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キャリー・マリガン主演の話題作『プロミシング・ヤング・ウーマン(Promising Young Woman)』。米大手のエンタメメディアであるVarietyに掲載されたレビューが女性差別だと炎上。キャリーやレビューを書いた批評家からもコメントが出ている騒動のこれまでをまとめてフロントロウ編集部が解説。

性犯罪テーマの復讐映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』

 映画『プロミシング・ヤング・ウーマン(原題)』は、2020年12月に全米公開されたキャリー・マリガン主演、エメラルド・フェネル監督・脚本のダークコメディ・スリラー。日本ではパルコの配給で公開が決定している(日程未定)。

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 本作の主人公は、数年前までは医学部に通う“有望な若い女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)”だったキャシー・トーマス。しかしある事件をきっかけに医学部を中退した彼女は、酔った女性を介抱するフリをして酩酊状態の女性をベッドに連れ込もうとする男たちに制裁を下すために、夜な夜なクラブで泥酔したフリをする。そんなある日、医学部時代の同級生にばったり会ったキャシー。そこから、キャシーのより壮大な復讐劇が幕開ける。

 性犯罪がテーマである本作の大きな魅力は、女性が直面する性被害の問題をオブラートに包まずに伝えながら、それを、コメディタッチで描いているところ。初のテスト試写会では、観客同士が内容を巡って怒鳴り合いになり1人が劇場を去ってしまったほど、見る者の心を揺さぶったという。そんな本作について、米配給元であるフォーカス・フィーチャーズの責任者は、「観客の皆さんには、好きか嫌いかにかかわらず、必ず見に来ていただきたい」とコメント。

 また、キャシーの元同級生であるライアンを演じたボー・バーナムが、男性こそこの映画について議論すべきだとするなか、映画は、ハリウッドの男性俳優の間でも話題になっており、俳優のベン・スティラーが「良い映画を見たいなら『プロミシング・ヤング・ウーマン』を見ると良い」と、セス・ローゲンが「すごく好きだった。ぜひ見てほしい」とツイートするなど、注目を集めている。

男性批評家のレビューにキャリー・マリガンが激怒

 そんな映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』を巡って、米大手映画メディアであるVarietyのレビュー記事が炎上している。問題となっているのは、主演キャリー・マリガンに対するコメント。キャリーは本作で、酔って酩酊状態の女性とセックスしようとする男たちをあぶり出すために酔ったフリをして彼らを捕まえる主人公キャシーを演じている。映画がサンダンス国際映画祭で上映された2020年1月にVarietyに掲載されたこのレビューで、デニス・ハーヴィーは、以下のように記述した。

 「たくさんのレイヤーを持つことが明らかなファム・ファタール的な役に、素晴らしい女優であるが、マリガンは奇妙なチョイスだった。本作ではマーゴット・ロビーがプロデューサーを務めており、この役はもともと彼女が演じるはずのものだったのではと(恐らくあまりにも簡単に)思ってしまう。一方でこのスター(※マリガン)によるキャシーは、ナンパ用の格好をまるで質の悪いドラァグかのように着こなす。彼女の長いブロンドヘアさえ、つけられているような印象を与えた」

画像: キャリー・マリガン(右)主演の映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』において、マーゴット・ロビー(左)は自身が代表を務める制作会社LuckyChap Entertainmentを通してプロデューサーを務めている。

キャリー・マリガン(右)主演の映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』において、マーゴット・ロビー(左)は自身が代表を務める制作会社LuckyChap Entertainmentを通してプロデューサーを務めている。

 Varietyと言えば、アメリカの映画サイトとしては超大手。Varietyのレビューは業界内での印象や賞レースの動きにも影響しかねない。そんな重要なレビューで他の女性と比較されてルックスの指摘を受けたキャリーは、2020年12月に、米New York Timesで反論した。

 「あれには反論する。つまり彼は、このような策略をする人としては、私じゃ色っぽさが足りないって言ったの」と怒りを露わにしたキャリーは、「すごく腹が立った。『本当?このような映画に対して、ここまで分かり切ったことを書いちゃうの?今?2020年に?』と思った」と続けた。

批評家がキャリーの意見に反論、Varietyは異例の謝罪

 これに対してレビューを執筆したハーヴィー氏は、2021年1月に英Guardianとのインタビューで、「マリガンがこの役を演じるには“色っぽさが足りない”とは言ったことはないですし、そうほのめかしたこともありません」としたうえで、「私は60歳のゲイ男性。若い女優たちの色っぽさを比較することに時間をかけるようなことはしないですし、それについて書くこともない」とコメント。

 もちろん、性的対象が男性だからと言って女性のルックスを批判しないことには繋がらないけれど、ハーヴィー氏は、マーゴットの名前を出したのは、ルックスへの比較ではなくパフォーマンスについてだったとして、「キャストが映画の破壊的な内容にどれだけ貢献できるかを強調するために彼女の名前を出しました。ハーレイ・クインのような役と関連があるスターならば、(視聴者に)非常に具体的な期待を高めることができるかもしれません。しかしマリガンはカメレオン的な人で、彼女の非常に様式化されたパフォーマンスは、物語がどこに向かっているのかの不確かさを観客に与えます」と釈明した。

 一方でレビュー記事を掲載したVarietyは、レビューの掲載はそのまま続けているものの、レビューの冒頭に「編集者のメモ:Varietyはキャリー・マリガンに心からお詫びすると同時に、我々による『プロミシング・ヤング・ウーマン』のレビューに書かれた、彼女の大胆なパフォーマンスを過小評価するような無神経な言葉とほのめかしを後悔しています」という謝罪文をつけ足した。

 辛口レビューを受けることは、俳優をしていれば誰もが何度も通る道。評価する者もいれば批判する者もいる世界のため、大手メディアがレビューの内容について謝罪することは滅多にない。Varietyが謝罪文を掲載したことは異例であり、キャリー自身、2021年1月27日にVarietyのYouTubeチャンネルで公開された動画企画『Actors On Actors』でのゼンデイヤとの対談の中で、「謝罪をもらうことができて、すごくすごく驚いたし、感激して、嬉しかった。ある意味、感動した。良い形できっちり解決することができたし、この件がインパクトを起こせたから。ポジティブな一件だった」と、Varietyの謝罪を受け入れた。

映画レビューは約70%が白人男性によって書かれている

 今回のレビュー騒動は、映画のレビュー界での男女比の違いについてもスポットライトを当てた。

画像: 映画レビューは約70%が白人男性によって書かれている

 映画レビューにおける女性のレプリゼンテーションのデータを毎年調査している「Thumbs Down(サムズ・ダウン)」の2020年版によると、4000件を超える映画レビューを調査したところ、その66%を男性が、34%を女性が執筆していたという。他にも、批評家からスタッフライターといったすべての役職、紙・テレビ・オンラインといったすべてのメディア、アクションやコメディ、ロマンスといったメジャーなジャンルすべてにおいて、男性の数が女性をうわ回ったことが分かっている。また、人種においては、女性の70%が白人、男性の73%が白人だったという。つまりアメリカでの映画のレビューは、その多くが、白人男性によって書かれているということ。

 男女比のバランスが悪いことは多くの問題を生み出す。例えば、Thumbs Down 2020の調査では、男女のレビュアー共に、自身と同じ性別の主人公が活躍する作品のレビューを執筆する傾向にあったという(女性主人公の作品はレビュアーの54%が女性・45%が男性、男性主人公の作品はレビュアーの55%が男性・46%が女性)。そうなると、男性の方が多い映画レビューの世界では、自然と男性主人公の作品のレビューが書かれやすくなるという可能性が出てくる。プロによる映画レビューは受賞や視聴に影響を与えるため、ゆくゆくは、社会でどんな映画が見られるかにまで影響してくることになる。

 舞台裏での性別や人種のアンバランスさが結果に影響するという問題は、“白人男性”が優位とされるアカデミー賞でも根深い問題。映画芸術科学アカデミーによる2020年の発表によると、アカデミー賞で投票権を持つアカデミー会員における女性の割合は34%。有色人種の割合は19%。アカデミー賞はこのアンバランスさを解消するために、多様性をアップするための2025年を目標とした取り組みを発表している。

 また、映画レビュー界でも男女比のアンバランスさを解消するための試みは少しずつながらも行なわれており、辛口映画レビューサイトとして知られるロッテン・トマト(Rotten Tomatoes)は、2019年に600人の批評家を追加。そのうち、過半数が女性だったという。その結果、Thumbs Downの2019年のデータで28%だった女性レビュアーの割合が2020年には40%へと上昇した。ただ、2020年の全体での女性比が34%だったことを考えると、まだまだ変革はこれからであることがわかる。

 映画『ルーム』で第88回アカデミー賞主演女優賞を受賞し、マーベル映画でキャプテン・マーベルを演じるブリー・ラーソンは、2018年に映画祭Women in Film Crystal + Lucyのステージで、「(批評家の性別・人種の割合は)アメリカの人口比とは大きく隔たりがあります。(アメリカの人種・性別比は)実際には、白人男性が30%、白人女性が30%、有色人種の男性が20%、有色人種の女性が20%なのですから」としたうえで、映画スタジオやPR会社は女性や有色人種といった低代表グループの批評家にスクリーニングへの招待やプレスパスを与えること、俳優側はプレスイベントに低代表グループの人々を増やすよう求めること、映画祭などは低代表グループの人々にアクセス権を与えることを求めた。以下が、ブリーのスピーチ訳。

「年間の興行トップ100の映画に、低代表グループの男性3人、白人女性3人、低代表グループの女性3人からなる合計9人の批評家が追加されれば、批評家の平均はわずか5年でアメリカの人口比と合うことになります。とてもシンプルですよね。それを実現するために3つの解決法があります。

 1つ目。女性や低代表グループの批評家は見ていない映画はレビューできません。しかし多くが、認証や、プレススクリーニングへの参加を拒まれています。だからあなたやあなたの知る人がそういったことを管理しているならば、招待や資格が、フリーランスの人を多く含む、そういった低代表グループの人にも行き届くようにしてください。その人たちが私たちの物語を見て、聞いて、書けるように、アクセス権を与えてください。 

 アーティスト、エージェント、パブリシスト、マーケティングエグゼクティブの方たち。あなた方は、プレスやジャンケット計画をよりインクルーシヴにするという形で貢献できます。ライターのほか、雑誌のフォトグラファーにもより広い層の人材を求めることなどです。『キャプテン・マーベル』の時、ディズニーはこの件で素晴らしいパートナーになってくれました。同じように、Women In Filmも今夜素晴らしいパートナーになってくれています。だから、恐れずにそういった要求をしてください。

 2つ目。バランスの取れた批評家集団を作りたいけれど、それが実現できるくらいの数の低代表グループの批評家がいないんだって言う人がきっといるでしょう。そんな人に喜びと共にお知らせします。(アメリカの)ジャーナリズムとコミュニケーションの学士号取得者の41%が白人女性で、22%が有色人種の女性なの。つまり、才能のある人はいるのに、アクセスと機会がないということ。今夏の終わり頃に、映画スタジオやアーティストやアーティストの代理人がより簡単に、低代表グループのエンターテイメント記者や批評家を見つけて連絡を取れるようにするツールがローンチします。記者や批評家がリードしているこの活動がローンチしたとき、これを支援してください。30/30/20/20(※アメリカの人口比)を実現するためのとても簡単な一歩となります(※この取り組み「Time's Up Critical」は2020年にローンチした)。

 最後に。私たちがこの分野全体で行なっている活動に感化されて、サンダンス・インスティテュートは、彼らが進めているイニシアチブの一環として、来年のサンダンス国際映画祭にて最高レベルのプレスパスが最低でも20%は低代表グループの批評家に渡ることを確約してくれました。いいことだよね。さらに、すでに3分の1のプレスがカナダとアメリカ以外からきていて地域的な多様性を達成しているトロント映画祭は、世界中の低代表グループの声を新たに20%追加することを決めました」(フロントロウ編集部)

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