幼少期から苦しい経験をしてきたナタリー・ポートマン
これまで数多くの映画に出演し、アカデミー賞複数回ノミネートと、1度の受賞経歴を誇るナタリー・ポートマンは、12歳で『レオン』に、その2年後に『ビューティフル・ガールズ』に出演。
両作品で、ナタリーが演じた役柄に大人の男性が惹かれるといったストーリー要素があったため、ナタリーがまだ幼い頃から性の対象として見られることになる状況を引き起こした。彼女が初めて受け取ったファンレターは、成人男性が彼女をレイプすることを夢想する内容だったと言い、苦しい思いを経験したことを明かしている。
また、ナタリーが身を置く映画業界は、女性の性暴力被害は問題となってきた。2018年には超大物プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタインから被害を受けた女性たちが声をあげ、ハリウッドにおける女性への性加害に「# Time’s UP(時間切れ)」を叫ぶMeTooムーブメントが大規模発生。
流れは変わってきたものの、例えば、1970年代から未成年の少女たちを強姦してきたことで告発された映画監督のロマン・ポランスキーは、その後も作品を作り続けているうえ、2020年にはフランスのセザール賞で監督賞を受賞している。
ナタリー・ポートマン、マイク・ニコルズ監督への思い
そんな業界に身を置いてきたナタリーにとって、ある人物と一緒に仕事ができたことは、とても良い思い出になっているよう。「気持ち悪い要素が一切なく私を指導してくれた唯一の年上男性」として、2014年に死去した故マイク・ニコルズ監督を称賛した。
ナタリーとニコルズ監督は、彼女が19歳の頃に、舞台『The Seagull(原題)』で初めて一緒に仕事をした。そしてその3年後に、ナタリーに初のアカデミー賞ノミネートをもたらした映画『クローサー』も、ニコルズ監督によるもの。
とくに『クローサー』では、ナタリーはストリッパーのアリスを演じているけれど、それでも監督のことを尊敬しているということから、どれだけニコルズ監督が思慮深い人物だったかということが伝わってくる。
マーク・ハリスによるニコルズ監督の伝記『Mike Nichols: A Life(原題)』のなかで、ナタリーは監督についてこう説明している。
「彼は本当にフェミニストだったと思う。彼は人をクリエイティブで興味深く、才能がある人間だと見る以外に、何も、何も、何もなかった。それは最も貴重で、最上の資質であるし、彼の世代の監督でそれを持つ人は多くなかった」
ナタリーは、『レオン』と『ビューティフル・ガールズ』の苦しい経験から、1人の教授が14歳の少女に心酔する映画『ロリータ』への出演は断り、ラブシーンも避けるようになった。しかし『クローサー』にはアリス役で出演を決意した背景には、監督への信頼もあったのだろう。米IndieWireによると、ナタリーは当時、「監督は私の父よりも、私のお尻を見たがらない」と話していたそう。
監督はストリップクラブのシーンに関しては特別配慮をし、ナタリーがカメラアングルや衣装、動きに安心できるよう確認。ナタリーがいくつかのヌードシーンは削除してほしいと頼んだ時にも、快く応じたという。
ヌードシーンやベッドシーンの撮影環境を整える動きは、ここ数年でとくに女性監督が力を入れてきている。しかし大きな変化が起こる前には、小さな行動を積み上げてきた人達がいた。
自分より下の世代の面倒を見る立場となったナタリーにとって、ニコルズ監督との経験は、自分のなかに根づくものとなっているよう。(フロントロウ編集部)