ドラマ『ハートストッパー』を見て、親にカミングアウトする勇気が出たというLGBTQ+当事者に、フロントロウが話を聞いた。ドラマや映画、コミックといった創作物の影響力とは?(フロントロウ編集部)

温かくハッピーなティーンドラマ『ハートストッパー』

 イギリスのNetflixドラマで、世界中で大ヒットを記録している『ハートストッパー』。アリス・オズマンによるコミックを原作とする本作は、ティーンの少年チャーリーとニックの2人が絆を深めて関係を発展させていく様子や、その友人たち、そして親や教師たちの温かな日々を描く恋愛青春ドラマ。

 ニックを演じたキット・コナーが、「ただ純粋にハッピーなクィアの人々というのは、スクリーンで十分に描かれてはいません。なので僕たちがそれをやったのはとても重要なことです」話すとおり、本作の温かみはLGBTQ+当事者をエンパワメントする力を持つと称賛されている。

 だからこそ、本作を見たことで、親にLGBTQ+であることをカミングアウトすることができたという日本の当事者も。フロントロウが話を聞いた。

『ハートストッパー』は当事者をエンパワメントする作品

 20代の男性であるHさんは、本作を見て「“受け継ぐ物語”だと思ったんです」と語る。本作には、自分の性的指向に悩むニック、すでにゲイであることをカミングアウトしているチャーリー、トランスジェンダー女性のエル、レズビアンであることを隠していないダーシー、ダーシーの彼女であるタラなど、様々なキャラクターが登場する。

 お互いがお互いに良い影響を与えていくなかでは、カップルであることを大々的に公表するわけではなくとも、隠しもしないダーシーとタラという存在が、自分の性的指向に悩むニックをサポートするシーンも。キャラクターたちの間で良い影響が連鎖していく様子を見たことで、Hさんはこう感じたそう。

 「なんでもそうだと思うんですが、例えば日本ではできないけど、いろんな国で同性婚が出来るようになっているのも、自分より前の世代の人たちが行動してきたからこそ今こうやって実を結んでて。いまだに嫌なこととかいっぱいあるけど、とはいえ良くなってきてるから、自分もそこに参加して、より良くしていくことができたら、もっともっと良くなるんだみたいなことをすごくドラマで感じたんです」

 そこで、親にカミングアウトすることを決めたという。本作を見る前から、親に自分について「いつか言いたいなとは思っていた」そうで、本作が「背中を押してくれた」という。

 「めっちゃすごい拒否られたりはしないだろうなと思ってたけど、分かんないから。すごい不安ではあった」と、カミングアウトをする前の心境を明かすHさん。しかし、友達や恋人とは楽しく過ごせているため、親に拒否されてもそれはそれで良いという思いもあったそう。

 「受け入れてほしいっていうか、単純に知ってほしい」。そんな思いで自分について話をしたHさんのことを、親御さんも理解してくれたという。

ドラマや映画、創作物が持つ影響力

 『ハートストッパー』は、LGBTQ+コミュニティに温かく良い影響を与えていることが分かる。自分と同じようなキャラクターやその物語を見られる機会があるというのは、LGBTQ+当事者から、先住民族や黒人といった様々な人種、女性といった、ドラマや映画で描かれづらいカテゴリーに属する人々にとって非常に重要。また、様々な人たちを見ることで、当事者でない人の価値観にも影響を与える。

 一方で、だからこそステレオタイプを描くことは問題となってくる。例えば、ゲイのキャラクターと聞いて、女言葉で話し、ファッショナブルで毒舌といったイメージを想像する人は少なくないのではないだろうか。しかしゲイというのは、男性が恋愛対象である男性であるだけで、外見も性格も様々。

 チャリティ団体Just Like Usがレズビアンを対象にした調査によると、回答者の3分の2が、ステレオタイプなイメージで見られることを恐れて、カミングアウトをためらうという。そして18歳から24歳の回答者においては、そのうちの最多36%が「過度に性的モノ化されている」という理由をあげており、そこには、女性同士の恋愛をエンターテイメントとして消費させる創作物の影響があると見られる。

 日本では、LGBTQ+コミュニティへ向けた作品が、BLやGLというラベルを貼られることも問題だろう。BLやGLというジャンルがあることは、まったく問題ではない。しかし、BLやGLは、当事者よりも、同性同士の恋愛が見たい異性愛者に楽しまれている傾向がある。そして、当事者向けのLGBTQ+作品すらも、マーケティングの際にBL/GLだと紹介され、当事者へ向けた作品が当事者にもリーチするようにマーケティングされていない現状はある。

 また、LGBTQ+当事者の話になると、なぜかセックス関連の話という非常にプライベートな話をして良いとする風潮は問題となってきたが、Hさんによると、『ハートストッパー』の話題で「受け」「攻め」という単語が使われることも少なくないという。

 HさんはBLについて、良い影響も悪い影響もあると感じているとしたうえで、「単純な話で、『ハートストッパー』を見て自分はすごい救われた。でもBLで救われた経験はない」と明かした。

(フロントロウ編集部)

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