ハリー・スタイルズやジョナス・ブラザーズがライブでのマスク着用やワクチン接種/事前の新型コロナウイルス陰性証明を義務化。世界大手のライブイベント会社も同様のオペレーションを発表しているが、この流れは今後世界のライブエンターテイメントのスタンダードになるのだろうか?(フロントロウ編集部)

ハリー・スタイルズやジョナス・ブラザーズがライブへの参加ルールを発表

 2019年にリリースしたセカンドアルバム『ファイン・ライン』に収録された「Watermelon Sugar」でワン・ダイレクションのメンバーとして初めてグラミー賞を受賞したハリー・スタイルズが、同アルバムを引っ下げた『ラヴ・オン』ツアーの北米公演をスタートさせるにあたり、参加にあたってのお願いをSNSに投稿した。

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 米現地時間9月4日より、米ネバダ州ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナから全米ツアーをスタートさせるハリーは、ライブに来場するファンに向けて、会場でのマスク着用を義務化することと、入場にあたって、「新型コロナウイルスのワクチンを2回接種したことの証明、もしくは入場48間以内にPCR検査で陰性が出たことを証明」することを条件とすることを発表した。

 また、時期を同じくして、東京オリンピックのために新曲「Remember This」を書き下ろしたジョナス・ブラザーズも、米現地時間8月27日からスタートした『リメンバー・ディス』と題した全米ツアーに先立って、ワクチンを接種したことの証明、もしくは入場72間以内に受けたPCR検査での陰性を入場の条件とすることを発表した。

 また、米現地時間8月12日から北米ツアーをスタートさせたマルーン5も、ハリーやジョナス・ブラザーズに先立ち、8月16日にテキサス州ダラスで行なった公演より、ワクチンを接種したことの証明、もしくは入場48間以内に受けたPCR検査での陰性を入場の条件とすることを発表していた。

 ちなみに、マルーン5は、2020年3月から外国からの渡航者の受け入れを原則として禁止してきたカナダがアメリカとの往来を再開して以来、アメリカのアーティストとして初となるカナダでの公演を現地時間9月2日に行なうことも決定している。

ライブ・ネーションやAEGはワクチンの接種証明の提示を義務化

 ハリー・スタイルズやジョナス・ブラザーズらの動きは、世界大手のライブイベント会社である米AEG Presentsや米ライブネーションが、自分たちが主催するフェスティバルやライブなどのすべての公演でワクチンの接種証明の提示を義務化したことに続くものとなっている。

画像: ライブ・ネーションやAEGはワクチンの接種証明の提示を義務化

 大型野外音楽フェスのコーチェラ・フェスを主催し、全米に300以上の会場を保有している米AEG Presentsは、同社が米国内で運営するすべてのクラブ、劇場、フェスに参加する場合にワクチンの接種証明の提示を求める新しい方針を発表。

 AEG Presentsは、まだワクチンを接種していないスタッフやチケット購入者に接種までの猶予を与えるために、このルールの完全導入を10月1日としているが、ニューヨークのように州法によって室内イベント参加の際のワクチン接種証明の提示が義務化されている地域ではすでに導入されているという。さらにその他の地域でも、10月1日を待たずして、ワクチン接種証明の提示または72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明の提示を求めていくとしている。

 また、年間に5億枚以上のチケットを売り上げているイベント主催大手の米ライブネーションも同様に、同社が主催するイベントに参加する全員にワクチン接種を義務化することを発表した。

 米ライブネーションは7月29日~8月1日に開催したロラパルーザ(Lollapalooza)・フェスティバルでこのオペレーションを取り入れ、約40万人の入場者に、ワクチン接種の証明もしくは72時間以内の陰性証明書の提出を義務化。結果として、ワクチンを接種した参加者のうちの0.0004%、ならびにワクチンを接種していない参加者のうちの0.0016%にあたる合計203件が、開催後に新型コロナウイルスの陽性と判定されたというデータが示された。

フェスティバル開催後に4,700件の陽性が判明したケースも

 さらには、今年5月にワクチン接種をした医療従事者が4,000人以上を招待してイギリスで開催されたブリット・アワードでは、イベント後に陽性が1件も判明しなかったというデータもあり、ワクチンの接種が新型コロナウイルス禍でのライブイベント開催の救世主になると見られていたのだが、一方で、懸念すべきデータも。

画像: フェスティバル開催後に4,700件の陽性が判明したケースも

 イギリスのサフォーク州では現地時間7月21日から24日の4日間にわたり、Latitude(ラティテュード)・フェスティバルが開催。ケミカル・ブラザーズやバスティルらイギリスを代表するアーティストたちがヘッドライナーを務めたこのフェスティバルは、英政府のコロナ禍での実験的プログラムの一環として開催され、ワクチン2回の接種証明や事前の陰性証明が入場の条件となっていた。

 その後、1日あたり約3万7,000人が訪れたこのフェスティバルに関するデータが政府から発表されたのだが、それによれば、開催期間中に432人の観客が“他人に新型コロナウイルスを感染させ得る”状態だったことが判明したという。

 地元のサフォーク郡議会は、ラティテュード・フェスティバルの開催期間の周辺で619人が新たに新型コロナウイルスに感染したと発表。期間中に“他人に新型コロナウイルスを感染させ得る”状態だった432人と合わせて、1,051人がフェスティバルを通じて新型コロナウイルスに感染したことになると発表した。

 また、同じイギリスのフェスティバルとしては、イングランド南西端のコーンウォールで現地時間8月11日〜15日にかけて開催された音楽とサーフィンのフェスティバルであるBoardmasters(ボードマスターズ)で、フェスティバルに関連していると見られる新型コロナウイルスの陽性がおよそ4,700件確認されたというデータも公表されている。

 ゴリラズなどが出演し、およそ5万人のオーディエンスが参加したこのフェスティバルでは、入場時に11歳以上のオーディエンス全員に英国民保健サービス(以下NHS)のコロナ接触確認アプリを通じて陰性を証明することを求めていたが、マスクの着用は任意にしていたという。

 ロラパルーザのように、新型コロナウイルスの感染拡大を最小限に留めることができた一方で、ラティテュードやボードマスターズのように、1,000件単位で陽性が確認されたケースも。もちろん、ワクチンの2回摂取を終えている国民の数が75%(16歳以上※1)※1のイギリスと、52%(全年齢※2)のアメリカでは感染した場合の重症化の危険性が違うため感染者数に対する懸念は国ごとの状況で変わってくる。

※1英現地時間8月19日に報道されたBBCのニュースより。
※2米現地時間8月27日に公開されたNew York Timesの記事より。

ツアーを中止するアーティストも

 関係者たちがライブエンターテイメントの維持のために一体となって出来る限りの策を講じているなかで、ツアーそのものを中止するという選択をしたアーティストもいる。

 ホールジーが8月27日にリリースした最新アルバム『イフ・アイ・キャント・ハヴ・ラブ、アイ・ウォント・パワー』のプロデュースを手がけたトレント・レズナーとアッティカス・ロスが在籍しているロックバンド、ナイン・インチ・ネイルズは、今年9月から予定していたツアーの2021年の日程をすべてキャンセルすることを発表。

 また、世界的なボーイグループであるBTSも、当初の2020年4月のスタート予定から1年以上にわたって保留のままとなっていた『マップ・オブ・ザ・ソウル』ワールドツアーをキャンセルすることを発表。このツアーでは韓国や日本、アメリカ、イギリスなど世界各国で38公演を行なうことを予定していた。

 今年の公演の中止を発表したナイン・インチ・ネイルズは、「相応しい時にお会いしましょう」と声明を締め括っている。

 昨年に発生した新型コロナウイルスによるパンデミックが原因でストップすることを余儀なくされるも、ワクチン接種が進み始めたことで、ようやく復活の兆しが見えてきたなかで再び岐路に立たされることとなったライブエンターテイメント。

 ロラパルーザの結果や、世界最大手のAEG Presentsや米ライブネーションの動きを見る限り、少なくとも、しばらくはマスクの着用とワクチン接種、もしくは直前の陰性証明が必須になりそうだ。(フロントロウ編集部)

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