30歳オーバー女性の起用を怖がる製作者に叱咤激励
1912年から 1925年のイングランド北東部にある大邸宅ダウントン・アビーに暮らすグランサム伯爵クローリー家とその使用人たちの生活に歴史的出来事を織り交ぜて描くヒューマンドラマ・シリーズ『ダウントン・アビー』。新作『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』は、2015年にテレビシリーズとして終了した本作の映画第二弾。2019年の映画1作目『ダウトン・アビー』から約3年ぶりにクローリー家やその使用人たちの顔を見られることになるが、冒頭から、おなじみの音楽、イギリスの美しい景観、そして勢ぞろいしたキャストの面々が、視聴者を“ダウントンの世界”に引き込む。
『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』でまず感心するのが、メアリーの夫ヘンリー・タルボット(マシュー・グード)を除く全員がお馴染みのキャラクターを再演するために戻ってきているところ。この規模のシリーズとしては異例だが、クリエイターであるジュリアン・フェロウズ氏はこのことについて、「みんなが喜んで戻ってきてくれたことは嬉しく思います。ドラマシリーズは1年間のうち9ヵ月くらい撮影していたんで、みんなシリーズはもう十分だと感じていたようですが、映画の方は拘束時間が8週間ほどで、毎日の撮影ではない。若手キャストにおいては撮影セットで成人へと育った人もいますから、とても仲の良いキャストたちで、彼らにとって映画出演は再会イベントでもあるようです。セットが楽しかったかどうかは出演者じゃない私が言うことではないと思いますが、私から見るに、いつもとてもハッピーそうなセットでしたよ」と嬉しそうに語った。
映画第一弾ではダウントン・アビーに国王がくるというストーリーだったが、第二弾『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』では、舞台はダウントン・アビーと南仏の2か所に! 家族と使用人たちは二手に分かれて、ダウントン・アビーに留まるグループが映画の撮影部隊をもてなし、フランスに行くグループがバイオレット(マギー・スミス)がある男性から相続したという別荘を見に行く。今回も各キャラクターに様々なストーリーが用意されているが、フェロウズ氏はなかでも、グランサム伯爵夫妻であるコーラ(エリザベス・マクガヴァーン)とロバート(ヒュー・ボネヴィル)のストーリーに思い入れがあるという。「今作では2人にしっかりとしたストーリーを与えたかったのです。あのシーンは2人の関係性が強く現れており、感動できるシーンになっていると思いますよ」。どのシーンかはネタバレになるので言わないが、ぜひ楽しみにしていてほしい。
そして話題は、フェミニストであると公言しているジュリアン・フェロウズ氏が描く女性像について。『ダウントン・アビー』が舞台としている時代は、女性がズボンを履くことすら衝撃的な時代。誰の妻になるかということが女性の人生の大きなテーマではあるのだが、登場する女性たちは全員が強い意志を持っている。女性であるメアリーが父親からダウントン・アビーの領主を受け継ぐというストーリーを、テレビにおける多様性が強く訴えられていなかった2010年から行なっていたことは称賛に価する。これについて、フェロウズ氏はこう語った。
「私がここまで多くの強い女性を書き入れられたことに驚く人もいましたが、私の場合はラッキーでした。(クリエイターの)ギャレス・ニームと(放送局)ITVのピーター・クランプトンもこういう女性たちを支持してくれましたし、ドラマがすぐに大ヒットしてくれたことにも助けられましたね。文句を言われても、『数字をご覧なさい』と言えましたから。私の家族は強い女性ばかりです。それにそもそも、私の世代は強い女性たちに慣れている世代だと思っています。子どもの頃は第二次世界大戦直後で男性がいないこともあり、多くの家族を取りまとめていたのが女性でした。マギー・スミス(が演じるバイオレット)が『自分の義理の母そっくりだ』と言ってくる人によく会います。こういう強い女性はみんなの人生に実在する女性たちなのです」
そう語ったフェロウズ氏は続けて、「昨今の映像界での変化に自分が貢献できていたら嬉しいですね」と願ったうえで、現代の製作者たちに対してこんな思いを口にした。
「製作者は、中年女性や高齢女性に主人公を演じさせることを怖がるべきではない。30歳以上の女性に脇役以上の役を与えることに多くの製作者が尻込みしてしまいます。私ですら、未だに40歳以上の女性のストーリーを書くと、『この人、40歳である必要ありますか?』というコメントを受けるのです。だから私は言うのです。『一体彼女が何歳だったら満足なんですか? もちろんダメですよ。彼女は40歳でなくてはなりません。なぜなら、この役は人生をある程度経験した人という設定ですから。人生経験はごまかせません。それが自然の摂理ですから』とね。若く美しい女性以外が主演を務めるという考えには反発も大きかったですが、今はようやく、オーディエンスが年上の女性のストーリーにも興味を持つということが理解されてきています。オーディエンスは年齢なんて気にしていなかったんですよ、それを恐れていたのは製作側なんです」
映像界を製作側から変えてきたフェロウズ氏。そんなフェロウズ氏は最後に、『ダウントン・アビー』の真の魅力を語ってくれた。
「『ダウントン・アビー』の核にあるのは、すべてのキャラクターがベストを尽くしているところです。自分の出生、自分に起きたできごと、自分が持っているもの、そういったすべてのなかで、ベストを尽くしているのです。上階の人間だろうが下の階の人間だろうが、村に住む人間だろうが、全員がある程度きちんとした人間で、ベストを尽くしている。最近はきちんとした人間を主人公にした作品は少なくなっています。逆に、ひどい人間が多く描かれていると思います。決してそれが嫌いなわけではないですが、『ダウントン・アビー』は楽観的な作品なのです。視聴者を泣かせることはあっても、落ち込ませ悲観させることはしない。『ダウントン・アビー』はポジティブな世界なのです」。
フェロウズ氏の言葉どおり、『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』には涙を誘うシーンもあるが、そのシーンでさえポジティブなリレーションシップへと繋がっている。さらに、ドラマシリーズでは結ばれなかったあの人たちの発展や、みんなが待ち望んでいたであろうあの人のハッピーエンドなど、シリーズのファンにとっては大満足の展開が多いので、映画はダウントニアンにとっても集大成のような作品と言えるだろう。映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』は9月30日(金)全国公開。フロントロウ編集部では、本作で夫婦で初のセリフ付き共演シーンがあったカーソン役とモード・バッグショー役が共演の思い出を語ったインタビューも独占公開している。(フロントロウ編集部)