トランスジェンダー差別ととれる発言が問題視され、世間からバッシングを受けた映画『ハリー・ポッター』シリーズの原作者J.K.ローリングが、大炎上した自身の持論をさらに展開して、火に油を注いでいる。(フロントロウ編集部)

『ハリー・ポッター』作者がまたもや炎上発言

 6月始め、ツイッターを通じて“トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)”と受け取れる発言をして、一大騒動を巻き起こしたイギリス人作家のJ.K.ローリング

 SNS上の過去のさまざまな言動から、TERF(ターフ/トランスジェンダーの人々を排除しようとする急進的なフェミニスト)なのではないかとの疑惑が浮上していたローリング氏は、“トランスジェンダーの女性は女性とは認めない”と暗に示唆した発言がきっかけで、LGBTQ+コミュニティからの大きな怒りを買ったほか、映画『ハリー・ポッター』(以下『ハリポタ』)シリーズに出演した俳優のダニエル・ラドクリフやエマ・ワトソン、ルパート・グリントといったキャストたちや同作のスピンオフ作品である映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズに主演したエディ・レッドメインも「トランスジェンダー女性は女性です」と口をそろえ、ローリング氏の主張には賛同できないという意思を表明した。

J.K.ローリングの「トランスフォビア」発言とは?

 ローリング氏は、ツイッターを通じて米メディアDevexの『意見:新型コロナウイルス以降の世界を月経がある人々にとってより公平なものにするために』というタイトルの記事をシェア。

 新型コロナウイルスというパンデミックによって得た教訓をもとに、月経にまつわる健康への認識を高め、さまざまな理由により生理用品を入手するのが困難な人々をサポートするシステムを整えるべきだと論じたこの記事では、トランスジェンダー(※1)の男性(生まれ持った体は女性)やノンバイナリー(※2)の人たちも考慮に入れ、「月経がある=必ずしも女性ではない」ということを強調するため、タイトルでも「月経がある人々」という書き方が採用されたが、この表現にひっかかるものを感じた様子のローリング氏は、「“月経がある人”ね。以前はこの人たちを表す言葉があったと思うんだけど。なんだったっけ、誰か教えてくれない?ウンベン?ウィンパンド? それとも、ウーマッド?」と、あえて「女性(ウィメン)」と記載しなかったことに疑問を投じた。

※1:生まれ持った体と心の性が一致しない人。※2:自分の性認識が男女という性別のどちらにもはっきりと当てはまらないという考え

画像: 『ハリポタ』作者、「差別的」と大炎上の持論にさらに“上乗せ”しファン落胆

少し茶化したようにも聞こえるローリング氏のこの発言は、トランスジェンダーに差別的だと批判の的に。

 ローリング氏は、「もし性別がリアルではないなら、同性同士が引かれることだってない。もし性別がリアルじゃないなら、これまで世界中の女性たちが生きてきた現実が消し去られてしまう。私はトランスジェンダーの人たちのことも知っているし、大好きだけど、性別の概念を取り除いてしまうのは、多くの人たちが自分の人生について有意義に議論をする可能性を奪ってしまう。真実を語るのは悪意ではない」と持論を展開し、トランスジェンダーを嫌悪しているわけではないと説明したが、非難の声は鳴りやまず、一般ユーザーからはもちろん、セレブたちからも異論を唱えるコメントが続出。
 その後、状況を重く見たローリング氏が、問題視されている発言の真意を説明するべく自身の公式ウェブサイトで2万字に及ぶ長文エッセイを公開したのだが、反省の言葉や自分の意見を取り下げるような記述が一切なかったことから、さらに批判の声が高まっている。

 6月下旬には、彼女の所属事務所であるザ・ブレア・パートナーシップに所属する4人の作家たちが、トランスジェンダーをはじめとするLGBTQ+の人々を傷つける発言をしながらも、反省の色は無く、自身の意見を曲げようとしないローリング氏の姿勢を疑問視し、事務所を離れることを発表

 さらに、これまでローリング氏を尊敬し、彼女が創り出す『ハリポタ』の世界観を愛していたファンたちも、『ハリポタ』にちなんで入れたタトゥーを除去、もしくは、ほかのモチーフへと変更したり、複数のファンサイトが、今後、ローリング氏の功績やパーソナルライフに関する情報の掲載を行なわないことや、ローリング氏の利益に繋がるリンクなどを貼らないことを宣言して距離を置くことを発表するなど、これまで盲目に彼女を崇拝してきた多くの人々からもそっぽを向かれることとなった。


“疑惑”を否定したかと思いきや…

 そんななか、問題となったツイートから約1カ月が経ち、ローリング氏が再びツイッターを通じて、さらに持論を援護ような発言をしたのだが、これがさらなる炎上を招いている。

 あるツイッターユーザーが、ローリング氏が「ホルモン剤の処方は抗うつ剤の(処方の)二の舞。(ホルモン剤は)確かに必要な場合もあるし、命を救うかもしれないけど、最初の選択肢ではなく最終手段であるべき。人々の精神を救うために、努力と時間を費やすよりも薬で何とかしようとするっていう怠惰以外の何物でもない」という、トランスジェンダーの人々のホルモン治療のために処方される薬は、過去に若者への過剰で安易な処方が問題視された抗うつ剤と同様の問題を孕んでいるとコメントしたあるユーザーのツイートを「いいね」したと、証拠となるスクリーンショットとともに指摘。

 「ローリング氏がメンタルヘルスの薬を摂取している人々を“怠け者”と呼ぶような人々の意見を支持するようにお金を積んで仕向けたヤツは誰?僕は、毎日ちゃんと機能するために薬を飲んでるけど、こういう意見は不快なだけじゃなくて、何百万もの人々にとって有害だ」と、厳しく批判した。

 しかし、これに気分を害した様子のローリング氏は、自身が「いいね」をしたとするスクリーンショットが偽物だとツイッターを通じて反論。

 11件もの連投により、考えを明らかにしたのだが、そこにもまた、トランスジェンダーのホルモン治療に関して、少々飛躍しすぎており、多くの人々が眉をひそめるような内容のメッセージが含まれていた。

画像: “疑惑”を否定したかと思いきや…

 「私は、自分が行なったものとするフェイクツイートが拡散されても無視してきましたし、子供たちのアートについて語るスレッドにポルノが投稿された時も無視しました。殺害やレイプをほのめかす脅迫だって無視してきたけど、これは見過ごせません」と連投をスタートさせたローリング氏は、強迫性障害(OCD)やうつ病、不安神経症といったメンタルヘルスの問題を抱えている自身も、過去に抗うつ剤を摂取して救われた経験があると告白。

 “メンタルヘルスの薬を摂取している人々は『怠け者』”という意見に賛同したという疑惑は否定したものの、その後のツイートで、一転、これまで自身が主張してきた、“若者に安易にジェンダー移行させすぎ”といった主旨の持論をプッシュする下記の発言を投下して世間に衝撃を与えた。

「多くの医療の専門家達が、メンタルヘルスの問題を抱える若者たちが、本来はそれが最善の方法では無いのにもかかわらず、(ジェンダー移行のための)ホルモン治療や手術という脇道へと誘導されていることを憂慮しています」

「私を含む多くの人々は、若い同性愛者たちが、結果として生殖力や生殖機能を失うことになるかもしれない、医療化という生涯にわたる道へと向かわされるという、新種のコンバージョン・セラピーを目撃しています」

「これまでにも何度も言った通り、ジェンダー移行は一部の人々にとっては正解かもしれません。しかし、その一方で、そうではない可能性もあるのです。ジェンダー移行後、元に戻ろうとした人々の話に目を向けてください」

「異性のホルモンによる長期的な健康リスクは、ずいぶん長い間記録されてきています。トランス活動家たちは、それらの副作用について、最小化され否定していますが」

 少し分かりにくいので解説すると、ローリング氏は、“多くの若者がメンタルヘルスの問題と性別違和(生まれ持った心と体の性が異なる)を混同しており、不必要な性別適合治療や手術へと促されている”、“安易に性別適合手術やホルモン治療を行なうことは、新種のコンバージョン・セラピーである”と主張しているということ。

 ローリング氏は、これらの持論を裏づける研究報告や記事などを紹介したが、大多数の人々は、今回の彼女のツイートもまた、トランスジェンダー・コミュニティに対して侮辱的であり、有害だと受け止めている。

 トランスジェンダー俳優で米アマゾン・プライムのドラマ『Studio City(スタジオ・シティ)』に出演したスコット・ターナー・スコフィールドは、ローリング氏は「被害者であることを武器化して、科学的に誤りであることがすでに暴かれているセオリーを拡散し、トランスジェンダーに差別的なヘイトスピーチをあたかも正当かのように見せている。社会の隅に追いやられた、弱い立場にある少数派に対する組織的な政治運動に加担している」と批判した。

画像: スコット・ターナー・スコフィールド

スコット・ターナー・スコフィールド


「コンバージョン・セラピー」の認識が独特

 「コンバージョン・セラピー」とは、別名“同性愛の矯正治療”とも呼ばれる、おもに同性愛者を異性愛者に“矯正”または“転換”させるために行う一連の行為のことを指す

 治療には、カウンセラーと話しながら進めていく会話療法や、不快な感情やイメージを植えることで問題行動を抑制する嫌悪療法、電気ショック療法、同性愛者の指向を薬物や酒の依存症と同じような問題として扱う手法などが用いられるが、自分自身に対して憎しみや嫌悪感を抱かせる治療が主であることから、治療の過程で心身を病んでしまい、自殺を図る若者が後を絶たない。そのため、欧米では非常に問題視されている。

画像: 「コンバージョン・セラピー」の認識が独特

 ローリング氏が、言うなれば対極にあるジェンダー移行のためのホルモン治療や手術を「コンバージョン・セラピー」と称して批判したのは定かではないが、彼女の認識は一般的な認識とは少し違うよう。

 トランス活動家でモデルのマンロー・バーグドルフは「ローリング氏は、自分の言動がトランスジェンダーの若者たちの精神におよぼす悪影響について考えたことは一度も無いんでしょうね。たとえ若者たちのジェンダー移行を支持しなくたって、彼らがトランスであることを止められるわけじゃない。もし、彼らに自認とは違う性別として生きることを強制するなら、それこそがコンバージョン・セラピーだよ」と、ローリング氏を呆れた口調で非難している。

画像: マンロー・バーグドルフ

マンロー・バーグドルフ

 海外の『ハリポタ』ファンたちからは、もはやフォローしようがないほど炎上発言が相次いでいるローリング氏に対して、「もう黙っていてほしい」、「彼女が口を開くたびに『ハリポタ』の感動が薄れる」といったため息が漏れている。(フロントロウ編集部)

※当初この記事ではtransitioning(トランジショニング)という言葉を性転換と表記していましたが、より適切なジェンダー移行という言葉に訂正しました。また、transphobiaという言葉を当初「反トランスジェンダー」と記載していましたが、より適切な「トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)」に修正しました。

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