クリス・バック&ファウン・ヴィーラスンソーン監督にインタビュー
『ウィッシュ』を5つの言葉で表現するなら?
クリス・バック監督(以下クリス):喜び、希望、情熱、想像力、そして魔法。
それらのうち、特に重要だったものとそれをどのようにこの作品で伝えたかったかを教えてください。
ファウン・ヴィーラスンソーン(以下ファウン):希望と想像力でしょう。決して諦めないアーシャというキャラクターを通して、観客の皆さんにも勇気が伝わることを願っています。勇気を出して一歩を踏み出すことで、多くの味方や友人、助けてくれる人たちに出会うことができます。これは、私たち(※クリスとファウン)の関係でも言えることでした。
想像力という点では、勇気を持てたら、既成概念にとらわれない発想ができるようになることが重要だと思います。映画の中で、スターがその象徴です。大胆不敵なエネルギーを表現しており、時に混沌としていますが、夢を実現するためには、自分が慣れ親しんできたものや、自分が心地よいと思っているものの外に目を向けることができるようになることが大切なのです。
今回の映画の色彩についてお伺いさせてください。パープルをメインカラーとして選んだ背景をお伺いできますか?
ファウン:北アフリカ文化に詳しいコンサルタントを通して、パープルは現地で希望を意味する色だと聞いて、ぴったりだと思ったんです。
クリス:もともとパープルをイメージしていたんですが、コンサルタントにその意味を聞いてからは間違いないと決まりました。
ディズニー作品の製作現場ではそのようなエキスパートの起用はよくあることなんですか?
クリス:我々はいつもエキスパートの手を借りています。異なる文化、歴史、建築物、ファッション、動物、何であろうと、ネット検索や書物からは得られない知識を持ったエキスパートがいるんです。
ファウン:クリエイターとして、自分たちの限られた知識で推測するのではなく、専門家の手を借りるのは非常に良いことです。ストーリーにおける細かい部分を作る手助けをしてもらえることで、大きな視点からのことも見やすくなります。
『ウィッシュ』ではほかにどのような専門家が参加したのでしょう?
クリス:アマンダ・リー・ウルフ(Amanda Lee Wolfe)には非常に助けられました。
ファウン:彼女は美術史の専門家で、建築物の製作で助けてもらいました。ただ、彼女との共同作業で面白かったのは、キャラクターのファッションにも影響を与えたことです。キャラクターに個性を出すためには、それぞれのファッションが現実世界とリンクしている必要があります。私たちは中世、つまり『白雪姫』などこれまでのディズニー作品の前の時代に注目して、中世のシルエットを取り入れるなどしたのですが、そのなかで、それぞれの衣装に秘められたものは何であるべきかについても議論を重ねました。劇中では、それぞれのキャラクターの文化が素材や模様に隠されています。初見では気づかないようなことですが、とくに歴史好きの方には新たな楽しみとなるはずです。
クリス:みんなそうです。バレンティノのパジャマにはスカロップ色が使われていますが、それも中世で使われていたものです。マグニフィコ王のケープなど、マグニフィコ王とアマヤ王妃のデザインにはとくにこだわりがつまっています。
今回、おふたりで監督されたわけですが、製作中に頻出していたフレーズやマントラはありましたか?
クリス:どのシーンにおいても重要にしていたメッセージであり、ストーリールームにも貼り紙で描いていたメッセージが、「最も大きなパワーを持つ者は、真の願いを持つ者だ」というものです。すべてのシーンがそのテーマから離れないように、何度も再確認したメッセージでした。
ファウン:シークエンスごとに確認して、そのシーンが映画に存在する理由を一緒に書き出すというセッションを頻繁にしていました。理由が思いつかない時には、そのシーンは物語を前に進める役割を果たしていないということです。鶏小屋のシーンもそうです。あれはとても愉快なゲームのようなシーンですが、願いがあるときは隠して閉まっておこうとしてはいけないというメッセージを伝えてくれています。アーシャはスターを隠そうとしますが、スターはあのとおりカオスで恐れ知らずなのでグイグイ行って、結果としてあの鶏のパフォーマンスが誕生します。スターは、大きな願いがあるときは自分ひとりで抱え込んでいちゃいけないよという教訓を教えてくれているのです。そして、それを友達や家族に明かすことがどれだけ素晴らしいことかを教えてくれます。
そのセッションを行なっていたとき、最も激しいディスカッションが行われたシーンはどれでしょう?
ファウン:どのシーンでも難しい議論を重ねましたが、(アーシャとマグニフィコ王のデュエット曲)「At All Cost(輝く願い)」にたどり着くのには長い時間がかかりましたね。製作段階で、ウィッシュ(願い)はなぜ重要なのかという質問がつねに挙がっていました。私たちはそれに答えるためにセリフを用いようとしていましたが、何度作ってもみんな納得してくれないんです(笑)。そこで、これは曲で伝えなくてはいけないんだと考えました。ジュリア・マイケルズとベンジャミン・ライスに、その人のエネルギーが伝わり、願いというものの大きさ、想像力、大切さが伝わる曲を作ってもらったのです。そうして誕生した「At All Cost」は普通に聴くとラブソングですが、この曲は、本当は子どもにたくす視点で作られています。守りたいという親心から作られているのです。その裏の意味を知ると、「何が何でも守り抜く」という約束に重みがでました。また、観客は、主人公のアーシャと悪役のマグニフィコがこの瞬間に完全に同意していることにも気づかされます。願いは本当に大切なものだから、何があっても守り抜くとそれぞれが思っているのです。しかし、その願いを叶える方法が極端に違う。これは、物語を前進させるために非常に重要な発見となるのです。
日本で『ウィッシュ』が公開されることについては、どう感じられていますか?
クリス:『アナと雪の女王』を気に入ってくれた日本のオーディエンスならば、この作品もきっと気に入ってくれると思います。『アナと雪の女王』に対する日本のオーディエンスの熱い反応についてはいつも嬉しく思っているので、この映画のキャラクターや音楽、アニメーションへの愛も楽しんでくれることを願います。
ファウン:いつも思うのですが、日本版ポスターと日本版予告編はすごく良いですよね! 作品が持つ魔法や魅力をしっかりわかっていて、それを表現している。この映画も魔法や魅力であふれているので、そのなかにある喜びやインスピレーション、そして音楽を楽しんでくれることを願っています。
きっと、日本でも2度、3度と観に行く方がいらっしゃると思うのですが、そういった人のために、ここに注目するといいよというアドバイスを頂けますでしょうか?
クリス:この映画には、ディズニーのレガシーへのオマージュが100以上含まれています。まずひとつ目のアドバイスとして、クレジットが終わるまで席を離れないでくださいということです。ファンはエモーショナルになるオマージュがありますからね。
ファウン:もっと難易度の高いやつをあげましょうよ。
クリス:オッケー、じゃあレベルアップしよう。私は『ポカホンタス』で柳の木のおばあさんのスーパーバイジング・アニメーターを務めたのですが、そんな私をびっくりさせようと、照明チームが森に柳の木のおばあさんを隠したのです。これは難しいやつなので挑戦してみてください。私自身、何度も何度も何度も見せられたあとに気づきました。嬉しかったですよ。
ファウン:この作品では、それぞれの部門にオマージュを隠す機会が与えられました。とは言え、ストーリーを楽しんでもらうことが大前提なので、オマージュを探すゲームのようにはならないように、ストーリーの邪魔にならない限りは入れても良いというルールにしました。ディズニーで働く人にはディズニー映画を観てアーティストになった人も多いため、私たちみんなからディズニーへのラブレターのような作業は楽しかったですね。例えば、『美女と野獣』へのオマージュであるコップ。ストーリーとはまったく関係ないけど、どこに入れられるかなって場所を探すのに夢中になりました(笑)。
『ウィッシュ』の舞台は、願いが叶う魔法の王国ロサス。ここに暮らす少女アーシャの願いは、100歳になる祖父の願いが叶うこと。だが、すべての“願い”は魔法を操る王様に支配されているという衝撃の真実を彼女は知ってしまう。みんなの願いを取り戻したいという、ひたむきな思いに応えたのは、“願い星”のスター。空から舞い降りたスターと、相棒である子ヤギのバレンティノと共に、アーシャは立ち上がる。「願いが、私を強くする」──願い星に選ばれた少女アーシャが、王国に巻き起こす奇跡とは…? 劇場公開中。