インティマシー・コーディネーターのパイオニアであるイタ・オブライエンに、フロントロウがインタビュー。最終回となる第3回目は、監督との衝突経験や、女性の性的快感を描くことについて。(フロントロウ編集部)

インティマシー・コーディネーターと監督の関係性

 映像作品のセックスシーンやキスシーンといった親密なシーンの撮影で、俳優を守る専門家として日本でも知られてきているインティマシー・コーディネーター。その理論や実践を発展させてきたパイオニアであるイタ・オブライエンが、フロントロウ編集部のインタビューに登場した。

画像: インティマシー・コーディネーターと監督の関係性

インティマシー・コーディネーターの仕事内容とは?

 日本ではここ数年で、監督による横暴が横行していることが問題となってきており、俳優を守ろうとするインティマシー・コーディネーターと監督が対立することもあるという。そしてそれは、イタもインティマシー・コーディネーターとしてのキャリアの当初には経験していたこと。そこで彼女は、自身の仕事内容や、なぜそれが必要なのかを明確に説明することを心掛けていたという。

 「(監督との対立経験は)イエス、もちろん。自分の仕事をプロデューサーや監督に説明する時に、私の役割はサポートすることだと言うんです。制作においてベストな対応ができて、プロフェッショナルなプロセスを踏むことができるようにプロデューサーをサポートします。そうすれば親密なシーンも、アクションのスタントと同じように計画され、議論され、リハーサルが行なわれる。

 最終的に最高の作品にするためには、すべての人が自分が必要とすることを言えなければいけません。監督は、振付師やスタント・コーディネーターが、自分のビジョンのためにいると知っていますよね。それが、私が初めに監督に話すことです。『私はあなたのビジョンをサポートするためにここにいます。あなたをサポートします。私はあなたの味方です。そしてあなたにない技術、あなたが持っていると期待されるべきでない技術を活用します』と。

 どうやって親密なシーンを振りつけるかを、なぜ監督は知っているべきなのか?じつは、必要とされているのはボディダンスなんです。さらに、私たちは人間だから全員が性的な存在だと考えがちですが、それぞれに非常に異なる性的表現があることを理解するべきなんです。

 このキャラクターの性的表現はこれであり、それもまた技術によって持ち込まれる。私たちは、俳優たちが個人として安全であり、個人として意見を聞いてもらえている状況を作りたいんです。そうすることで、プロフェッショナルに、そして芸術的に、俳優たちは脚本を深堀りし、分析し、キャラクターやその人間関係、性的表現にすべてを投じることができる。そしてリサーチが必要であれば、きちんとリサーチをすること。そうすることで、細かなことまで正しく描けるでしょう。そのような考え方を制作陣や監督に促さないといけません」

画像: インティマシー・コーディネーターの仕事内容とは?

イタ・オブライエン、監督から無視された過去

 しかし、環境はそうすぐには変わらない。彼女は、過去に監督に取られた態度や、言われた言葉を明かしてくれた。 

 「もちろん、初期の頃には、私は振りつけのためにここにいるのだと聞かないプロデューサーや監督から悪い態度を取られることもありました。彼らは、“話したくない”という考えから離れられなかったのです。

 最悪だった監督の行動の1つは、私が彼らと話そうとしても、彼らは話してこなかったことですね。そしてリハーサルであるシーンをやることになったんですが、彼らは私のやる部分だけ後でやると言いました。他のすべてのシーンを撮り終えて、主演俳優が閉じられたセットが必要だと言いました。そこで私はその瞬間のカメラアングルに適した振りつけを考えた後に、監督にクローズドなセットができたのでこちらへ来て、撮影を続け、残りを振りつけて、見てみてくださいと伝えたところ、それは後でやると言われました。そしてやっと始まり、次のカメラアングルになった時、『オッケー。ウエストをもって。1、2、膝を下へ。3,4』と振りつけをしたら、彼(監督)はすぐに、『君が俳優たちに指示を出しているじゃないか。最悪だ。彼女(俳優)に演技させろ』と言ってきました」

“インティマシー・コーディネーター”が知られるようになり、変化が

 監督などに理解されないなかでも、パイオニアであるイタが道を切り開き、着実に歩みを進めてくれたことでインティマシー・コーディネーターという仕事が知られるようになっていった。すると、コーディネーターたちはその力量を発揮し始め、制作に関わるすべての人々の間で変化を起こし始めた。

画像1: “インティマシー・コーディネーター”が知られるようになり、変化が

 「一度この仕事が知られると、監督たちと話せるようになりました。だから私は彼らにこう伝えるようになりました。『あなたがやりたいことをすべてできるようにします。私のスキルは聞くことであり、あなたが意見を主張できて、シェアできて、あなたがしたいように制作できるように、すべてを振りつけるサポートをすることです。さらに言うならば、私は親密なシーンに監督のビジョンがより反映されるようにもサポートしているのです。何がしたいかをより明確にすることができます。なぜなら、これまでに私たちはオープンな会話をし、リハーサルをし、俳優と話す機会もあったからです』と。

 そして私は親密なシーンにおいて監督がビジョンを持てるようにサポートもしているのです。何がしたいかをより明確にすることができる。なぜなら、それまでに私たちはオープンな会話をし、リハーサルをし、俳優と話す機会もある。監督にはいつも、まず初めに俳優たちと話すようにと言っています。監督がすべてを決めるのですから、だからこそまずは俳優たちと話し、自分のビジョンをシェアするようにと。そして次に私が俳優たちと話す。『このくらいのレベルの性的な内容のシーンだけど、何が必要?完全に裸になっても大丈夫?』と聞くと、完璧に平気だという俳優もいれば、乳首を隠すパッチがほしいという俳優もいる。腰が見られたくないという俳優もいる。

 その後私は俳優と衣装部を繋ぎ、正しい衣装が用意されるように手配する。そして監督にも、このセックスシーンを撮ることはできるが、これらが必要であるという話をする。そうすると、今度は監督が求める身体的なストーリーテリングを実現するために、撮影監督とカメラアングルの話をする。でもカメラアングルは、俳優が提示した条件を尊重したものにする。

 だからこれは、私たちが少しずつ押しすすめるコラボレーションなんです。そうしておけば、撮影が始まった時には、すべてが理解されている。すべての人が、どうやって撮影が進められるか分かっている。すべての人に敬意が払われ、それぞれが必要としていることを理解している。そうすることで、私たちは自由に、そしてオープンに働くことができます」

画像2: “インティマシー・コーディネーター”が知られるようになり、変化が

どのような撮影現場でもコミュニケーションが足りていなかった

 彼女によると、親密なシーンだけでなく、以前の撮影現場ではそれぞれのスタッフや部門のコミュニケーションが充分になされていなかったという。しかし、インティマシー・コーディネーターが現場で起用されるようになり、総合的に各スタッフのコミュニケーションの機会が増えたことで、作品自体のクオリティも上がっているよう。

 「コミュニケーションが中心にあるべきです。(インティマシー・コーディネーターの)スキルの最も大きな部分はコミュニケーションです。しかし面白いことがあります。バズ・ラーマンによる(映画『ムーラン・ルージュ』の劇中歌の)「エル・タンゴ・ド・ロクサーヌ(El Tango De Roxanne)」を考えてみてください。バズ・ラーマンは彼の振付師に、これが自分がしたいことだと伝えます。振付師はダンサーたちに、これがバズが求めていることだと伝えます。そして何が起こると思いますか?それだけなんですよ。それについて2度と話さない。ただカメラが回り始めるのを待って、ダンサーたちをカメラの前に投げ出して、ダンサーたちはとりあえずやってみるんです。それは少しリスクがありますよね。

 でも撮影現場というのはそういうものだったんですよ。ラーマンが振付師にこう言うんです。『ダンサーを連れてきて。ステップを教える。そしてマクレガーだ。彼にも教える。この時に君はドアからロクサーヌを歌いながら出てくる』ってね。

 それはすべて振りつけられています。だからみんながカメラの前に出てきた時、全員が素晴らしい。それと同じことなんです。それは業界の考え方を変える助けになりました。これ(インティマシー・コーディネーティング)はダンスやアクションとまったく同じなんだと。これは身体を使ったダンスで、もし本当に良い成果が欲しいのであれば、監督として良い仕事ができるようになりたいのであれば、俳優に良い仕事ができるようになってほしいのであれば、撮影監督に親密なシーンでカメラアングルを使って良い仕事ができるようになってほしいのであれば、この方法を取り入れるべきなのです。

 去年、最も才能のある撮影監督と一緒に仕事をしたのですが、あれは素晴らしかった。彼が過去に経験した状況について話してくれたのですが、あるクローズドな部屋での撮影で、監督は俳優たちにこうしたいと伝え、カメラマンを部屋に入れました。そして監督は、『ここにいるから、俳優たちにやらせてみて。そして君は何が撮れるかやってみて』と言ったそうです。俳優たちはベストを尽くして、彼はどうにか撮影しようとした。

 一方で、私が彼と初めて一緒に仕事をした去年の作品では、彼はインティマシー・コーディネーターと一緒に働き、彼は本当にたくさんの素晴らしい親密なシーンを撮影しました。そして彼は、『親密なシーンの撮影において初めて、自分が持つ技術のすべてを使うことができました』と言ってくれました。あるシーンでは、彼は俳優たちの間にいて、俳優たちは彼の周りを動いていました。上にはクレーンがありました。でも私たちは、事前にしっかりと時間を取ってオープンでクリエイティブな会話ができていたので、そのようなクリエイティブな仕事がすべてこなせました。親密なシーンにおいて全員が最高の働きをできるようにアシストすることは、とても楽しく素晴らしいことです」

女性の快感を描くうえで注意すべきこと

画像: 女性の快感を描くうえで注意すべきこと

 これまでに制作されてきた映像作品では、多くのアダルト動画はもちろんのこと、一般作品の親密なシーンであっても女性の性的快感の描かれ方に批判が起こることは多々あった。映像業界には、女性の監督も、女性の脚本家も、女性の撮影監督も少ない。そのなかで描かれる女性の性的快感は、リアルなものではないことが多い。インティマシー・コーディネーターとして、女性の性的快感の表現をイタはどのように見ているのだろうか?

 「なによりもまず、女性の性的快感を描くのであれば、それは女性によって書かれたものでなくてはいけません。脚本は女性によって書かれている必要があります。もし男性によって書かれていたら、それは男性目線のものになりますから。もちろん、男性目線というものに問題はありません。しかしそれが良くないのは、男性目線が基準になっている時と、人々が、それが男性目線だと気がついていない時です。

 なので女性の脚本家が女性の快感について書くというのはストレートなことでしょう。(ドラマ『セックス・エデュケーション』の)ローリー・ナンや、『I May Destroy You』のミカエラ・コール、『ノーマル・ピープル』や『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』の(原作者である)サリー・ルーニーといった女性脚本家と一緒に仕事ができたことは、非常に幸運であり誇りに感じています。

 女性俳優たちは性的なシーンで何を求めるか分かっています。保護を求めたりもする。必要なことを頼んできます。それもまた女性の快感の一部だと思っています。つまり、自分は何がしたい?というのが始まりのポイントだと思います。そしてもちろん、誰かとのセックスシーンをする俳優がいれば、そこにフォーカスします。演技のパートナーがいるわけですから。

 マスターベーションのシーンでは、俳優はより自分をさらすことが多くなりえます。そこには俳優1人とカメラしかいないので。なので、そのキャラクターはこのシーンでどのような人物なのか?なにをしているのか?それをしている理由は何なのか?そのことから引き出される身体性とは何か?といったことを考えるのがより一層重要になります。

 つまり、私たちは、このキャラクターは誰なのか、その意図は何なのか、物語におけるこのシーンは何なのかということを振りつけているんです。そしてそこからクオリティを確かめる。それは、昼下がりに甘える気だるさの瞬間なのか?それは、一種の名誉を与えようとしている取り乱した性的抑圧の瞬間なのか?

 私たちがサポートしたいのは、俳優たちが、マスターベーションという個人的な瞬間において本当のプライベートな自分を見せたり表現したりしていると感じないようにすることです。その撮影ではより自分をさらすこともありえるので、それは重要です。よって、このキャラクターは誰なのか、物語の流れは何なのかということを深く分析することや、リズムやすべての要素を選んだうえでの振りつけが重要で、そうすれば俳優はキャラクターになりきることができ、そのキャラクターの意図や物語に入り込めます」

 3回にわたってお届けしてきた、インティマシー・コーディネーターであるイタ・オブライエンの思い。MeToo運動が起こった時には、彼女が理論と実践をすでに発展させてきていたことは、非常に幸運なことのように思える。また、親密なシーンの専門家の存在が、作品自体の質の向上につながることは、忘れてはならない重要なポイント。日本でも必要とされている彼女の技術が、今後も世界中にネットワークを広げ、業界を変えていくことを願う。

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(フロントロウ編集部)

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