テイラー・スウィフトが「声」と「顔」を商標登録した理由


AIが生成する偽の音声や画像が社会問題化するなか、世界最大級のポップスターが新たな法的手段に踏み切った。英BBCや米Varietyなどによると、テイラー・スウィフトが自身の声と外見について、米国で3件のトレードマーク(商標)申請を行なった。この決断の背景と、先行して同じ手段を取った俳優マシュー・マコノヒーの戦略から、AI時代のセレブリティが直面する現実が見えてくる。(フロントロウ編集部)
申請された3つの商標——「声」と「顔」の中身
米国時間の2026年4月24日、テイラーのチームは米国特許商標庁(USPTO)に3件の申請を行なった。そのうち2件は「音声」の商標だ。テイラーが「Hey, it’s Taylor」「Hey, it’s Taylor Swift」と自己紹介する短いフレーズで、いずれも最新アルバム『The Life of a Showgirl』のプロモーションのためにSpotifyとAmazon Music向けに録音されたものだという。
3件目は「外見」の商標で、具体的にはピンクのギターを手に持ち、カラフルなイリデッセントのボディスーツに銀のブーツ姿でステージに立つテイラーの写真が対象となっている。BBCによると、この画像は以前、Disney+で配信されたエラズ・ツアーの映画の公式プロモーション写真として使われたものだ。
実は、こうした音声や外見の「商標登録」はまだ極めて珍しい試みだ。通常、商標とはブランド名やロゴを保護するものとして知られているが、今回テイラーが登録を申請したのは、自分自身の声のフレーズと、特定のステージ衣装での姿という、より個人的な要素だ。著作権とは異なるアプローチで、AI時代の新しい自己防衛戦略といえる。
著作権では守れない——商標登録が「武器」になる理由
しかし、なぜ著作権ではなく商標登録なのか。そこにはAIが生み出した法の穴がある。AIの進化によって、既存の録音を一切使わずにアーティストの声そっくりな音声を生成することが可能になってしまった。従来の著作権法は「コピー」を前提としており、既存の音源や画像を直接複製するものを取り締まることはできても、AIが一から生成した「本物に近い別の何か」には対応しきれないのだ。
商標弁護士のジョシュ・ガーベン氏は、この申請内容をいち早く自身のブログで解説し注目を集めた。「特定のフレーズを声と結びつけて商標登録することで、スウィフトは同じ複製だけでなく、『混同を招くほど似た』模倣も追求できる可能性がある——商標法における重要な基準だ」と語った。さらに「もし誰かがジャンプスーツにギターというテイラーの姿に近いAI画像を作成した場合、スウィフトは連邦商標侵害を主張できる」とも指摘している。
テイラーがこの決断に至った背景には、繰り返されるAIによる被害の積み重ねがある。メタのAIチャットボットに無断で肖像が使われたケース、露骨な性的ディープフェイク画像が拡散した問題、ドナルド・トランプへの投票を呼びかけるような偽の選挙広告が作られた騒動——いずれも本人の意思とは無関係に作られたものだ。こうした前例が、法的な手段を模索させることになった。
先陣を切ったマシュー・マコノヒーが語った覚悟
商標という手段でAI対策の先鞭をつけたのは、映画『インターステラー』(2014年)でも知られる俳優のマシュー・マコノヒーだ。BBCによると、マコノヒーはテイラーに先立ち、自身の声と肖像について8件のトレードマークを取得した最初のセレブリティとなった。その中には、1993年の映画『ダズド・アンド・コンフューズド』での決めゼリフ「Alright, alright, alright!」の音声商標も含まれている。
マコノヒーはこの戦略について「私のチームと私は、自分の声や肖像が使われる際には、必ず私が承認しサインオフしたものであることを保証したい」と語った。そして「その瞬間が来た際——来るかどうかではなく、来た際には——誰もあなたを奪えない」とも明かしている。権利主張というより、AI時代に向けた「境界線の設定」という姿勢が伝わる言葉だ。
テイラーとマコノヒーが相次いで打ち出したこの戦略は、業界全体に広がる可能性がある。著作権法がまだAIの脅威に追いついていない現状で、商標法を使うという発想は、他のセレブリティが同じ手段を取る先例となるかもしれない。「声」や「顔」そのものを商標として守る——これがAI時代を生きるスターたちの新しい選択肢になりつつある。












