FIFAワールドカップ開催中! 海外で日本女子が大人気
“日本はいかにして2023年W杯で最もエキサイティングで圧倒的なチームになったのか?”(米Equalizer)
“ワールドカップ:”日本はワールドカップで圧倒させるプレーを続けている”(独DW)
“2023年女子ワールドカップ:日本代表は「見ていて楽しい」”(英BBC)
“日本は輝いていた”(米ESPN)
“FIFA女子ワールドカップ:衝撃と驚きの末に、日本が優勝候補に”(印Onmanorama)
FIFA 女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド 2023(以下2023年W杯)は、FIFA会長が「史上最高」と称えるほどチケットの売れ行きがよく、8月4日時点で、チケットの売り上げは当初の目標だった130万枚を大幅に上回る170万枚に到達。開催国のオーストラリアだけでなくアメリカでも視聴記録を更新するなど、まさにお祭り騒ぎになっている。
そんななか大注目されているのが、チーム・ジャパン。日本はグループステージを全勝・無失点で首位突破し、そのプレーは世界中の視聴者の間で話題になっており、上で紹介したような好意的な報道が海外で続いている。
一方、日本国内ではいまいち盛り上げに陰る。そもそも、日本では日本戦ですら地上波放送が始まったのは3戦目だった31日のスペイン戦から。その前はBS放送に留まった。そして他国の試合はBS放送すらされていないものばかり。「ワールドカップやっていたの?」という人も多いのではないだろうか。その理由は、放映権料の高騰にあるよう。今大会では、女子選手への報償増加のために2019年フランス大会の3倍以上にあたる1億5200万米ドル(約220億円)が賞金として確保されている。FIFAがそれを放映権料で埋め合わせしようとしたため、価格高騰が起きた。
この件は日本でも大きく報じられ、女子は視聴率が取れないから、人気がないから仕方ないという意見をたびたび聞いたが、その逆、つまり取り上げないから人気が出ない、視聴率が取れないと考えたことはあるだろうか?
メディアが女子サッカーに対する報道姿勢を変えたイギリスを例に見たい。
イギリスでは女子サッカーに対する報道が2015年から2019年で6倍に上昇*。各メディアは性的な報道をやめ、スキルにフォーカスした報道を実施。“ガールズ”や“レディース”といった言葉の使用も控え、男子と同じように、称賛も批判もプレーに関することに限るようにシフトされた。その結果どうなったか? 女子サッカーは今、イギリスで最も人気を急拡大しているスポーツのひとつとなった。女子リーグWSLでは2021年~2022年に収益60%増を達成。2023年5月のFAカップ決勝は、英国内における女子サッカーの最高動員数7万7,390人を記録。2023年に発表された独立報告書の代表カレン・カーニーは、放送枠の確保や次世代の育成など適切な投資をすれば、英女子サッカーは「10億ポンド産業」になる可能性があるとした。 *追記:15年と19年の女子W杯比較
また、イギリス発のDAZNではUEFA女子チャンピオンズリーグの全世界YouTube無料配信を実施したところ、DAZNグループのCEOが「とてつもない成功」と呼ぶほどの視聴数を獲得。その後の英Crux Sportsの調査で、80%がDAZNの放送がきっかけでゲームに興味を持ったと答え、57%が今後女子サッカーをもっと見たいと思うようになったと、40%が女子の試合を観戦しにいくことに興味を持つようになったと回答した。もちろんこのDAZNの試みは現地メディアでしっかり報じられている。放送・配信会社は試合を観客に届け、メディアはそれを盛り上げ、という全体での取り組みの変化がイギリス女子サッカーの人気上昇に貢献しているよう。
チャンスを与えれば輝く可能性があるということは、2023年W杯の試合結果ともリンクするのではないだろうか。2023年女子W杯は史上最多32チームへと参加枠が拡大。FIFA世界ランキングの低いチームがより多く出場しても十分闘えるのかという懸念も一部で挙がっていたが、32チーム中8チームが初出場となったトーナメントでは、結果として、ベスト8が出そろった時点で残っていた過去のW杯優勝者は日本のみというまさかの結果に。そして、コロンビアは史上初のベスト8入り、南アフリカは史上初勝利、モロッコは初出場にして決勝トーナメント進出するなど、各国の国民にこれまで観られなかった光景を見せる機会がたくさんあった。
これは予想外の大展開として観客やスポーツジャーナリストたちを大盛り上がりさせており、FIFAも公式サイトで、「グループステージでは、誰も予想していなかったような衝撃と驚きが次々と起こっている。グループステージの48試合を通して、女子サッカー界の勢力図は激変していることが示された」と綴っている。
“女子スポーツは退屈”の本当のところは...?
米活動家マリアン・ライト・エデルマンが言った有名な格言に、“you can’t be what you can’t see(自分が見たことのないものにはなれない)”というものがある。自分が目指すべきものや成りたいものが具体的なイメージとして存在しない場合、それを達成するのも、そもそも目指すのも難しいという意味。
まずは見せないと始まらない。これは国内での女子サッカーの扱われ方でも一緒のことのように思える。テレビがお祭りのように取り上げなければ、お祭り騒ぎが起こるのは難しい。普段からメディアや業界が取り上げない選手やスポーツを好きになるのは難しい。
そして、先のイギリスの例のように、取り上げるときはその取り上げ方にも再検証が必要だ。
1989年から5年ごとに女子と男子のスポーツ報道についての実情を発表し続けているアメリカの調査論文の2015年版によると、まず、女子スポーツはカメラアングルが少なかったり、ショットのカットが少なかったり、インスタントリプレイがなかったりと、プレーの躍動感が出ない報道のされ方をしているという。また、コメンテーターの口調や報道の盛り上げ方においては、男子は「エキサイティングで誇張されたストーリーで伝えられる」のに対し、女子は「退屈で淡々としたストーリーで伝えられる」傾向があるそうで、「女子スポーツは男子スポーツよりも重要性が低く、エキサイティングでもないというメッセージを視聴者に与えるやり方で報道され続けている」という問題が指摘された。
女子選手の描き方も見直さなくてはいけない。20年分のスポーツ報道を取り上げた、米ミネソタ大学内の女子スポーツ研究センターが2013年に発表したドキュメンタリーによると、アスリート人口の40%を占める女子スポーツに関する報道は全体の4%に留まり、報道されたときは、フィールド外の姿、ユニフォーム以外の姿、性的なポーズを取っている姿という3種が主要な描写だったという。フィールド外の様子を報じるのが悪いわけではないだろうが、本業をしているシーンよりも優先されたり、いつも「かわいい」などとだけ報じられていたら、視聴者はどのようにその選手の能力やアスリート性へのリスペクトを高めればいいのか。
女子スポーツは長い歴史のなかで見えないハードルを多く置かれてきた。まずは社会でそれを認識して、改善をしていく必要がある。
FIFA 女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド 2023で日本がスウェーデンとぶつかる準々決勝は日本時間8月11日(金)16時半キックオフ。大会の決勝は8月20日(日)19時。