アヴリル・ラヴィーンの来日公演が8年ぶりに実現
アヴリル・ラヴィーンが8年ぶりとなる来日公演を行ない、久しぶりに日本のステージに立った。今年でデビューアルバム『レット・ゴー』のリリースから20周年という記念すべきアニバーサリーを迎えたアヴリルは、キャリアを通して日本への愛を示し続けてくれており、来日ツアーも頻繁に行なってきた。前の来日公演から8年というブランクは、アヴリルのキャリアを通じて最長の期間となった。
2014年に前回の来日公演を行なった後で、アヴリルは同年にライム病を患っていることを公表して、治療に専念。2018年にアルバム『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』で復活を果たしたアヴリルは、2020年に予定されていた来日公演で久しぶりに日本のファンと会えるはずだったが、パンデミックのために2度にわたって延期を余儀なくされることに。だからこそ、ファンにとっても、アヴリルにとっても、8年ぶりに実現した今回の来日公演は特別な意味を持っていた。ちなみに、今回の来日公演では、チケット1枚の収益につき2ドル(約280円)が、慈善財団「アヴリル・ラヴィーン・ファンデーション」を通して難病患者支援のためのチャリティ活動に寄付された。
今回の来日公演は、アヴリルがポップパンクに原点回帰したことでも大きな注目を集めた、今年2月リリースの通算7作目となる最新アルバム『ラヴ・サックス』を引っ下げたツアーの一環として行なわれたもの。同時に、今年はデビュー20周年という記念すべき年ということで、『ラヴ・サックス』の楽曲を中心に据えつつも、アヴリルのこれまでのキャリアをギュッと凝縮したような、ファンにはたまらないセットリストが披露された。11月10日(木)に東京ガーデンシアターにて行なわれた、ジャパン・ツアー3日目となる公演の模様をレポートする。
アヴリル・ラヴィーンの『ラヴ・サックス』ツアーをレポート
ほとんど定刻通りに客電が落ちて、アヴリルによるジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ「Bad Reputation」のカバーをBGMに、スクリーンにこれまでの20周年を振り返るような映像が投影される。ファンがアヴリルと共に歩んできたそれぞれの思い出が蘇ってくるような映像が流れた後で、ステージの幕があがり、アヴリルが登場。『ラヴ・サックス』からのファーストシングル「Bite Me」から、東京での2日目の公演となるこの日のステージをスタートさせた。
いつも通りのパンクな衣装でステージに登場したアヴリル。デビュー当時からずっと変わらないパンクなファッションはアヴリルの魅力の1つで、彼女はキャリアを通じてファッションアイコンであり続けている。昨今のY2Kムーブメントも相まって、当時から一貫しているアヴリルのファッションには再び注目が集まるようになっているが、この日の公演にも、アヴリルをリスペクトしたファッションに身を包んだファンが多く訪れていた。
「Bite Me」を終えたアヴリルはここで、「こんにちは」と流暢な日本語で挨拶。「ハロー、ジャパン! みんな調子はどう? 『ラヴ・サックス』ツアーへようこそ!」と観客を歓迎して、2曲目には4thアルバム『グッバイ・ララバイ』より「What The Hell」を披露して、冒頭からアッパーな2曲を連発する。歌詞に「Tokyo」というワードを入れ込むなど、東京公演ならではの嬉しい演出も盛り込みながら、会場のボルテージをあげていく。
そして、3曲目にはYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で披露したことでも話題になった、1stアルバム『レット・ゴー』収録の「Complicated」が早くも披露される。この曲を披露するにあたり、アヴリルは「日本に戻ってこられて嬉しいよ。東京は世界中でお気に入りの都市。私はこの20年の間に何度も日本に来たし、みんなすごくサポートしてくれたよね。日本のみんな、私のことをサポートしてきてくれて本当にありがとう。これは私のファースト・シングルだよ。デビュー1日目から私の音楽を聴いてくれていたみんなに捧げます」と語って、20年にわたってそばにい続けてくれたファンに心からの感謝を伝えた。
デビュー20周年のお祝いを兼ねた来日公演に
ここからステージは<アクト2>へ。一度ステージを離れ、ギターを持って戻ってきたアヴリルが披露したのは、2ndアルバム『アンダー・マイ・スキン』より「My Happy Ending」。そう、ここまでは4曲が別々のアルバムからパフォーマンスされており、今回のツアーが、20周年のアニバーサリーを兼ねたものであることを改めて実感する。
20年のキャリアを遡ったアヴリルはここで、「今度は先週リリースしたばかりの新曲だよ」と紹介して、ヤングブラッドとの「I'm a Mess」をパフォーマンス。デビューから20年が経過し、ビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴら、音楽シーンには“アヴリル チルドレン”とでも呼ぶべき、アヴリルから大きな影響を受けた若手アーティストたちが多く登場しているが、アヴリルを「エモ・クイーン」と崇めるヤングブラッドもその1人。スクリーンに映されたMVから流れてくるヤングブラッドの歌声にアヴリルが自身の歌声を重ねるように披露された「I'm a Mess」のパフォーマンスでは、アヴリルがこの20年間でカルチャーに与えてきた影響の大きさに思いを馳せることになった。
続けて、再び『レット・ゴー』より次は「Losing Grip」を披露して、同作の20周年を改めて祝福した後で、「ある人を連れて来たの。その人は今回が初めての日本なんだ」と紹介してステージに呼び込んだのは、なんと今年4月に婚約を発表したフィアンセであるモッド・サン! ステージに登場したモッドはアヴリルの頬にキスをして、2人が急接近するきっかけになった思い出のコラボ曲「Flames」を一緒にパフォーマンス。モッドは前日の9日に行なわれた東京公演の1日目のステージにもサプライズで登場していたが、初来日ということで、「東京! 手を挙げてくれ!」と煽るなど、アヴリルより気合が入っていたのではと思うほど、テンションがマックスだったのが印象的だった。
アヴリルはこれまでの『ラヴ・サックス』ツアーの公演でもたびたびモッドと共演していたが、婚約者との共演が日本のステージで実現したのはレア。愛するモッドを日本に一緒に連れてきたという事実もそうだし、アヴリルの日本愛の大きさを実感した瞬間の1つだった。「Flames」をパフォーマンスし終えた2人はお互いを強くハグしたが、その光景に黄色い歓声があがったのは言うまでもない。その後、『ラヴ・サックス』よりブラックベアーとの「Love It When You Hate Me」を披露して、<アクト2>を締めくくった。
アヴリルから届けられた“変わらないで”というメッセージ
<アクト2>と<アクト3>を繋ぐ楽曲として流れたのは、アヴリルの日本への愛とハローキティへの愛が存分に詰め込まれた「Hello Kitty」。アヴリルによる歌唱こそなかったが、会場を温めるには十分すぎる選曲で、続けて披露された、3rdアルバム『ベスト・ダム・シング』収録のアンセム「Girlfriend」まで繋いだ。バンドの先導による拍手から始まったこの楽曲のパフォーマンスはもちろん大盛り上がりで、アヴリルからも、「みんな最高、東京! みんな大好き、東京!」と日本語で愛が送られた。
再び『ラヴ・サックス』より、お次はマシン・ガン・ケリーとツアーしたことがきっかけで誕生した、彼とのコラボ曲「Bois Lie」をパフォーマンス。ここでは、コール&レスポンスで観客と交流する場面もあったのだが、「Liar(嘘つき)」というワードでコール&レスポンスするのも、最新作で「Love Sux=恋なんて最低」と歌うアヴリルらしい。そして、アヴリルが「東京、パーティーしよう! みんながジャンプしてるのが見たい。今夜、私のスケーターボーイたちはどこにいるの?」と呼びかけた後で、本編を締めくくったのは『レット・ゴー』より「Sk8er Boi」だった。
一度ステージから捌けた後で、バンドとアヴリルが再び登場して、ここからアンコールへ。アンコールの1曲目として披露されたのは、アヴリルがライム病を乗り越え、復活を宣言した6thアルバム『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』の表題曲「Head Above Water」。このアルバムを引っ下げた来日公演は新型コロナのために延期になってしまったため、この楽曲が来日公演で披露されたのは今回が初めて。そして、アヴリルが完全復活した姿を日本のファンの前で公演という形で見せてくれたのも、今回が初めてだという事実を、このパフォーマンスで改めて思い出したファンも多かったはず。ファンたちの頭に様々な思いが交錯したであろう「Head Above Water」のパフォーマンスを終えた後で、アヴリルが発したのは、「ありがとう」という一言。この日、ファンと積極的にコミュニケーションを取っていたアヴリルが、たった一言のシンプルな挨拶でMCを終えたのはこの時だけだったけれど、「Head Above Water」に限っては、「ありがとう」の一言で十分だったし、その一言にすべてが詰まっていた気がする。
アンコールの2曲目には、『レット・ゴー』より「I'm With You」がパフォーマンスされた。この曲はアヴリルのライブにおける定番のラスト曲として知られており、これまでの来日公演でも何度も披露されてきたが、ファンとアヴリルの結びつきを象徴するような「あたしはあなたについて行く」という歌詞が、デビュー20周年という節目だった今回は、これまで以上に深い意味を持って会場に響いていたように思う。この曲がラストの定番曲であることを知っているファンたちも多く、「I'm With You」のパフォーマンス終了と共に席を立って、会場を後にしようとするファンも少なくなかったが、この日はここで終わらなかった!
「I'm With You」で締め括られるかと思いきや、初日の横浜公演や前日の東京公演では序盤や中盤で披露されていた、「Here's to Never Growing Up」がここで最後にパフォーマンスされる。最近の他の公演のセットリストを見ても、この曲がラストに披露されること自体が珍しいのだが、アヴリルにとっては、「いつまでも大人にならない人たち(Here's to Never Growing Up)」にメッセージを伝えることが大切で、これをパフォーマンスせずには帰ることができないのだろう。
5thアルバム『アヴリル・ラヴィーン』に収録された「Here's to Never Growing Up」もパフォーマンスされたことで、この日の来日公演では、アヴリルがこれまでにリリースした7枚すべてのアルバムから楽曲が披露されたことになった。20周年のアニバーサリーを兼ねた今回の来日公演で実感したのは、歌声やファッションも含めて、アヴリルの“変わらなさ”であり、それはこの20年という旅路のどこかでアヴリルと出会った、ファンのアヴリルへの愛も同じだということ。
ラストに披露された「Here's to Never Growing Up」には、ファンとアヴリルの20年間変わらない関係性が凝縮されていたように思う。20年経ってもアヴリルはずっと、ファン1人1人の中に存在する“あの時のアヴリル”のままだし、それはファンも同じ。アヴリルが“いつまでも大人にならなくていい”と歌うように、ファンだって、いつまでもアヴリルを好きになった時の自分のままでいいのだ。きっとアヴリルは30周年のツアーでも、40周年のツアーでも、変わらないアヴリルのまま日本へ来てくれるだろうし、こうして“変わらない”ファンを肯定し、祝福してくれるはず。そして、デビューした20年前には誕生していなかったオリヴィア・ロドリゴのような新世代を魅了したように、アヴリルはその変わらない魅力で、自分らしくありたいと願う人たちをこれからも惹きつけ続けるのだろう。(フロントロウ編集部)