元々はユニバースになる予定はなかったDCEU
『バットガール』や『ワンダーウーマン3』の制作中止、ヘンリー・カヴィルのスーパーマン役への続投否定など、ファンには悲しいニュースが相次ぐDCEU。親会社が合併によってワーナー・ブラザース・ディスカバリーになってからニュースが多くなっている印象だが、以前からハプニングは多かった。
まずもって、DCEUの1作目である『マン・オブ・スティール』が公開された当初は、ワーナー・ブラザースは共有ユニバースを構築する計画ではなかった。そこでやはり影響したのはMCUの存在。MCUが映画史に残る大成功を収めたことで、DCEUの構築が進んでいった。
しかしMCUの興行収入と比べると、DCEUははるかに見劣る。MCUにおけるアメリカでの興行収入トップ3は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の8億5,800万ドル、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の8億400万ドル、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の6億7,800万ドルで、合計すると23億4,000万ドル(約3,200億円)にのぼる。
DCEUは『ワンダーウーマン』の4億1,200万ドル、『アクアマン』の3億3,500万ドル、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の3億3,000万ドルで、合計すると10億7,700万ドル(約1,500億円)。
出演俳優やスタッフのトラブル
現在では、DCEUと聞くとトラブルが多いイメージすらあるファンも少なくない。その原因は作品の進行だけでなく、出演者に関する問題が絶えなかったこともある。
フラッシュを演じるエズラ・ミラーは、犯罪行為や奇行によって世間を騒がせてきた。問題には未成年や拳銃、カルト団体が絡むこともあったことから、彼の復帰はないと予想する人もいたが、彼が謝罪し、専門家の助けを得るとしたことで、続投は決まっている。
メラを演じたアンバー・ハードは、元夫ジョニー・デップとの数々の裁判を経験。『アクアマン2』からの降板を求める署名もあったが、制作陣は彼女の起用を継続する決断を下した。
また、『マン・オブ・スティール』と『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』を手掛けたザック・スナイダーは、『ジャスティス・リーグ』の制作中に娘が自殺するという痛ましい事件に見舞われ、家族との時間を過ごすために降板。
その後任としてジョス・ウェドンが監督となったが、サイボーグを演じたレイ・フィッシャーが彼の態度の悪さを告発。ウェドンの問題行動に対しては他のキャストからも批判が出た。レイはその後DCフィルムズとの関係も悪化したため、サイボーグは単独映画どころか、今後DCEU作品に登場する可能性も低い状況となっている。
ワーナーメディアの合併、CEOの方針
ここ数ヵ月で報じられているDCEUの変更・キャンセルは、ワーナーメディアとディスカバリーの合併に影響されている。合併は2021年に発表され、2022年に完了。そして現在は、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーCEOであるデイビット・ザスラフが指揮を執っている。
彼は2022年8月に、「バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマン、アクアマン…、これらのブランドは世界中で知られています。リセットは完了しました。今後注力していくビジネスを再構築し、10年プランでDCに集中するチームもできます。よりサステナブルなビジネスを作っていけると信じています」とコメントしている。
ジェームズ・ガン監督がDC映画のトップに
そして彼は2022年10月に、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズや『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の監督として知られるジェームズ・ガンと、ピーター・サフランを、新設されたDCスタジオのトップに抜擢。
「次の数年間で、DC関連で大きな成長とチャンスを見ることになると思いますよ。バットマンが4人になることはありませんがね。私達の戦略は、DCを抜け出すことです。ジェームズとピーターはそれを行ないます。彼らはファンを感激させてきたと思います。彼らはあなた方を何年もの間楽しませると思います」とコメントした。
差別的傾向が指摘される
一方で、ザスラフ氏は就任後に上層部に非常に多くの白人男性を起用しており、そしてなによりも、問題行動だらけのエズラが主演の『フラッシュ』は継続させた一方で、すでに撮影が完了していた『バットガール』をお蔵入りにしたことから、白人男性優位な思考があるのではないかと指摘されている。
そして、ここにきての『ワンダーウーマン3』のキャンセル。これはザスラフ氏の判断ではなくDCスタジオの判断だと伝えられており、また、「現在の状況」が問題とされているため、パティ・ジェンキンス監督が降りるかどうか、別のアイディアで物語を進めるかどうか、『ワンダーウーマン3』が別のストーリーで進められるかどうか、といった詳細は不明。
『ワンダーウーマン2』は、大成功した1作目と同じ収益や評価は得られなかったとは言え、ワンダーウーマンはDC を代表するキャラのひとりで、1作目はアメリカにおいてDCEUで最も興行収入を得た作品。問題だらけのエズラの作品が続行で、ワンダーウーマンが打ち切りとなれば波紋を呼ぶことは間違いないだろう。米Vultureは、ジェンキンス監督と主演ガル・ガドットのギャラが高すぎたことが原因だと報じている。
DCUEに属さない単独映画の大ヒット
また、DCコミックスキャラクターを主人公としているが、DCEUには属さない単独映画が大ヒットを記録していることも、様々な判断に影響しているのではないかと言われている。トッド・フィリップス監督による2019年の映画『ジョーカー』や、マット・リーヴス監督による2022年の映画『ザ・バットマン』の名前があげられる。
現在制作中の『ジョーカー2』では、DCEUでハーレイ・クインを演じてきたマーゴット・ロビーではなくレディ・ガガが彼女を演じること、『ザ・バットマン』はスピンオフ作品の制作も進んでいることなどが、今後のDCEUに影響していくかどうかは、注視されている。
とはいえ、DCEUは当初から変更はありがちだった
2016年に公開された『スーサイド・スクワット』のスピンオフとしては、『Joker vs Harley Quinn』や『Gotham City Sirens』が計画されていた。『Joker vs Harley Quinn』に関しては脚本家や監督も決まっていたが、2作ともキャンセルとなり、その代わりに『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』が公開。また、ジャレッド・レトによるジョーカーの単独主演作も計画されていたが、こちらもキャンセルとなった。
バットマンおよび俳優ベン・アフレックも、DCEUについて様々なことがあった人物。俳優としてDCEUに参加したベンは、その後監督としても携わっていく予定だったが、離脱。その代わりとしてマット・リーヴス監督が参加するに至ったが、彼の作品は『ザ・バットマン』に。
2016年には『ジャスティス・リーグ』でジョー・マンガニエロが演じたデスストロークのソロ映画が匂わされ、2017年には脚本家と監督が決定したが、2021年以前にキャンセルに。
2018年に発表されたエイヴァ・デュヴァーネイ監督による『The New Gods』は2021年4月にキャンセルとなった。『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』にダークサイドが登場したことで、スタジオ側がダークサイドの再登場までに時間を置きたいと判断したと見られる。
2019年には、『ソウ』や『死霊館』などのホラー映画でも手腕をふるってきたジェームス・ワン監督による『The Trench』の制作が発表されたが、こちらも2021年4月にキャンセルになった。
2016年には『Green Lantern Corps』も発表されていたが、クリエイティブチームといった詳細の発表はないまま、実現していない。しかしグリーン・ランタンに関しては、HBO Maxでのドラマプロジェクトが進んでいる。
2022年2月に発表され、4月にはキャストも決まっていた『Wonder Twins』は、7月から撮影予定だったがその約2カ月前にキャンセルとなった。
『スーサイド・スクワッド』からは、ウィル・スミスが演じたデッドショットのソロ映画も発表されていたが、ウィルの出演料が高いという理由で進行が後回しにされていると2022年に米THRが報じた。
DCEUはどうなるのか?
DCEUの将来は、ガン監督によるDCフィルムズの方針がどのようなものとなるかによるところが大きい。
米Forbesは、DCフィルムズが現在公開が予定されているDCEU作品がすべて公開された後に、現状のDCEUを終わらせ、新しいキャストで新しいDCEUを構築しようとする可能性もあると報じている。
(フロントロウ編集部)