プラスチックを“ごみ”にしない循環型経済
「軽くて丈夫」「さびや腐食に強い」「断熱性が高い」「成形しやすく大量生産が可能」といった利点から、ありとあらゆるものに使われ、現代人の暮らしや経済の発展に貢献してきたプラスチック。しかし、近年、環境汚染や海洋生物の生態系の破壊といった地球の未来にとって望ましくない点が指摘され、破棄しても数百年も土に還らないため、そもそもデザイン不良だったことが認められるように。一刻も早く“プラスチック依存”から脱却する方法が模索されている。
もちろん廃棄プラスチックが無くなるに越したことはないけれど、利便性を考えると、今さら現代の生活から完全に排除するというのは極めて困難。
そんななか注目されているのが、「だったら、最初からプラスチックを“ごみ”にしなければいいのでは? 」という考え方。
これに基づき、持続可能な循環型のプラスチック生産・消費を実現するための構想を提案しているのが、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進する英エレン・マッカーサー財団。同財団が先導する『New Plastic Economy(ニュー・プラスティック・エコノミー)』と呼ばれるイニシアティブでは、プラスチックおよびプラスチック包装のライフサイクルを抜本的に見直し、不要なプラスチックの使用を削減したうえで、必要なプラスチックは再利用・再生できるものへと転換することを目標に掲げている。
プラスチックを循環し、共存していくためのアイディア
言ってみれば、プラスチックと上手に共存していくためのアイディアを提案している『New Plastic Economy』。
「アップストリーム・イノベーション」と題されたガイドラインでは、リサイクルのような下流段階の取り組みだけでなく、製品の開発・設計といった上流段階からプラスチック汚染という世界的な課題に取り組むための指針が紹介されている。
まずは根本から考え直してみよう
「3つのマインドセット」
「サステナブル」というからには、環境にとって持続可能なだけでなく、一般の人たちが無理なく続けていけるような仕組みを社会や企業が作らなければ、結局のところ、実現は難しい。
プラスチックごみ問題に取り組むには、まず、廃棄を出さない商品やサービスの提供の仕方について、一度、企業や消費者が初心に帰って考え直してみることから始まる。
1.パッケージング(梱包)を考え直す
海外からの旅行客が日本のコンビニや量販店で販売されている商品を手にして驚くのが、日本人特有の細やかな気遣いの“産物”でもある過剰包装。「個別包装は本当に必要?」「もっと地球にやさしい素材で同じ役割を果たせるものがあるのでは?」と問いかけてみることが重要。
2.商品を考え直す
商品を企画・設計する側がデザインや形、サイズを工夫することでムダを省き、廃棄プラスチックを減らすこともできる。たとえば、どうしても容器が必要となってしまうシャンプーやボディーソープ、ハンドソープといった液状の商品を固体化することでペットボトルの消費量を減らすことができる。
3.ビジネスモデルを考え直す
一度きりの使用でごみとなってしまうシングルユースのパッケージに代わり、何度も使えるパッケージを開発したり、消費者が使用後にパッケージを返却すると、また別の商品として再利用されるシステムなどを構築するといったビジネスレベルでの改革も必要。
さらに、食品や飲料に関しては、産地や製造地が販売先から近ければ近いほど、物流面で発生する梱包を省きつつ、新鮮で高品質な商品を消費者に届けることができる。生産や流通の仕組みについても考え直してみることが、抜本的な変化につながる。
エコ先進国ですでに始まっている
「3種類の戦略」
「サーキュラーエコノミー」とは、製品、素材、資源の価値を可能な限り長く保全・維持することで廃棄物の発生を最小限に抑える経済システムのこと。
これを目標とするアップストリーム・イノベーションのおもな戦略となるのが「排除(Elimination)」「再利用(Reuse)」「物質循環(Material Circulation)」の3つの取り組み。エコ先進国と呼ばれるフランスやカナダ、アメリカといった国々では、すでにそれぞれの取り組みを導入しているところもあり、将来の展望に期待がもてる成功を収めている。
排除(Elimination)
「排除」には2通りのアプローチの仕方がある。まず1つめは、“直接的な排除”。これは、その名の通り、パッケージの必要性自体を考え直し、必要ないものは排除してしまうというもの。
アメリカとカナダに5000店舗以上を構える大型スーパーのウォルマートでは、野菜や果物のプラスチックフィルムを使った個別包装を廃止。年間あたり、ピーマンだけでも87トン、バナナは6.7トンのプラスチックフィルムの削減に成功している。
もう1つのアプローチは、“革新的アプローチによる排除”。これは、これまでプラスチックが使用されていた包装を、新たに開発されたより環境にやさしい別の材料で代用しようというもの。
英ノットプラ社が開発した、自然環境下において4〜6週間で生分解される海藻由来の食用膜「Ooho!(オーホ)」は、使い捨てのプラスチック製ボトルを全面禁止とした2019年のロンドンマラソンで導入されて一躍有名に。同大会では3万6千個のシングルユースプラスチックのカップやボトルが削減されたと報告されており、さらに、ロンドン市内のレストラン10軒においてソースなどの液体調味料の容器と試験的に代用したところ、46000個分の容器が削減につながったという実績も。
コロナ禍で利用頻度がアップした飲食店のテイクアウトでも、ソースやドレッシングをOoho!で提供する店舗が増加した。
「再利用(Reuse)」
再利用は4つの方法に細分化できる。まず1つめは、日本でもコスメやボディケア用品、調味料といった商品ですでに頻用されている、消費者が自宅で詰め替えるという方法。
2つ目は、空になった容器をショップに持参して中身を補充するというもの。近年、海外で増えている「ゴミゼロスーパー(Zero WasteGrocery Store)」では、自宅から持参したメイソンジャーなどの容器に店内にあるディスペンサーからセルフサービスでお米やコーヒー豆、シャンプーや洗濯用洗剤などを補充。内容量によって代金を支払う(量り売り)というのが主流となっている。
3つ目は、使用済み容器をリサイクル業者などが自宅などに回収しに来てくれるという方法。
4つ目は、消費者が空になった容器を店舗やリサイクル専用ボックスなどに入れて返却し、企業側が責任を持って再利用の処理を行なうというもので、商品の代金にはデポジットが含まれており、容器を返却するとその分が返ってくる、もしくはポイントがつくといった制度もある。
「物質循環(Material Circulation)」
環境を汚染することなくプラスッチックと共存していく、つまり、うまく循環させていくには、①リサイクル可能なプラスチック(例:PET)を使用する ②生分解性のプラスチック(例:PHA)を使用する、もしくは、③より再利用しやすいノンプラスチック素材(例:紙やアルミ)で代用するという方法がある。
プラスチックごみによる環境汚染問題の解決に取り組む慈善団体ブレイク・フリー・フロム・プラスチックが発表した『世界で最も多くのプラスチックごみを排出している企業』という不名誉な称号を過去2年連続で手にしてしまったコカ・コーラ社は、2030年までに同社が使用するのと同量のプラスチックボトルをリサイクルすることを目標に掲げ、廃棄物を少なくするための技術開発の一環として、紙100%のボトル開発を進めるといった取り組みも行っている。
そんな同社の人気飲料「スプライト」のペットボトルが、日本を含む世界各国で、いつのまにか従来の緑色から透明に変更になっていたことにお気づきだろうか?
この裏には、色つきよりも透明のペットボトルのほうが、リサイクルの際に再生原料の用途が広がり、廃プラスチックとしての価値が高まるという理由がある。
2019年には、フィリピンをはじめとする東南アジア諸国でもスプライトの“お色直し”が導入。2020年には、タイやナイジェリアでも透明ペットボトルが使用されるようになった。
今こそ、舵を切るべき時
このまま何の対策もとらなければ、今後20年間で使用量が倍増し、2050年には世界の海に廃棄されるプラスチックの量は魚類の数を超えるとも危惧されている。
海に流出したプラスチックを魚が食べ、その魚を人間が口にすることで、最終的には人間の健康をも脅かす…という悪循環が成立してしまっているけれど、これを断ち切るには、どこかで大きく舵をきらなければならない。
エレン・マッカーサー財団が2016年に発表した報告書によると、現在、世界のプラスチック包装の95%が1度限りの使用で廃棄されており、年間あたり日本円にして約8兆7千億円~13兆1千億円に相当する経済損失が発生しているという見方も。さらに、プラスチックの大量生産・大量廃棄は環境に悪影響をおよぼすだけでなく、プラスチック生産に必要となる天然ガスや原油といった貴重な資源の”ムダ使い”にも加担している。
“絶対悪”として語られることが多いプラスチックだけれど、工夫次第で上手に共存していくことはできる。企業はいつだって、消費者の声に耳を傾けている。選ぶ側・買う側が、より地球にやさしい商品やサービスの提供の仕方を求めて声を上げるなら、良い方向に流れを変えることができるはず。(フロントロウ編集部)