脱毛症は触れられたくないことだった
長編ドキュメンタリー映画賞のプレゼンターを務めたクリス・ロックがジェイダ・ピンケット・スミスの坊主ヘアを映画『G.I.ジョー』の主人公に例えたとき、ジェイダは呆れた表情をしていた。その直後、夫であり映画『ドリームプラン』で主演男優賞にノミネートしていたウィル・スミスが壇上にあがりクリスをビンタ。クリスが笑いながら話し続けようとするなか、ウィルは「俺の妻のことを言ってんじゃねぇ!」とFワードを使ってクリスを罵倒した。
ウィルの激怒の理由は、ジェイダにとって非常にセンシティブな髪をネタにされたから。ジェイダは2021年から坊主頭にしているのだが、それは、彼女が脱毛症に悩まされているから。
2018年に、「なぜいつもターバンをかぶっているのか」という質問をたびたびされていたことを受けて、自身のトーク番組『Red Table Talk』にて、「ある日、シャワーを浴びていたら、両手が髪の毛でいっぱいだったのです。『私は禿げてしまうの!?』と思いました。私の人生の中で、恐怖で震えていた瞬間のひとつでした。それが、私が髪を切った理由であり、今も切り続けている理由です」と説明。タブーを恐れずに何でもオープンに話すキャラで知られているジェイダだが、そんな彼女でも、脱毛症であることを話すことは「簡単なことではありません」と語っていた。
ステロイドの注射などで治療を続けていたジェイダは、2021年にはインスタグラムで、これが余計な詮索や質問をされたくない話題であることを明言した。
「ここまできたら笑うしかない」と言いながら、頭の前方に線状に毛のないエリアができているのを公開したジェイダは、「このラインを見てください。見てください。こんな感じで現れてしまって、これは隠すのがちょっと難しくなりそうです」とコメント。そして最後に、「みんなに質問されないように、自分から言おうと思いました」と言って、髪の毛については触れられたくないという気持ちを明かした。
女性も半数が脱毛に悩まされている
植毛エキスパートのロバート・トゥルー医師が発表したデータによると、アメリカではおおよそ2,100万人の女性、65歳以上の女性の50%が脱毛に悩まされているという。そしてジョンズ・ホプキンス・メディスンによると、なかでも黒人女性は牽引性脱毛症というタイプの脱毛症に悩まされやすく、これは、「熱、化学物質、(一部の三つ編み、ドレッドヘア、エクステンション、編み込みなどの)毛根を引っ張るタイトなスタイルによって引き起こされる」という。
2016年に黒人女性5,594人を対象に行なわれた調査によると、回答者の47.6%が脱毛を経験したと回答。その多くが、専門家に助けを求めることなく、プライベートで悩み続けているという。
こういった実情があるなか、ジェイダが自身の脱毛症をオープンにしていることは多くの女性にとって勇気を与えるレプリゼンテーションだと称えられてきた。
多くの人の代表になっている自慢の妻が、彼女にとっては“質問されたくない”と話題でジョークのネタにされたことは、ウィルにとっては許せないことだったよう。(フロントロウ編集部)
※当初記事内でクリス・ロックは主演男優賞のプレゼンターとしていましたが、正しくは長編ドキュメンタリー映画賞です。