アカデミー賞受賞作『プーチンの愛国教室』が突きつける問い――「国民が望んだ戦争」は学校で作られる


「国民が望んだ戦争」は、いかにして生み出されるのか。本年度アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞を受賞した映画『プーチンの愛国教室』は、その不穏な問いを真正面から観客に突きつける作品である。タイトルが示す通り、本作が見据えるのは戦場そのものではなく、戦争を“当たり前”として受け入れる国民が作られていく過程だ。
舞台となるのは、ロシア・ウラル山脈の麓にある小さな町の学校。カメラを回していたのは、ジャーナリストでも活動家でもなく、母校で働く一人の“普通の教師”パヴェル・タランキンだった。彼は子どもたちの日常や成長の一瞬を記録し、話し相手となり、支える存在である自分の仕事に誇りを持っていた。しかし、2022年2月のウクライナ侵攻を境に、その日常は静かに、しかし確実に壊れていく。
国家による愛国教育が学校現場に入り込み、子どもたちは知らぬ間に戦争の言葉や価値観を刷り込まれていく。教師である自分は、その流れに加担しているのではないか――タランキンの胸に芽生えた違和感と恐怖が、本作の原動力となる。
解禁された日本版ビジュアルが捉えるのは、機関銃の使い方を教わった幼い生徒が、まっすぐこちらに銃口を向ける瞬間だ。そこに添えられた「子どもたちが愛国プロパガンダに飲み込まれていく。僕は、その片棒を担ぐのか?」という言葉は、彼自身の苦悩を凝縮した叫びでもある。
この映画が最終的に観客に委ねるのは、「もし自分がその場にいたら、どうするのか」という問いだ。教育と戦争の距離は、決して遠いものではない。その事実を、静かに、しかし鋭く突きつけてくる一本である。

<あらすじ>
ロシアの田舎町の学校に撮影担当教員として勤めるタランキンは、子どもたちから“頼れるお兄さん”として慕われる人気者。愛用のビデオカメラで子どもたちの成長を日々記録していたが、2022 年 2 月のロシアによるウクライナ侵攻を機に、彼らの日常は一変する。プーチン大統領の教育令により、学校は子どもたちに戦争参加を使命として教え込み、訓練する「愛国教育」の場へと変貌していく。逆らう者は<国家の敵>とみなされる絶対的な命令のもと葛藤する教師たち、たちまち戦時教育に染まっていく子どもたち、そして次々と戦地へ送られる卒業生たち・・・その全てを、タランキンのカメラは記録していく。
監督:デヴィッド・ボレンスタイン、パヴェル・タランキン
2025 年/デンマーク、チェコ/ロシア語/5.1ch/90 分/G/原題:Mr. Nobody Against Putin/日本語字幕:額賀深雪/字幕監
修:廣瀬陽子/デンマーク王国大使館後援/協力:チェコセンター東京/配給:トランスフォーマー
© 2025 made in copenhagen Aps, Pink Productions s.r.o.
公式 HP:https://transformer.co.jp/movie/mrnobody
公式 X:@mrnobody_movie
10月 3 日(土) シアター・イメージフォーラム ほか全国順次公開













