日本の性交同意年齢は13歳
「性交同意年齢」が、各国で設定されていることをご存知だろうか? 性交同意年齢とは、性行為をするかしないかを自分で判断できるとみなされる年齢のこと。この年齢より年が低い子供との性行為は、同意の有無を問わず処罰の対象となる。
たとえばカナダやフィンランド、イギリスでは16歳となっている。一方で日本の性交同意年齢は世界的に低く設定されており、13歳。明治時代から変更されていない。そして日本では、性犯罪を罪に問える条件が非常に高く、強制性交等罪には暴行や脅迫、準強制性交等罪は心神喪失や抗拒不能が起訴の要件となっている。つまり日本では、13歳より年齢が上の未成年者が性的暴行を受けても、大人と同じく脅迫や暴力、被害者の抵抗を証明できなければ、加害者の罪を問うことができない。
しかし、13歳、14歳、15歳、16歳…。子供たちに性交同意の判断ができるだろうか。性交同意年齢を日本と同じく13歳としていた韓国は、今年2020年に、16歳に引き上げた。
また、性交同意が判断できるとされるのは13歳にもかかわらず、日本では性教育が非常に遅れていることが長年指摘されているうえ、アフターピルを薬局で買えるようにという要望に対して、幾度となく、「若い女性は知識がない」という女性に責任を押しつける発言が飛び出してきた。
知識はないけれど、性交同意はできる? 現在、性交同意年齢の引き上げのために署名やクラウドファンディングが行なわれ、性犯罪に関する刑事法検討会が開催されている。しかし、検討委員であり一般社団法人Spring代表理事である山本氏が、性交同意年齢の引き上げが厳しい状況となっていることを報告し、その状況に対してインターネット上で大きな批判があがっている。
そしてもちろん、性交同意年齢は中高生の恋愛を全否定するものではなく、ヒューマンライツ・ナウが2020年6月に発表した改正案では、16歳未満の性的行為については「18歳未満同士で年齢差が2年以内」の場合は処罰の対象外としている。
13歳でコーチと交際、実体験が基の『ジェニーの記憶』
13歳の時に40歳前後の男と“交際していた”女性がいる。それは、映画監督のジェニファー・フォックス監督。フォックス監督は、現在では自分をサバイバーと呼び、過去の経験は子供に対する性的虐待だったと認識しているけれど、数十年の間、その男との関係を交際だったと話し、45歳になるまで「性的虐待」という言葉を使わなかったという。
フォックス監督は、子供に対する性的虐待の被害者が中年になるまで被害に気がつかないことは普通であると、監督が13歳の頃に書いた日記を基にその経験を映像化した映画『ジェニーの記憶』のスクリーニングイベントで話す。事実、Springの調査によると、年齢にかかわらず性暴力被害にあった被害者のうち約6割が、すぐにはそれが「被害」だとは認識できなかったと回答している。そして認識できるまでの期間は平均で約7年半だった。また、被害時に6歳以下だった場合は、4割以上が被害の認識までに11年以上かかっている。
『ジェニーの記憶』では、子供に対する性的虐待の現実が描かれる。ドキュメンタリー映画の監督として成功したジェニファーが、13歳の自分が書いた日記を見つけ、自分が“恋愛関係”だと思っていた40歳前後のランニングコーチであるビルとの関係を振り返る。周囲は子供に対する性的虐待だと指摘するけれど、ジェニファーは大人になってもそれは恋愛だったとし、性的虐待の被害者と言われることを拒絶する。また、ビルがいかに、まだ生理もきていなかった13歳のジェニファーをまるめこみ、コントロールし、恋愛関係だと思わせたかも回想する。
作中でもジェニファーの母親が、ジェニファーの態度を疑問に思ったように、彼女本人は“恋愛関係”だったと長らく思い込んでいた。しかし自分が大人になって振り返ると、13歳というのは完全に子供。児童虐待は見知らぬ人や明らかな不審者によってなされることよりも顔見知りによって犯されることが多く、明らかに犯罪と分かるものでもなく、複雑なものだと言うフォックス監督は、カナダのNOWによるインタビューで、子供という存在についてこう分析する。
「子供は立ち直りが早い、と願っています。しかし、子供たちは打算的でもあるのです。私は打算的な子供でしたし、必要なものは何としてでも得ようとしていました。私はかまってくれる人を必要とし、愛を必要としていた。そしてその代金は、当時の私が何も分かっていなかったセックスと呼ばれるものだった。それがどんなものか知った時、楽しくなかった。酷いものだった。しかし私はそれでも、取引ができた。『あなたはそれを私にくれる。私はこれをあげる。あなたはかまってくれる。私は価値も分からないこれをあげる』と」
大人が子供を操る、児童への性的虐待
フォックス監督の発言からは、幼い子供の思いを、大人である加害者が上手く利用する状況が想像できる。多くの場合、子供に対する性的虐待は道端で突発的に発生する事件ではない。フォックス監督は米EWのインタビューで、本作を詳細に描いた理由を語った。
「サバイバーとして、それが本当にどのようなものかを見せなくてはいけないと感じました。フェードアウトするようなことや、部屋に入るようなことはないんです。あれは非常にありがちなものなんです。ホラーですよね。小さなジェニーは(加害者に)会うたびに吐き、苦しんでいました。彼女は操られていた。それはファンタジーにするようなものではないし、消して良いことでもない。子供に対する性的虐待はおぞましいものです。そしてそれは、深く操られていることなんです。映画のなかでビルが話した言葉は、私が現実のビルから聞いたことなんですよ」
また、作品のなかで自分の本名を役名に使ったことについて、監督は、さもなければこの物語はでっちあげだと言われる恐怖があったと明かす。しかし本作は2018年5月にアメリカのHBOで放送された。そう、世界的にMeTooムーブメントが大爆発した翌年。監督はスクリーニングや各メディアのインタビューで、男性に対してやゲイコミュニティでも子供への性的虐待は起きていると警鐘を鳴らしてきた一方で、そのタイミングでなければ、この作品は日の目を見なかっただろうと話した。
「女性たちはこの物語とともに生きてきたと思います。だからショックではないのです。性的虐待やトラウマが起きているまったく別の惑星に足を踏みいれるかのようにショックを受ける男性とは違うのです。私は男性が『(こんなことがあるなんて)まったく知らなかった』と言うのを聞きました。女性たちはこの惑星で生きてきました。私たちは、その歴史の初めから、世代がいくら変わろうとも、その人生をずっとこの惑星で生きてきたんです。だから私たちはこの出来事をより身近に感じます。現実の問題としては、男性はなぜ知らないでいられるのか?なぜそこまで違う生活を送れるのか、ということです」
ビルからの分かりやすい脅迫や暴力、ジェニファーの分かりやすい抵抗はなかった。しかし、13歳のジェニファーは、40歳のビルとの性行為に同意していたと言えるだろうか?(フロントロウ編集部)