ついに公開!ミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』
映画『イン・ザ・ハイツ』は、ブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』の原作者、リン=マニュエル・ミランダ原作の同名ミュージカルを映画化した作品。米辛口批評サイトのRotten Tomatoesでは批評家、観客ともに95%以上の評価を得ている高評価作品でもある。
歌手のアリアナ・グランデや俳優のヒュー・ジャックマンをはじめとする数々のセレブが大絶賛し、FOX NEWS、バラエティ紙、タイム誌などアメリカの名だたるマスコミがこぞって「今年最も観たい映画」に挙げている本作。6月11日には全米で公開がスタートし、公開3日で約12億5千万円(11,405,000ドル)の大ヒットを記録した。
そんな本作で監督を務めるジョン・M・チュウ監督に、フロントロウがインタビュー。
ジョン・M・チュウ監督単独インタビュー
ジョン・M・チュウ監督は、2018年に公開された映画『クレイジー・リッチ!』で知られ、映画『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』や『G.I.ジョー バック2リベンジ』、『ジャスティン・ビーバーズ・ビリーヴ』などの作品を手掛けてきた監督。今後はミュージカル『ウィキッド』の映画化を手がけることが決定している。
アジアにルーツを持つ彼が、アメリカのラテン系コミュニティを描きだす『イン・ザ・ハイツ』を制作するにあたって抱いた思いや、お気に入りのシーンなどをフロントロウ単独でインタビュー。
この映画と自分の人生と共通するところはありますか?
チュウ監督:自分のベッドルームで他人が不可能だと考えるような夢を見る感覚がどういうものか、僕には理解できる。家族が道を切り拓いてくれたおかげで描ける大きな夢。あのボデガ(主人公の店)の窓から外を見る主人公ウスナビの気持ちはよくわかる。そこには自分を見つめ返すコミュニティが映っているけれど、それはウスナビを憐れんだりはせず、逆に窓を突き破れ、大きな夢を抱けと挑戦を突き付けてくる。僕もそうやって育ったんだよね。映画監督になる自分を想像をしながら。だからいま、ミュージカル映画を作れていること、ニューヨークの通りでミュージカルを作れていること、ワーナー・ブラザースと一緒に映画が作れること、完成した映画が世界中の映画館でかかり、人々がお金を払って知らない人と暗い映画館で、僕の指紋がついた、歌やダンス満載の作品を観てくれることっていうのは本当に(嬉しい)…。親と一緒に自分の作品を観られる、そんな場所に今いられることをものすごく幸運なことだと思うし、恵まれているとも思う。そして、それがこの映画なんじゃないかとも思うんだ。自分のバックグラウンドがどんなものだったとしても、人は望むだけ大きく夢を膨らませていい。難しいかもしれないし、おとぎ話のよう簡単には行かないし、苦労も多いけれど、チャンスはきっとあるし、実現することはできるんだ。
一番お気に入りのシーンはどこですか?
チュウ監督:一番お気に入りのシーンか! 難しいな。 でもオープニングは大好きだし、自分にとっても大きな意味があるんだ。撮影中、ずっと撮っていたシーンだし、実際の地元の方々も出演してくれている。例えば床掃除をしている管理人は本物なんだよ。それに、(オープニングでは)主要キャストが勢揃いしているしね。家族のために一生懸命働く人々のコミュニティを見下すのではなく、賞賛することができていると思うし、そういう意味でもとても好きなんだ。
リン=マニュエル・ミランダさんと共同で制作していたと思いますが、チュウ監督にはどれくらい権限がありましたか? どういう分担をしていたんですか?
チュウ監督:リンは映画が大好きだし、監督の役割というものをよく理解してくれていて、僕自身が何かを作ったり、少し変えたりする余地を大いに与えてくれたんだ。ラッキーだったよ。それに自分の作品だからといって触らせない、みたいなことがないんだよね。(ミュージカル&映画の脚本を手がけた)キアラ(・アレグリア・ヒュディス)もいたしね。彼女が鍵だった。映画の脚本も書いてくれたし、キアラはリンの大親友なんだ。だから、彼らが守りたいと思っていたものは彼女が守ることができた。でも彼らは映画が演劇とは違うということを理解してくれていたよ。
映画の中の話ですが、もし莫大な宝くじが当たったらどうしますか?
チュウ監督:ティックトック(の『イン・ザ・ハイツ』チャレンジ)で(劇中の96,000ドルが)当選したらどう使うかっていうのがあるんだけど、僕だったらもちろん子供たちの大学の学費用に取っておくかな。親の安泰のために彼らの家を買うとも言いたいところだけど、正直カメラ機材を買いまくっちゃう気がする(笑)。
アメリカではこの映画に出てきた「ピラグア」のようなかき氷は一般的ですか?
チュウ監督:一般的だよ! 劇中のピラグアも(NYでは)間違いなく夏の到来を告げるものなんだ。それから(かき氷ではないですが)お向かいのアイスクリーム屋さん、ミスター・フロスティもものすごくニューヨークっぽい存在なんだよ。リンがよく言うんだけど、あの氷を削る音と鈴の音がリンに自分の育った地域を思い出させるそうだ。喜びと楽しみをもたらすという意味で、この映画もある意味、ピラグアのようなものだと思っている。外が暑い時に(&ものごとがヒートアップしている時に)必要とされている喜びや楽しさ、清涼さを届けるという意味でもね。
ラテン系の話である本作は、アジア人にとってはどのような意味がありますか?
チュウ監督:ブロードウェイで初めて観た時のことを覚えているんだけど、ラテン系でもなく、ニューヨーク出身でないにもかかわらず、もう完全に心動かされたんだよね。お互いを思い合い、お互いのために犠牲を払える、そんなコミュニティの中で、おばさんやおじさん(※)によって育てられる感覚というのを思い出した。テーブルでワンタンづくりを教えてくれた家族が自分にとってのアブエラ(※)だったんだよね。
※血縁というより、コミュニティの年上の人々と言う広義の意味。アブエラは、本作に登場する、“コミュニティの母”的な存在の人物。
今回の映画はラテン系コミュニティの話でしたが、アジア系として、最近のアジアンヘイトについてどう思っていますか?
チュウ監督:うん、他の多くの人々と同じようにどうすればいいか混乱もするし、僕らに対するヘイトをどう止めたらいいんだろうって考えちゃうよね。そもそも意味がわからないから。でもこのビジネスでストーリーテラーを生業としている以上、責任も感じるんだ。だからシェアする。僕らが誰であるかや僕らの家族のことを(作品を通して他の人と)共有するんだ。だって僕は人の中にある善を信じている。それを目にした人は、見なかったことにはできないとも思っている。世界には悪の数より善の数の方が多いと信じているから、(この現況には)困惑するし、悲しみも感じるけど、(こういう状況になったことで)より迅速な変化を今、確実に起こさなければいけないと皆が感じたと思うし、かつて以上に僕らの物語を共有するために、皆がよりひとつになったというのはあるんじゃないかな。
今後はどんな映画を作ってみたいですか?
チュウ監督:そうだね、ミュージカルはやっぱり大好きだし、子供の頃から一緒に育ったものだから、まだまだやりたい。次は『ウィキッド』の映画版をユニバーサル・スタジオで作るんだ。他にもいくつか秘密の企画を抱えていて、どれが映画化できるかはお楽しみというところかな。
ジョン・M・チュウ監督の映画『イン・ザ・ハイツ』は7月30日より日本で上映開始。(フロントロウ編集部)