世界の三大喜劇王バスター・キートン、『キートン将軍』
サイレント映画において史上最高額のシーンを撮影したのは、チャールズ・チャップリンとハロルド・ロイドと並んで「世界の三大喜劇王」と呼ばれるバスター・キートン。
南北戦争時代に実際に起きた列車強奪事件を題材にした1927年の映画『キートン将軍(原題:The General)』は、サイレント映画史上最高額とされる750,000ドルの制作費がかかったとされており、これは、今のお金にすると約1240万ドル(約17億円)になる。
アメリカのポピュラー文化における戦争の描かれ方を探究した書籍『War and American Popular Culture: A Historical Encyclopedia』によると、撮影のために3,000人以上の俳優が起用されたそうで、南北戦争の兵士を演じるために本物のオレゴン州兵まで駆り出されたという。映画のデータなどを分析しているステファン・フェロウズによると、1994年から2013年までの上位1,000作品におけるスタッフ・クレジットの平均数は588件だったため、3,000超というスタッフ数がどれだけ驚異的かが分かる。
そんな『キートン将軍』のなかで最も高額となったシーンが、橋が壊れて脱線した汽車が川へと崩れ落ちる瞬間。この橋は撮影のために建てられたもので、劇中で実際に壊している。一発撮りというヒヤヒヤするシーンだが、かかった額を聞いたら、当時のスタッフの心中を察してしまう。
このシーンにかかった額は、4万2,000ドル。今のお金に直すと、なんと約70万ドル(約9,500万円)! つまり、1億円の一発撮りなのだ。
そんなに高額をかけた映画だが、1927年当時は失敗に終わった。戦争を笑い物にしている、いつものキートン作品と笑いのテイストが違うなどと、批評家や観客からは低評価に。しかしその後、1960年代に入って再評価され、アメリカ映画協会によって映画史を代表する50本の1作に加えられた。(フロントロウ編集部)