「バーキン」をめぐる人種差別的な意見
1838年にフランスで創業されたハイファッション・ブランド、エルメス(Hermès)が1980年代に発売して以来、ファッションコンシャスな人々の憧れの的となっている「バーキン」バッグ。
英仏映画界の大スター、ジェーン・バーキンと飛行機の席がたまたま隣同士となった、エルメス社の当時の社長ジャン=ルイ・デュマ氏が、ジェーンがふいにバッグの中身をぶちまけてしまったのを見て、「いくつかポケットがついた(中身を整理整頓しやすい)バッグがいいですよ」とアドバイスし、2人で話し合いながら、座席にあったエチケット袋の余白に理想のバッグのデザインをスケッチしたのが始まり…という逸話をもつこのバッグは、すべて職人による手作りで、年に数個しか制作されないため、購入予約リストはつねに約2年待ちとも言われる。
市場に出回ることはまず無く、1つ125万円~2900万円という高額で販売されているバーキンは、ひと目でわかるアイコニックなデザインや、その希少価値の高さから、長年、選ばれし者しか手に入れる事ができない“富の象徴”として認識。
しかし、近年、若手セレブやブレイクして間もないミュージシャン、インフルエンサーらが次々とバーキンを手にする姿をSNSで見せびらかしており、まるで、以前よりもアクセスしやすくなったかのような印象を与えている。
これを受け、一部のSNSユーザーたちが、「黒人ラッパーたちが持つようになったせいでバーキンの価値が下がった」、「彼女たちが持っているバーキンは偽物」、「どうせ金持ちな黒人と寝て手に入れたんだ」などと、人種差別的な推論を展開した。
カーディ・Bが猛抗議
これに黙っていなかったのが、バーキン愛好家で、近年いくつもバーキンを入手しているラッパーのカーディ・B。
カーディといえば、自宅クローゼットにはレアなバーキンがずらりと並び、最近では、ヒット曲「WAP」でコラボした後輩ラッパーのメーガン・ジー・スタリオンに感謝の印兼ご褒美として特注のバーキンを贈ったことでも話題になった。
カーディーは、自身のような黒人の血を引くラッパーや、有色人種の女性たちが持つことでバーキンの“価値が薄れる”という意見は、きわめて人種差別的であると、インスタグラムで公開した動画で真正面から抗議。
「私とかほかの女性ラッパーを名指しにしたツイートを見たよ。彼らはエルメスのショップで直接バーキンを買うことなんかできないはずだって議論してた。それから、私たちがエルメスのバーキンバッグの価値を下げてるってね。私にとっては興味深い話。だって、私はエルメスのショップでバッグを買うことができたから。実際、今日、1つだけじゃなくて4つ、エルメスの店舗でバッグを購入したし。黒人女性がエルメスのショップでバッグを買えるかどうか、どうしてみんな疑問を抱くわけ?白人のセレブだったらそんな疑問は持たないよね?」
続けて、むしろ、自分たちラッパーは、エルメスをはじめとするハイブランドのアイテムの価値をつり上げていると独自の例を挙げながら反論した。
「私たちが(バーキンの)価値を下げてるって言われてるけど、むしろ、私たちのおかげで価値が上がってるんだけど? ヒップホップはトレンドを生み出してるんだよ。曲の歌詞の中でブランドの名前を言うと、価値が上がるの」。
自身が2017年にリリースしたデビュー曲の「ボダック・イエロー」の歌詞にシューズブランドのクリスチャン・ルブタン(Christian Louboutin)の名前を取り入れた時は、1000%以上もセールスが跳ね上がったと豪語するカーディ。
2018年にリリースした「アイ・ライク・イット」の歌詞でバレンシアガ(Balenciaga)をネームドロップした時も、同様にブランドのセールスが急上昇。それがきっかけで、バレンシアガ側からオファーがあり、業務提携することになったと、自身の体験をもとに語った。
「私たちは価値を薄れさせてるんじゃなく、付加価値を与えてるの」と、ブランドとは持ちつ持たれつな関係にあると説明したカーディは、「黒人女性やヒスパニックの女性が高級バッグを持ってると『ああ、フェイクなんじゃない?』とか言われたり、“詐欺師呼認定”されたり、『金持ちをヤッてゲットしたんだ』とかウワサされたりするけど、私たち(有色人種)には、ただ、ヤリ手な女性が多いってだけ。金儲けが上手なんだよ」と人種差別的な意見をバッサリと斬った。
バーキンを手に入れたからって…
カーディは、動画の最後に、世の女性たちに“無理して身の丈に合わないオシャレをしようとする必要なんかない”と、こうメッセージを送った。
「これだけは言わせて。もしあなたがごく普通の女の子なら、身を滅ぼすようなことをしてまで必死になってバーキンを手に入れようとしなくたっていいから。バーキンを手に入れたからって、あなたが何者かになれるわけじゃない。バーキンを持っていようが、(プチプラブランドの)アルド(ALDO)のバッグを持ってようが、男は気にしてない。ZARAやH&Mで売ってるアイテムでだってめちゃくちゃカッコいいファッションは作れる。自分と誰かを比べないで、とくに、ネット上の誰かと自分を比べるのはやめな。ネットなんてものはフェイクなんだから。あなたはそのままでもイケてるよ。それだけ」
カーディが反論した意見以外にも、バーキンはここ最近、ネット上で頻繁に議論の的となっている。
つい前週には、カーディがくっついたり離れたりを繰り返している夫のオフセットが所属するラップグループ、ミーゴス(Migos)のメンバーのクエヴォの恋人で、同じくラッパーのスウィーティーが、世の女性たちに向けて「バーキンを買ってくれないような男は捨てちまいな! 」と、女性にバーキンの1つも贈れない男性は“男じゃない”と示唆する発言をして物議を醸したばかり。(フロントロウ編集部)