2023年5月2日から9月27日まで、148日に及んだ全米脚本家組合(WGA)のストライキが収束した。そもそもなぜ起きた? そのきっかけは? 賃金やAIの規制など、合意の内容は?(フロントロウ編集部)

全米脚本家組合(WGA)は何を求めていた?

 2023年5月2日に始まった、映画やテレビの脚本家11,000人以上が参加する全米脚本家組合(WGA)による、約15年ぶりとなったストライキ。これは組合が、ネットフリックス、パラマウント、ディズニー、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーなどが加入する全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)に対して契約条件の改善を求めるために起こしたもので、組合はストリーミング時代への突入や、AIの台頭によって悪化しつつあった脚本家たちの待遇の改善を求めて、ストライキを決行した。

 組合が求めていたのは大きく分けると2つで、まず1つは、ストリーミング時代になって減額した報酬の改善。ストリーミング時代に突入したことで、配信される作品は増加した一方で、脚本家たちの報酬は減額。以前は海外で権利が買われたり作品が再放送されたりするたびに入ってきていたレジジュアルという報酬が、ストリーミング時代には契約時の一回のみの支払いに変わってしまったため、脚本家たちの収入が悪化してきた要因となっていた。

画像: 全米脚本家組合(WGA)は何を求めていた?

 そして、組合が要求していたもう1つは、台頭してきたAIの規制。組合側は、スタジオ側がAIに脚本を書かせたり、もしくはAIに脚本家のアシスタントの役割を担わせたりすることで、一つの作品に関わる脚本家の人数が減ることを懸念して、AIを規制することをスタジオ側に求めた。

ハリウッドにどんな影響があった?

 脚本家が一斉にストライキを決行したことで、当然、ハリウッドの映画やドラマの製作は中断することに。影響を受けたのは映画やドラマだけではなく、WGAに所属する脚本家たちが脚本を担当してきたトーク番組も。『Jimmy Kimmel Live!』や『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon(原題)』、『The Late Show with Stephen Colbert』などといった人気トーク番組も製作が中断した。

 まだ組合がストライキ中だった9月中旬には、トーク番組『The Drew Barrymore Show(原題)』で司会を務める俳優のドリュー・バリモアが、WGAに所属する脚本家たちを起用しない形で新シーズンの収録をスタートさせたことで、炎上して放送再開を撤回させるという出来事もあった。

画像: ©️The Drew Barrymore Show/CBS
©️The Drew Barrymore Show/CBS

 WGAとAMPTPが合意に達したことで、一連のトーク番組は収録が再開したほか、映画やドラマの脚本の製作も再開された。

スタジオ側と合意、AI規制などその内容は?

 現地時間9月27日をもって正式に終了したWGAのストライキ。WGAがこの時に発表した、2026年5月1日までの契約となるAMPTPとの暫定の最低基本契約書の要約によれば、最低賃金の引き上げや、AMPTP側が負担する年金額や健康保険料の引き上げなどで合意。加えて、最低雇用期間の確保でも合意したほか、ストリーミングサービスで配信される作品についての新たなボーナスの基準などを設けることでも合意したという。

 そして、WGAとAMPTPは脚本製作におけるAIの規制についても合意。脚本家やプロダクションが生成AIを使用することは禁止しないものの、脚本家の報酬を減額させたり無くしたりすることに繋がる形ではAIを使用しない条件で合意に至ったという。「会社が同意し、企業方針に則った形であれば脚本家は執筆作業の際にAIを使用することを選ぶことができるが、会社が脚本家に対して執筆作業時にAIソフトウェア(例:ChatGPT)を使用することを要求することはできない」と、最低基本契約書には記されている。

 AIの規制に関連して、一つの作品のライター室における脚本家の最低雇用人数の確保でも合意。これは、ライター室に優秀な数人を残して残りはAIに担当させることで、雇用人数が減ってしまうことを懸念してWGA側が求めていたもの。ライター室の雇用人数は近年減少傾向にあったが、エピソード数に応じた最低雇用人数を設定することで合意に至った。

99%の会員が賛成票を投じる、制作現場の今後は?

 そして、現地時間10月9日にWGA会員による投票が行なわれて、投票した約8,500人の会員のうちの99%が賛成票を投じて、正式にWGAとスタジオ側が合意に至った。今回締結された契約は、2023年9月25日から2026年5月31日まで有効となる。

画像: 99%の会員が賛成票を投じる、制作現場の今後は?

スタジオの最優先作品が報じられる

 正式に合意に至ったことで、一斉に脚本の制作が再開できることになったが、報道によれば、各スタジオ側には“制作を優先して進めていきたい作品のリスト”があるという。

 Varietyの報道によれば、米パラマウントは『スター・トレック』のリブート版やトム・クランシーによる小説『レインボー・シックス(原題)』の製作に向けて脚本の調整を急ぐほか、米ワーナー・ブラザースは『ザ・バットマン』の続編の製作を進めることを期待しているという。また、米ユニバーサルは『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』の続編となるシリーズ最終作『Fast X Part 2(原題)』の脚本を進めていくという。

「私たちは戻ってきました」と、X(旧ツイッター)でファンに報告したNetflix『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の脚本家チーム。

 一方、ストリーミング配信作品では米HBOが『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のまだ発注されていないシーズン3の製作を進めるほか、米Netflixは『ウェンズデー』シーズン2や『ストレンジャー・シングス 未知の世界』最終シーズンの脚本を進めていくと報じられている。

未だに続いている全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)ストライキへの影響は?

 現地時間7月14日からアメリカの俳優・アナウンサー・俳優・声優・ネットインフルエンサーなど16万人が加入する全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)もストライキを決行し、1960年以来初めて、俳優組合と脚本家組合が同時にストライキに入ったことで、歴史的な出来事となった今回のストライキ。

画像: 未だに続いている全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)ストライキへの影響は?

 WGAとSAG-AFTRAのそれぞれがAMPTPに対して求めていた要求の中には、最低賃金の増額やストリーミング時代に適した形での報酬の確保、AIの規制など、重なる要求も多いが、SAG-AFTRAはGAよりも高い割合での賃金の増額を要求しており、双方の間でなかなか合意に至っていない。SAG-AFTRAとAMPTPの交渉は現地時間10月11日に再開される。

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