今夏公開の映画『バービー』のUS版予告編が、ツイッターでワールドトレンド1位を独走するほどの話題に。そして観客は、バービーの足に大盛り上がり! 欧米での「バービー・フィート現象」や、バービーの足に隠された社会的メッセージと共にシーンを考察。(フロントロウ編集部)

映画『バービー』予告編のワンショットにSNSがざわざわ

 映画『バービー』の予告編が解禁され、あるショットが話題を呼んでいる。ピンクとネオンカラーで彩られた予告編はそのカオスでかわいい内容が話題になり、ツイッターでもワールドトレンド1位を独走。そんななか、SNSをとくに沸かせたのが、冒頭でバービーがハイヒールを脱ぐ瞬間。

 バービーの足のクローズアップ・ショットでは、ピンクのフェザーつきハイヒールをコツコツさせて歩いてきたバービーが靴を脱ぐのだが、脱いだあともかかとは上がった状態で、足はハイヒールの形のママ!

画像: 映画『バービー』予告編のワンショットにSNSがざわざわ

 これに対して、タレント兼実業家のクリッシー・テイゲンは、「このショットについて細かく知る必要があります。何回撮影したのか、何かにつかまっていたのか、ハーネスをつけていたのか、ばみり(※)はベタついていたか、これは彼女(マーゴット・ロビー)の足なのか、誰がペディキュアをしたのか。このショットに関するドキュメンタリーが必要です」と興奮気味にツイート。

 ほかにも、「足の角度もバービーと全く同じ! 角度を正確に把握するために、バービーを使って測ったりしたのか」や「バービーにハマっていた時期、みんなもこれやったよね?」などと、ツイッターは大盛り上がりとなり、このワンショットで映画のクオリティを確信するようなコメントも多々見られた。

バービーの「足」の文化的影響とは?欧米では「バービー・フィート現象」も

 ただの足ひとつで...と思ってはいけない。バービーは「足」ひとつだけでも、欧米文化にもの凄い影響を与えているのだ。

 欧米では「バービー・フット(またはバービー・フィート)」というフレーズまであり、これは、さまざまな意味合いで使われている。例えば、人気ドラマの2020年リブート版『Saved by the Bell』では、メインキャラクターのレクシーがフラットシューズを履くことを拒否するときに、「私の足、バービー・フットだから。フラット履いたら、転んじゃうの」とコメント。“いつもハイヒールを履いている人”という意味でバービーの足を引用した。

 さらに2018~2019年には、インスタグラムで“バービー・フィート現象”が大流行。もともと、ヴィクトリアズ・シークレットなどのモデルの間では脚を綺麗に見せるためにつま先立ちをするモデルテクニックがあったが、これが“バービー・フィート”という名前でインフルエンサーの間でもトレンド。SNSで起きた“バービー・フィート現象”では、立っていないときにまで足を“バービーの足のカタチ”にするところが特徴だった。

画像: ヴィクトリアズ・シークレットのモデルは、つま先を立てることで脚を綺麗に見せるテクニックをよく使っていた。

ヴィクトリアズ・シークレットのモデルは、つま先を立てることで脚を綺麗に見せるテクニックをよく使っていた。

画像: インスタグラムのインフルエンサーの間では、足をバービーの足のような形にするのがトレンドに。©Cassandra Trenary/Instagram www.instagram.com

インスタグラムのインフルエンサーの間では、足をバービーの足のような形にするのがトレンドに。©Cassandra Trenary/Instagram

www.instagram.com

 また、一日中ヒールを履いていた日の夜にヒールを脱いだときに、まるで足がヒールの形のまま固まってしまっているかのように疲れている状態を「バービー・フィート」と呼ぶ人もいる。

 このように、バービー人形は“足”だけでも欧米文化に深く根付いており、グレタ・ガーウィグ監督は予告編のワンシーンで、バービーの特徴を捉えて、映画の独自のユーモアを伝えるだけでなく、足ひとつから見えるバービーの偉大さも示して見せたのだ。

グレタ・ガーウィグ流のフェミニズムなメッセージでもあるかも

 米予告編の“足シーン”には、もうひとつ、グレタ・ガーウィグ監督の思惑が隠されているかもしれない。

 『レディ・バード』や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』などで、女性の成長や自己探求を描いてきたガーウィグ監督は、構図やシンボリズムを巧みに使って物語を語る人。アイテムや小道具に焦点を当てることで、物語の重要な要素やキャラクターの心情を表現したり、画面におけるキャラクターたちの位置などの構図の工夫を通して、キャラクター同士の関係やメッセージを伝えたりする。

画像: グレタ・ガーウィグ監督

グレタ・ガーウィグ監督

 では、『バービー』の足のクローズアップに秘められたメッセージとは何か?

 バービー人形は1959年の登場以来、女性や少女に対するイメージを形成する上で大きな影響力を持ち続けてきた。多くの人に愛されてきたのは間違いないが、一方で、当初のハイヒールばかりのスタイルとバービーの非現実的な足の形には批判も少なくない。

 バービーのハイヒールは、女性はハイヒールを履くべきだというジェンダー・ステレオタイプや、女性の生きやすさを制限する身体的制約、ハイヒールが不適切な仕事から女性を排除する職業のステレオタイプ、非現実的なボディイメージなど、多くの問題をフェミニストに指摘されてきた。予告編をハイヒールのクローズアップではじめたのは、そんなバービーの側面に焦点を当てるという意図があるのかもしれない。ちなみに予告編では、バービーがハイヒールを“脱ぐ”という行為をしているが、これは、今作でバービーがそのような縛りから脱却・成長することの予兆と見る...のは深読みすぎるかもしれないが、想像や期待は膨らむばかりだ。

 ガーウィグ監督は、女性キャラクターを中心に置いたストーリーで女性の視点や経験を描き、物語のなかで女性キャラクターに選択肢を与え、女性の自立とエンパワーメントを描いてきた監督なだけに、映画『バービー』では彼女らしい独創的なユーモアと共に「新たなバービー像」を提示するはず。主演のマーゴット・ロビーも、本作について予想を裏切る内容になると断言しているため、今から彼女たちの手腕が楽しみで仕方ない。

 ちなみに、当初は女性の偏ったステレオタイプが強かったバービー人形だが、1990年代に入るとその体形はより現実の女性に近いものとなり、大統領候補や宇宙飛行士などのバービーも登場するなど、職業の多様性が反映されはじめた。そして2000年代に入ってからは、さまざまな肌の色や髪質を取り入れるなどして人種や文化の多様性が反映され始め、マテル社はフェミニズムや人種、ジェンダーなどの視点から作ったキャンペーンを多数展開している。

 映画『バービー』は8月11日(金)公開予定。(フロントロウ編集部)

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