ロン役ルパート・グリントが騒動にコメント
映画『ハリー・ポッター』(以下『ハリポタ』)シリーズの原作となった同名児童向け小説の著者である作家のJ.K.ローリングの“トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)”ととれる発言をめぐり、同作のキャストたちが次々に、ローリング氏には賛同しないという旨のコメントを発表するなか、シリーズ8作にわたり、ロン・ウィーズリーを演じた俳優のルパート・グリントも、今回の騒動に反応した。
英The Timesや米Us Weeklyといった複数のメディアに向けて声明を出したルパートは、こんな簡潔な言葉で、ローリング氏の発言には“賛同しない”というスタンスを明らかにした。
「僕はトランスコミュニティーを支持します。トランスジェンダーの女性は『女性』です。トランスジェンダーの男性も『男性』です。僕たちはみんな、愛とともに、批判されることなく生きる資格があるべきです」
J.K.ローリングの「トランスフォビア」発言とは?
ローリング氏は、ツイッターを通じて米メディアDevexの『意見:新型コロナウイルス以降の世界を月経がある人々にとってより公平なものにするために』というタイトルの記事をシェア。
新型コロナウイルスというパンデミックによって得た教訓をもとに、月経にまつわる健康への認識を高め、さまざまな理由により生理用品を入手するのが困難な人々をサポートするシステムを整えるべきだと論じたこの記事では、トランスジェンダー(※1)の男性(生まれ持った体は女性)やノンバイナリー(※2)の人たちも考慮に入れ、「月経がある=必ずしも女性ではない」ということを強調するため、タイトルでも「月経がある人々」という書き方が採用されたが、この表現にひっかかるものを感じた様子のローリング氏は、「“月経がある人”ね。以前はこの人たちを表す言葉があったと思うんだけど。なんだったっけ、誰か教えてくれない?ウンベン?ウィンパンド? それとも、ウーマッド?」と、あえて「女性(ウィメン)」と記載しなかったことに疑問を投じた。
※1:生まれ持った体と心の性が一致しない人。※2:自分の性認識が男女という性別のどちらにもはっきりと当てはまらないという考え
少し茶化したようにも聞こえるローリング氏のこの発言は、トランスジェンダーに差別的だと批判の的に。
ローリング氏は、「もし性別がリアルではないなら、同性同士が引かれることだってない。もし性別がリアルじゃないなら、これまで世界中の女性たちが生きてきた現実が消し去られてしまう。私はトランスジェンダーの人たちのことも知っているし、大好きだけど、性別の概念を取り除いてしまうのは、多くの人たちが自分の人生について有意義に議論をする可能性を奪ってしまう。真実を語るのは悪意ではない」と持論を展開し、トランスジェンダーを嫌悪しているわけではないと説明したが、非難の声は鳴りやまず、一般ユーザーからはもちろん、セレブたちからも異論を唱えるコメントが続出。
その後、状況を重く見たローリング氏が、問題視されている発言の真意を説明するべく自身の公式ウェブサイトで2万字に及ぶ長文エッセイを公開したのだが、トランス差別や恐怖を助長するような誤解を与える内容が含まれており、さらに批判の声が高まっている。
『ハリポタ』主演トリオの意見が一致
ローリング氏の最初の発言や、エッセイを通して念押しされた、“生まれながらの女性とトランスジェンダーの女性を一緒くたに考えるのは、あらゆる意味で危険だ”という持論には、LGBTQ+コミュニティーから怒りと悲しみの声が上がっただけでなく、欧米の多くの『ハリポタ』ファンたちが「夢を壊された」と胸を痛めている。
この騒動をめぐっては、映画『ハリポタ』シリーズで主人公のハリーを演じたダニエル・ラドクリフが、「トランスジェンダーの女性は『女性』です。これに反する意見は、トランスジェンダーの方々のアイデンティティや尊厳を傷つけ、この問題についてジョーや僕よりも遥かに専門性を有する医療の専門家たちのあらゆる助言と対立するものです」、「トランスジェンダーやノンバイナリーの方々のアイデンティティを無効にしたり、さらなる傷を与えたりするのではなく、彼らをサポートするためにより多くのことをしなければいけないのは明白です」などと、LGBTQ+の人々を支援する慈善団体ザ・トレヴァー・プロジェクト(TheTrevor Project)のウェブサイトに出した声明の中でコメント。
加えて、今回の一件で、『ハリポタ』で得た感動が薄れてしまったと感じているファンたちに向けて謝罪の言葉も口にした。
そして、ダニエルが演じたハリー、ルパートが演じたロンとともに“ハリポタ・トリオ”と呼ばれ、一世を風靡したハーマイオニー・グレンジャー役のエマ・ワトソンも、ローリング氏の名前こそ出さなかったものの、自身のツイッターで「トランスジェンダーの人たちが“そうである”と言えば、そうなのです。彼らには、(周りの人たちから)絶えず疑問を抱かれたり、自己認識が間違っていると言われたりすることなく生きる権利があります」とコメントして、性自認や呼び方の問題は、他人がとやかく決めつけていいものではないと意見を述べた。
それぞれ言い方は少しずつ違うものの、ルパートもダニエルもエマも、ローリング氏の主張には“賛同しない”という見解で足並みがそろったことになる。
ほかの『ハリポタ』キャストたちもローリング氏に賛同せず
そのほかの『ハリポタ』キャストたちも、ローリング氏の発言には反発を見せている。
ルパート演じるロンの妹ジニー・ウィーズリーを演じたボニー・ライトは、「もし『ハリポタ』があなたにとって愛や帰属感の源となっていたなら、その愛は無限であり、批判や異論なしに、いつでも手にできるようになっています。トランスジェンダーの女性は『女性』です。私にはあなたが見えるし、愛しています」とツイッターでコメント。
ハリーたちの後輩であるルーナ・ラブグッドを演じたイヴァナ・リンチは、ローリング氏について、「とても寛大で愛に溢れた人」と表現しながらも、ツイッターという場所は、今回ローリング氏が話題にした問題を議論するのには適していないとコメントし、「シスジェンダー(※3)の女性が最も脆弱なマイノリティだという彼女(ローリング氏)の意見には反対です。彼女はこの議論の間違った側にいると思います」とバッサリ。
※3 生まれたときに割り当てられた性別と性自認が一致し、それに従って生きる人のこと
その反面、「でも、だからといって、彼女が思いやりを完全に失ったわけではありません」と、ローリング氏を失脚させようとする一部の過激な人々に苦言を呈した。
今回の騒動で先陣を切ってローリング氏の主張に反旗をひるがえしたのは、ハリーの初恋の相手であるチョウ・チャン役を演じた俳優のケイティ・リューング。
ケイティは、ローリング氏の発言については触れなかったが、「で、私のチョウ・チャンに関する考えを聞きたい?オッケー、じゃあ…(スレッド)」とツイッターで『ハリポタ』ファンが興味を持ちそうなトピックについて語るフリをしてスレッドを開始。
世界中で激化している「BlackLives Matter(ブラック・ライヴズ・マター/黒人の命も価値)」とリンクさせて、とくに差別や暴力の対象となりやすい黒人トランスジェンダーへの支援を促すサイトなどを紹介して世間に暗黙のメッセージを送った。(フロントロウ編集部)
※この記事ではtransphobiaという言葉を当初「反トランスジェンダー」と記載していましたが、より適切な「トランスフォビア(※トランスジェンダー/トランセクシュアルに対するネガティブな感情・思想・行動)」に修正しました。