ヴァレンティナ・サンパイオが史上初の快挙
ブラジル出身のモデル、ヴァレンティナ・サンパイオ(23)が、トランスジェンダーとしては初めて、男性向けスポーツ雑誌『Sports Illustrated』が毎年夏に発売している水着特集号に登場した。
ヴァレンティナといえば、これまで、2017年に有名ファッション誌Vogueのフランス版の表紙を飾ったり、2019年には、人気ランジェリーブランド、ヴィクトリアズ・シークレットのモデルに抜擢されたりと、トランスジェンダーモデルとしては史上となる快挙の数々をフロントロウでもお伝えしてきた。
ヴァレンティナはファッション界で活躍を続け、着々とキャリアを積み上げてきたが、『Sports Illustrated』は女性の読者もいるものの、おもに男性向けとして発売されている雑誌。
とくに水着特集号はヘルシーかつ芸術的でセクシーなグラビアが売りとなっているが、トランスジェンダーであるヴァレンティナが同特集に起用されたことは、ファッション的な観点や女性目線からだけでなく、彼女の美しさが男性たちからも称賛されて当然のものであるというポジティブなメッセージを発信している。
多様性と包括性を重んじる“一流モデルの登竜門”
『Sports Illustrated』の水着特集号は、“一流モデルの登竜門”とも呼ばれ、数々のトップモデルを輩出してきた。
さらに近年では、プラスサイズモデルのパイオニアであるアシュリー・グラハムを表紙に迎えたり、“まだら肌”と呼ばれる、肌の一部の色素が無くなる「尋常性白班」という疾患とともに生きるウィニー・ハーロウや、“ヒジャブを被ったモデル”の第一人者であるイスラム教徒のモデル、ハリマ・アデンといった、既存の枠組みにとらわれず、異彩を放つモデルたちを起用して多様性や包括性をアピールしたことで大きな注目を集めた。
ヴァレンティナの喜びのコメントが心に響く
今回のヴァレンティナの抜擢も、その潮流を汲むもので、彼女自身も『Sports Illustrated』の水着特集号への登場を発表したインスタグラムへの投稿に添えてたコメントで、史上初の快挙を成し遂げた想いをこう綴った。
以下、ヴァレンティナのコメントを全文訳。
アイコニックな『Sports Illustrated』の水着特集に参加できたことに、ワクワクし、とても誇りに思っています。同誌の編集チームは、多様性に富んだ才能豊かで美しい女性たちを集結させ、クリエイティブかつ威厳ある方法で、またしても革新的な号を創り上げました。
私は、ブラジル北部のこじんまりとした漁村でトランスジェンダーとして生まれました。ブラジルは美しい国ですが、その一方で、世界で最もトランスジェンダーに対する暴力的な犯罪が多い国でもあります。その数はアメリカの3倍にも及びます。
トランスジェンダーであることは、多くの場合、人々の心や思考から締め出されてしまうことを意味します。私たちは、ただ存在しているというだけで、クスクスと笑われたり、侮辱されたり、恐れをなすような反応をされたり、身体的な暴力の対象となったりするのです。私たちにとって、ただ家族に愛され、受け入れられたり、充実した学生生活を送ったり、威厳のある仕事を見つけたりという機会は、想像を絶するほど限られており、困難でもあります」
性的マイノリティであるLGBTQ+コミュニティのなかでも、とりわけ、社会の主流から取り残された存在であると言われ、ヴァレンティナのコメントにもある通り、心無い中傷や暴力の標的にもなりやすいトランスジェンダーたち。そんな彼ら/彼女たちを代表する存在として、由緒ある『Sports Illustrated』の誌面を飾るという栄誉は、ヴァンレンティナにとって、非常に大きな意味を持つよう。
2019年にヴィクトリアズ・シークレットのモデルに起用された際には、「これは、社会にとっての勝利を意味します。トランスジェンダーのコミュニティだけでなく、ファッション界の少数派にとっての勝利です」と語っていたヴァレンティナ。今回の男性向け雑誌『Sports Illustrated』への起用は、それと同等、もしくは、それ以上に画期的な出来事だと言えるだろう。
米Peopleの取材に対し、ヴァレンティナは抜擢の報せを受けた時は「いろんな感情と喜びが押し寄せてきました。まるで現実ではないようでした。『Sports Illustrated』を飾ることは、私がモデルとしてのキャリアにおいて“成し遂げたい事リスト”に入っていましたし、いろんな意味で夢が実現しました。とても有意義な目標達成です」と話し、「恐れを感じ、社会的に無視されていた自分が、多様性を大切にし、祝福してくれるアイコニックな雑誌に参加できるなんて…本当に人生が一変したようです」とも語っている。(フロントロウ編集部)