ホラーを、女性像を、俳優の人生を変えた『ハロウィン』シリーズ、ついに完結
映画『ハロウィン』がハリウッドに与えた変革を挙げだしたらキリがない。
マイケル・マイヤーズという冷酷無比な殺人鬼が次々と犠牲者を襲うスタイルは、その後の『エルム街の悪夢』や『13日の金曜日』など、多くのスラッシャー映画に受け継がれていくことに。特別な超能力を持たない生身の人間であるマイケル・マイヤーズという存在は、“現実に起こりうるかも”というリアリティで恐怖感を演出。劇中では、繰り返し流れるシンプルなテーマソング「ハロウィン・テーマ」が恐怖を増幅させ、ホラー映画のサウンドトラックに革新をもたらした。
次に、ローリー・ストロードという主人公。それまで、ホラー映画での女性の役割と言えば、悲鳴で恐怖を煽ること。犠牲者や男性に助けを求める役ばかりだった。しかしローリーは知性と冷静さを武器にマイケル・マイヤーズに勇敢に立ち向かい、最後まで生き延び、“ファイナル・ガール(※ホラー作品で最後まで生き残りその体験を語る女性キャラ)”というホラーあるあるの原型的存在に。70~80年代に映画界のステレオタイプを壊した、エレン・リプリー(『エイリアン』)やサラ・コナー(『ターミネーター』)と並ぶアイコニックな女性キャラとなった。
そして、そんなローリーを演じたジェイミー・リー・カーティス。特定のジャンルで独自の存在感や個性を発揮して、そのジャンルの作品に多く出演している俳優を“ジャンル俳優”と言うが、ジェイミーは映画デビュー作だった『ハロウィン』で、ホラー界を代表する女優に与えられる”スクリーム・クイーン”の称号を得て、ホラーのジャンル女優として大活躍。その後、ローリー役で見せた素晴らしい表現力を駆使し、コメディやSFなど幅広い演技にも挑戦し、『ハロウィン』での映画デビューから約45年、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でキャリア初のアカデミー賞を受賞。その受賞スピーチでも、ホラー・ジャンルのファンに感謝した。
そんなジェイミーは、映画『ハロウィン THE END』で、自身のキャリアを変えたローリー・ストロードという役とお別れする。自身の演技のルーツであり、幅広いジャンルで活躍するきっかけを与え、その後の華麗なキャリアを支える原動力となった役への思いをフロントロウ編集部に明かした。
『ハロウィン THE END』の撮影最終日は、どのようなお気持ちでしたか?
ジェイミー・リー・カーティス:映画の終わりというのは、難しいものです。ほとんどの人ともう二度と会うことはないでしょう。ものすごい肉体労働を一緒に行ない、一緒に血と汗と涙を流してきました。とんでもなくクレイジーな時間まで一緒に働いてきました。本当におかしな状況に身を置いてきました。だからその日は、始まりから終わりまでずっと泣いていましたね。一緒に映画を作った友達だけでなく、ローリー・ストロードにも別れを告げ、ローリー・ストロードに感謝の気持ちを伝えた日でした。ニューヨークでの映画のプロモーション中に、ファンがローリーと私にありがとうと言うビデオを見せられたんですが、私は耐えられなかったですね。あまりにも感動的でした。今でも感情的になってしまいます。(※オスカー像をチラリと見せて)私は前に進みましたが、でも、本心ではまだ進めていません。だって、まだ泣いていますから。すごく変な気分です。私にとってはとても感情的なことなんです。ローリーとの別れを思うと寂しくなります。ただ一方で、もう戻らないというすっきり感もある。複雑な心境ですね。
『ハロウィン THE END』でローリーとマイケル・マイヤーズの因縁についに決着がつくわけですが、その終わりは、それぞれにとって数十年ある意味で生きる理由だったことの終わりでもあります。2人の手が触れるシーンでは、終焉への喜びと悲しみが感じられましたが、どのような思いであのシーンを演じられましたか?
ジェイミー・リー・カーティス:ローリーは、マイケルを殺すためには一瞬であっても彼にならなければいけないという、辛く悲しい現実に直面するのです。ある意味、マイケルがローリーをマイケルにしてしまうのです。45年という歳月を経て、(2人の決着シーンは)決して軽々しくできることではありませんでした。とても感情的な旅です。撮影の時も感情的な旅でした。(マイケル・マイヤーズ役の)ジェームズ・ジュード・コートニーと一緒に感情的になりましたね。作るのがとても難しい映画でしたが、私はすごく満足しています。この映画は、非常に力強い方法で、終わりについて語ったと思います。
ローリー・ストロード主演の『ハロウィン』シリーズの最終章を作るにあたり、方向性などについて、クリエイターたちとはどのような話をされたのですか?
ジェイミー・リー・カーティス:監督と脚本を担当したデヴィッド・ゴードン・グリーンは、この映画の舞台を前作『ハロウィン KILLS』から4年後にすることで、ローリーに癒しの時間を与えたいと話していました。『ハロウィン KILLS』はとても激しく、狂ったオペラのようでした。暴力的で、血なまぐさい、信じられないほど苦痛にあふれたオペラです。そのような作品の後、どのように3作目を作るのか? 一度、温度を下げる必要があります。すべてを落ち着かせなければなりません。少し時間を置く必要がある。製作陣はそうしました。そうすることで、1978年のハロウィンの1作目と同じように、映画の新しいリズムを確立することができました。序盤では少しゆっくり、時間をかけて、何層にも及ぶ深いストーリーを構築しています。そして、それがデヴィッドの賢いところだと思います。だって、『ハロウィン KILLS』のような作品の後、どうやって別の映画を始めることができるのでしょうか?戦いの真っ最中に始めるようなものです。とても激しいものになります。私は、テーマ面にも、感情面でも、そしてもちろん監督面でも、デヴィッドのやり方に非常に満足しています。