レディー・ガガのヘアメイクに込められたこだわり
世界を代表するファッションブランドであるグッチの創業者一族に起こった暗殺事件の真相を暴く映画『ハウス・オブ・グッチ』。巨匠リドリー・スコットが監督を務める今作は、創設者グッチオ・グッチの孫であり、グッチの会長を務めていたマウリツィオ・グッチをアダム・ドライバーが演じ、その妻でマウリツィオの殺害をヒットマンに依頼した罪で有罪判決を受けたパトリツィア・レジアニをレディー・ガガが演じている。
そんな『ハウス・オブ・グッチ』では、ガガのヘアメイクも見どころのひとつ。映像作品のヘアメイクは作品の世界観をつくるために欠かせない要素だけれど、とくに今作では巧妙かつ繊細なこだわりが詰まっている。
そのこだわりを明かしたのは、実際に劇中のガガのヘアメイクを手掛けたヘアスタイリストのフレデリック・アスピラスと、メイクアップアーティストのサラ・タンノ。10年以上にわたってガガを担当してきた2人は、長年ガガのヘアメイクを手掛けてきたことで、ガガをまったくの別人であるパトリツィアに見せることにかえって苦労したそう。
毎日8時間のZoomミーティングで各シーンのヘアメイクを計画し、入念な打ち合わせの末に完成したヘアメイクの数は膨大で、劇中でガガが身に着けた54ルックの中でまったく同じヘアメイクはほとんどないという。
実際にどんな工夫が込められているのか、『ハウス・オブ・グッチ』をより楽しめるヘアメイクのこだわりをご紹介。
実際に70~80年代の製品を使ってヘアセット
70年代~80年代のイタリアを舞台にした『ハウス・オブ・グッチ』でガガは、ブルネットのウィッグを着用。シーンごとに数多くのウィッグを使い分け、そのヘアセットは毎回4~5時間もの時間をかけてつくられていたというから驚きだけれど、なんと使用したスタイリング剤やツール、そしてスタイリング方法にいたるまですべて70年代~80年代のものを採用。
ヘアを手掛けたフレデリックは、「ガガをパトリツィアに限りなく近づけるためには、実際にその時代のヘアスタイリング事情に忠実でいることが大切だと思った」と米Refinery29で説明。ムースやスプレーなどのスタイリング剤は当時流通していたものを使用し、スタイリングとパーマのテクニックでも当時のサロンや女性たちのスタンダートな方法を取り入れたという。
さらにフレデリックは、25年に及ぶパトリツィアのヘアカラーの変化も巧妙に計算。マウリツィオと初めてデートに行くシーンでは一度も染めていないヴァージンヘアを再現し、そこからは自分で染めたようなヘアカラー、グッチ家の一員になってからはサロンで染めたようなカラーなどパトリツィア自身の変化をリアルに感じさせるためのヘアカラーづくりにもこだわったそう。
プロっぽさはあえて隠したリアルなメイクに
ライブやMV、レッドカーペットでは最先端かつ美しいメイクを披露してきたガガだけれど、『ハウス・オブ・グッチ』のガガのメイクはひと味もふた味も違っている。
メイクを手掛けたサラ・タンノがもっともこだわったのは、パトリツィアというキャラクターが自分自身でメイクしているように見せること。そのためにあえてプロっぽさのないメイクにしたそうで、「いつもは完璧なメイクに近づけるための努力をしているけれど、パトリツィアのメイクではあえて完璧から遠ざけることに力を注いだ」と説明。魅力と富、力を持ってもなお満たされず、気性が荒いパトリツィアのキャラクターを考慮し、どこか雑で完璧ではないメイクをつくったそう。
さらに特殊メイクを使わずに加齢を表現したのもサラのこだわり。映画などのメイクでは、エピテーゼと呼ばれる人口パーツを使用することも多いが、サラは「見ている人が不自然に感じてほしくなかったから、特殊メイクは使わなかった。そのぶん少しずつ老化していくように見せるため、さまざまなメイクテクニックを駆使した」と振り返った。
ちなみに『ハウス・オブ・グッチ』のガガのメイクでは、ガガが手掛けるコスメブランドHaus Laboratoriesのイタリアをイメージした限定コレクション「CASA GAGA ITALIAN GLAMCOLLECTION」のコスメを使用。同コレクションは、パトリツィアをイメージしたものではないものの、70年代~80年代のイタリアで流行したリップカラーなどが揃っていたため、作品の世界観にぴったりだったそう。
ヘアメイクのために作成した資料は500ページ
『ハウス・オブ・グッチ』のガガのヘアメイクづくりのすごいところは、モデルとなったパトリツィア本人の実際の写真がほとんどない状態から始まったこと。
実在の人物を描いた作品では、写真などの当時の資料を基にヘアメイクがつくられることが多いけれど、パトリツィアに関する写真や資料は限りなく少なく、とくに若いころの写真はどこにもなかったという。そこでフレデリックとサラが行なったのは、500ページにもおよぶ膨大な量の資料作成。
イタリア人女性へのインタビュー、パトリツィアを知る地元の人々との会話、70年代の関連ドキュメンタリー番組の視聴だけでなく、なんと人口統計を使用した研究まで敢行。パトリツィアが生まれ育った地域の人口統計資料を使って、当時のパトリツィアの姿を導き出したという。
この一連の作業を振り返ったフレデリックは、死体から死因の究明などを行なう法医学に例えて「まるで法医学者になったようだった」と語っている。
映画『ハウス・オブ・グッチ』は、2022年1月14日より日本でも公開。映画を見るときには、ぜひヘアメイクにも注目してみて。(フロントロウ編集部)