『トップガン』新作、トム・クルーズ着用の衣装に「日の丸」がカムバック
1986年に公開された伝説の映画『トップガン』の約36年ぶりの続編となる『トップガン マーヴェリック』がついに5月27日に公開。新型コロナウイルスの影響により、約2年も公開が先延ばしとなった同作は、アメリカでの初週3日間の世界興行収入が1.8億ドル(約228億円)を超えることが見込まれており、主役を務めるトム・クルーズにとってキャリア最大のヒットとなることも予想されている。
そんな『トップガン マーヴェリック』の劇中のあるシーンに、日本、そしてお隣の国、台湾のファンにとって“嬉しいサプライズ”が込められていたことが話題になっている。
それは、トム演じる主人公の“マーヴェリック”ことピート・ミッチェル海軍大佐が着用するフライトジャケットの背中に貼られたワッペンに、2019年の予告公開時には別の模様に変更されてしまっていた日本国旗と台湾国旗が復活しているというもの。
36年前に公開されたオリジナルの『トップガン』では、アメリカ軍の戦艦が1963年から翌年にかけて行なった大西洋航海を記念して、アメリカ国旗、国連旗にくわえて、日本の「日の丸」と台湾の「青天白日満地紅旗」の4つが並んだワッペンが配されていた。
ところが、2019年に公開された予告編では、日本国旗と台湾国旗が、色合いこそほぼ同じだったものの、見たこともないランダムなデザインに変更。
この背景には、『トップガン マーヴェリック』の制作に中国のIT企業が出資していることや、当時、ハリウッド映画にとって大きな収益源となっていた中国に政治的配慮をしたことが理由なのではないかとウワサされてきた。
中国の企業がいつのまにか撤退
米Wall Street Journalは、当初、米パラマウント・ピクチャーズと提携し、『トップガン マーヴェリック』に出資およびプロモーションを行なうと発表されていた中国のテンセント・ピクチャーズが、いつのまにか同作から手を引いていたと報道。
かつてはIMDb(インターネット・ムービー・データベース)の同作のページにも同社の名前がクレジットされていたが、現在は削除済みだという。
テンセント・ピクチャーズの撤退は、『トップガン』の制作にアメリカ国防総省が関わっていることや、アメリカ軍のプロパガンダともとらえられる内容となっていることを良く思わない中国の指導者たちの機嫌を損ねるのを恐れた結果なのではないかと、Wall Street Journalは分析している。
「中国でヒット=世界的な成功」という図式が崩れつつある
『トップガン マーヴェリック』の予告編が公開された2019年当時は、映画の興行収入が下がり続けていた北米と反比例して、中国ではハリウッド映画のチケットの売り上げが上昇。「中国でヒットする=興行収入が大きく飛躍する」という図式が出来上がっていた。
そのため、厳しいことで知られる中国の検閲に細心の注意を払うのはもちろん、中国人俳優を起用したり、撮影ロケーションに中国を使ったりと、中国市場を狙った“忖度”をするハリウッド作品が増加。
しかし、そんな図式は、パンデミックの影響もあり、ここ数年の間に少し違った様相を呈すこととなる。
映画界全体が歴史上類を見ない大打撃を受けたパンデミック禍においても、中国の映画市場は拡大を続け、現在その規模は73億ドル(約9278億円)を超えるとも言われるが、その内訳は中国映画がほとんどを占める。
そもそも中国政府が1年間に許可している海外作品の劇場公開は34作品のみ。北京の映画検閲は、中国の政治的観点にそぐわないハリウッド作品に対して厳しい線引きを行なうことで知られており、その傾向はパンデミックと時期を同じくしてさらに顕著になった。
業界最王手であるウォルト・ディズニー・スタジオ傘下のマーベル・スタジオ作品でさえ、2019年以降は中国で劇場公開されていない。
米The Hollywood Reporterによると、2019年には中国国内の映画興行収入のうちハリウッド作品が占める30%だったが、2021年にはわずか12%と半分以下に下落したという。
“中国頼り”を卒業する時期?
一方で、ディズニーのボブ・チャペックCEOは、マーベル作品に関しては、「中国での劇場公開に頼らなくても」満足のいく興行収入を稼ぎだせる「自信がある」と2022年5月に公開された『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ』の世界的な成功を受けて強気なコメント。
この発言は中国の映画ファンたちから反感を買っているが、ハリウッドの映画プロダクションが、中国のあまりにも厳しい検閲や劇場公開への狭き門を前に、“そういうことなら”と見切りをつけ始めているということの象徴だとも解釈されている。
『トップガン マーヴェリック』の中国本土での公開日は現時点では未定。同作のプロデューサーたちが、中国での公開には見切りをつけたことが、中国の検閲が眉をひそめるであろう日本と台湾の国旗が描かれたトムの背中のワッペンの採用につながったのではないかと考えられている。
日本のSNSでもすでに作品を観た人たちから日の丸の復活を喜ぶ声があがっているが、台湾で行なわれた選考試写会では、台湾の国旗が映った瞬間、歓声が沸き起こったという。(フロントロウ編集部)