ラナ・ウォシャウスキーは美しい脚本と素晴らしい物語を書き上げた。それは僕の心に響いたよ。出演を決めた唯一の理由はそれだ。彼女とまた仕事ができるのは純粋にすごく嬉しい」と話していた。(フロントロウ編集部)

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