※この記事には、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第4話のネタバレが含まれます。
クレア・キルナー監督、セックスシーンへの思い
ドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、『ゲーム・オブ・スローンズ(以下GoT)』のスピンオフ作品であり、『GoT』で批判されてきた問題点が比較的改善されている。『GoT』ではセックスや性暴力に関するシーンや表現が何度も問題になってきたうえ、女性キャラクターの扱われ方も批判されてきたが、それを引き起こした要因の1つには、全73話を撮った監督19名のうち女性監督は1人、脚本家のうち女性は2人だけだったということがある。
しかし、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』ではシーズン1の第4話で女性のクレア・キルナー監督を起用。第1話から3話、6話、7話は男性監督だが、キルナー監督は5話と9話も手掛けるため、今後に向けて良い流れが出来ている。そして、彼女がメガホンを取った第4話が早速大絶賛の嵐に! というのも、この回では様々なセックスシーンが多く、それらが『ゲーム・オブ・スローンズ』のように酷くないどころか、正しく描かれているというのだ。
キルナー監督はHBOによるメイキング映像のなかで、「男性監督がセックスシーンをどうやって撮影するかを見てきた」と話す。だからこそ、レイニラとデイモンがキスをし、しかしデイモンがレイニラとセックスは出来ず、その後1人になったレイニラがサー・クリストンを誘うという一連の展開で、レイニラが1人の人間として感情を持っているリアルな様子が描けたのだろう。
「デイモンはそれがレイニラにとってショッキングなことだと思っていたけど、彼女はショックを受けただけでなく、テンションがあがっていた。そしてそれが起こった時…、彼には何もなかった。そして彼は、コントロールができないこと、主導権を握れないことに折り合いをつけられなかった。あれが何を言っているかって、あの若い男性と同じくらいセックスがしたい若い女性がいるということではないでしょうかね(笑)」
インティマシー・コーディネーターが女性俳優たちを守る
一方で、女性がセックスを楽しむ様子が描かれたからといって、撮影現場で女性が守られないようなことはなかったよう。本作では、俳優が裸になる撮影や、セックス・キスシーンなどの親密なシーンで俳優を守る専門家のインティマシー・コーディネーターが雇われた。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』や『Got』の制作局HBOは2018年から全作品の全親密シーンでインティマシー・コーディネーターを起用している。
第4話では、アリセントとヴィセーリス王の親密なシーンも複数あったが、アリセントを演じたエミリー・キャリーは『GoT』におけるセックスシーンが「暴力的」だったことを知っていたため、脚本を読んだ時から「怖かった」と言う。
しかも、撮影時にエミリーは18歳で、王を演じるパディ・コンシダインは彼女より30歳年上。彼と面識はなかったエミリーは、米Newsweekのインタビューで、「47歳の男性と私だけがいるっていう想像しかできなかったです。少し危惧していました」と振り返る。しかしインティマシー・コーディネーターが味方でいてくれることが大きな助けになり、撮影を乗り越えることができたという。
「インティマシー・コーディネーターという支えがいて、すべてを話せて、うっとおしがられることもなく、気まずくなることもなく、『これはあなたの仕事でないのは分かってますし、面倒くさがらせたくはないんですが、でもお願いがあるのですが…』となる必要もないというのはね…。本当にオープンに会話ができました。彼女(インティマシー・コーディネーター)はリハーサルで大きな助けでした。そしてセットでも大きな助けでした。思っていたより簡単でした」
インティマシー・コーディネーターについては、『ゲーム・オブ・スローンズ』でエダード・スタークを演じたショーン・ビーンが「自然さを台無しにする」と発言し、多くの女性俳優から批判を受けた。変わらない人もいるが、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の制作陣は歩みを進めた。
ファンからも絶賛の声
第4話にはファンからも大きな拍手が集まっている。ある人物は、「女性の視点から描かれ、女性監督によって撮影されたセックスシーンは異なるものになる!『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、『ゲーム・オブ・スローンズ』が間違ったことから学んだ」と評価。
別の視聴者は、「『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』に100%夢中にはなっていないけど、女性監督が生み出した変化は驚くべきものだというのは言わせて。あぁ、神様。同じエピソードに買売春宿から、様々なセックスシーンまで登場したけど、最悪な気分にさせられなかった」と話していた。
インティマシー・コーディネーターの第一人者であるイタ・オブライエンは、フロントロウによる独占取材で、女性の性を描くときには女性目線である必要があると語っていた。「なによりもまず、女性の性的快感を描くのであれば、それは女性によって書かれたものでなくてはいけません。脚本は女性によって書かれている必要があります。もし男性によって書かれていたら、それは男性目線のものになりますから。もちろん、男性目線というものに問題はありません。しかしそれが良くないのは、男性目線が基準になっている時と、人々が、それが男性目線だと気がついていない時です」。
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、それを見事にやった。
(フロントロウ編集部)