『ソウルフル・ワールド』 ディズニープラスで配信中 (C) 2023 Disney
100周年にわたって、作品やキャラクターたちと同じくらい人々の心に残り続けてきたディズニー音楽。その魔法の秘密はどこにある? フロントロウ編集部がこれまでにインタビューしてきた、ディズニー音楽を手がけた経験のあるアーティストやクリエイターたちの発言から、その魔法を紐解く。

ストーリーやキャラクターと同じくらいの魅力を持つディズニー音楽

 アニメーション映画として史上初めて音と音楽を完全にシンクロさせた作品『蒸気船ウィリー』を1928年に公開して以来、ディズニー作品において“音楽”は常に不可欠な要素であり続けてきた。

画像: 『白雪姫』 ディズニープラスで配信中 (C) 2023 Disney
『白雪姫』
ディズニープラスで配信中
(C) 2023 Disney

 1937年に世界初の長編アニメーション作品として発表された、ディズニー・アニメーション発の記念すべき1作目の作品でもある『白雪姫』で、史上初のオリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラックを発表するなど、映画音楽の先駆者として歴史を先頭に立って引っ張ってきたディズニーだが、ディズニーの音楽が革命的だった点は、その歴史上の記録だけではない。

 ディズニー音楽の魅力は、作品が描くストーリーテリングを一緒になって紡ぐような、物語に沿った音楽になっていることにこそある。BGMとして流れる音楽であれ、プリンセスたちが歌う楽曲であってもそれは同じ。だからこそ、作中で流れる音楽はストーリーやキャラクターたちと同じくらいの魅力を持っていて、『白雪姫』と聞いて、真っ先に白雪姫が歌う「いつか王子様」や、小人たちが歌う「ハイ・ホー」を思い浮かべるファンも少なくないはず。

 キャラクターに負けず劣らずの魅力を持つディズニー音楽の秘密はどこにあるのだろうか? フロントロウ編集部がこれまでに取材してきた、ディズニー音楽を手がけた経験のあるアーティストたちへの過去のインタビューの発言から探る。

ストーリーテリングを伝えるための音楽

 アーティストにとって、自分自身の楽曲を作るのと、ディズニー作品用の音楽を作るのは「正反対」の作業だという。フロントロウ編集部にそう話してくれたのは、『ゾンビーズ』シリーズや『ハイスクール・ミュージカル:ザ・シリーズ』の楽曲を手がけてきたシンガーソングライターのジョシュ・カンビー。

 「才能に溢れた脚本家たちのチームがいて、彼らから『既にシーンのビジュアルは決まっています』ということを言われます。そのシーンの前にどんなことが起きるのかも、そのシーンの後でどんなことが起きるのかも、既に決定しているんです」とジョシュは話す。そう、ディズニー音楽の特別なところは、ディズニー作品が伝えるストーリーテリングに完璧に沿ったものになっているというところにある。

 「その合間のシーンで経験するであろう感情を紐解いて、2つのシーンを繋ぐ橋を架けるような作業になります。ある意味では、ただ1曲を作り上げるよりも、トリッキーな作業だと言えると思います。それに合う正解が限られるわけですからね。単に、『ぴったりな感情を見つけよう』ということではありません。『ストーリーを支えられるような、ぴったりな感情を見つけよう』ということになるのです。それはチャレンジではあるのですが、だからこその面白さがあります」

物語を前進させるための音楽

 ディズニー作品において、音楽はストーリーテリングを伝えるという役割に留まらず、“物語を前進させる”力を持つこともある。全国公開中のディズニー100周年記念作品『ウィッシュ』で、アリアナ・デボーズ演じる主人公のアーシャと、クリス・パイン演じる悪役のマグニフィコ王がデュエットで歌う「At All Cost(輝く願い)」も、そうした力を持つ楽曲の一つだと、同作で共同監督を務めるファウン・ヴィーラスンソーンは語る。

 「『At All Cost(輝く願い)』にたどり着くのには長い時間がかかりました」とヴィーラスンソーン監督はフロントロウ編集部とのインタビューで明かす。「製作段階で、ウィッシュ(願い)はなぜ重要なのかという質問がつねに挙がっていました。私たちはそれに答えるためにセリフを用いようとしていましたが、何度作ってもみんな納得してくれないんです(笑)。そこで、これは曲で伝えなくてはいけないんだと考えました。(音楽を担当した)ジュリア・マイケルズとベンジャミン・ライスに、その人のエネルギーが伝わり、願いというものの大きさ、想像力、大切さが伝わる曲を作ってもらったのです」

 そうして、“重要なセリフの代わりを担う楽曲”として誕生したのが、「At All Cost」だった。ヴィーラスンソーン監督は同曲について次のように続ける。「普通に聴くとラブソングですが、この曲は、本当は子どもにたくす視点で作られています。守りたいという親心から作られているのです。その裏の意味を知ると、『何が何でも守り抜く』という約束に重みがでました。また、観客は、主人公のアーシャと悪役のマグニフィコがこの瞬間に完全に同意していることにも気づかされます。願いは本当に大切なものだから、何があっても守り抜くとそれぞれが思っているのです。しかし、その願いを叶える方法が極端に違う。これは、物語を前進させるために非常に重要な発見となるのです」

ストーリーテラーの人選も完璧

 そして、音楽を通じてディズニーが紡ぐストーリーテリングを伝えるには、作品に最もピッタリなストーリーテラーを選ぶことも不可欠。ディズニーでは、そのストーリーに合ったアーティストを最初から想定した上で、その人にオファーを出すことも少なくない。楽曲の本編映像がYouTubeで既に8,000万回再生を超えるなど、ディズニー&ピクサー史に残る名曲「Steal The Show」を劇中歌として『マイ・エレメント』のために書き上げたラウヴも、監督から直々にオファーを受けた1人。

 「僕の音楽というのは大抵、自分の人生に起きていることやロマンスについてのストーリーテリングを伝えるものになっているのですが、ピーター・ソーン監督をはじめとした『マイ・エレメント』の製作陣が、映画の初期段階のバージョンに僕の別の楽曲を使ってくれていたんです。それで、彼らから僕に連絡が来て、映画のために楽曲を作ってくれないかと頼まれたのが始まりです」と、ラウヴはフロントロウ編集部とのインタビューで明かしてくれた。

 そして、ラウヴが「Steal The Show」でタッグを組んだのは、名作曲家のトーマス・ニューマン。彼はこれまでにも多くのピクサー作品のスコアを手がけ、『ウォーリー』ではグラミー賞も受賞した大御所だが、ラウヴのような若手アーティストにも、自由に表現する場を与えてくれたという。そんな、一人一人の才能と感性を尊重してくれる環境も、ディズニー音楽の制作現場の魅力の一つ。

 「彼からはたくさんのインスピレーションを受けました。ものすごく親切で、とても才能に満ちた方です。それでいて、エゴが全く無いのです。彼はただ作品のことだけを気にかけています。とてもウェルカムな方で、僕が試行錯誤するためのスペースを設けてくれました」とラウヴは振り返った。

カルチャーへのリスペクトに満ちている

 そして、ディズニー作品の音楽は、作品の舞台やインスピレーション源に最大限のリスペクトを持った音楽になっているのもポイント。その象徴と言えるのが、アカデミー作曲賞を受賞したディズニー&ピクサー映画『ソウルフル・ワールド』のサウンドトラック。ニューヨークでジャズ・ミュージシャンを夢見る音楽教師ジョーが主人公のこの作品でサウンドトラックを担った1人が、ジャズの聖地ニューオーリンズ出身のミュージシャンであるジョン・バティステだった。

 「ピクサーをトップに、素晴らしいテクノロジストやアニメーター、デザイナー、ライターが集結した特別なチームが、ジャズ・コミュニティとシネマ・コミュニティ、そして子どもたちのエンターテイメントに携わる人々のコミュニティを繋げてくれました」と、ジョンはフロントロウ編集部とのインタビューで語る。

 「美しくてオープンなコラボレーションでしたし、僕は自分なりのやり方で取り組むことができました。おかげで、僕は最大級のステージで、ジャズの文脈を通した自分らしさを表現することができたのですが、それは通常、ジャズにおいては実現しないような機会でした。あのような機会をいただいたおかげで、僕は大きなリスクを取って、典型的なスコアとは違う形で表現しました。(共にサウンドトラックを手がけた)トレント・レズナーやアティカス・ロスとの作業もそうです。僕らは共に独自のものを創り上げました」と続けて、ディズニー&ピクサーが、通常ではジャズの世界で実現し得ないような機会を提供してくれたと振り返った。

 100年にわたって、敏腕のストーリーテラーによる魅力的な音楽と共に、誰もが共感できるストーリーテリングを伝えてきたディズニー。そんなディズニーが100周年の集大成に贈る記念作品『ウィッシュ』で音楽を手がけるのは、ジャスティン・ビーバーやエド・シーランらへの楽曲提供でも知られる、現代を代表するシンガーソングライターのジュリア・マイケルズ。

 ジュリアは、ディズニー・アニメーション作品の全楽曲を制作した最年少アーティストとなる。ディズニー音楽の巨匠アラン・メンケンや『アナと雪の女王』のロバート&クリステン・ロペス夫妻に続く、ディズニー新世代の作曲家として礎を築く存在となりそうな予感漂う、ジュリアの音楽にも注目してほしい『ウィッシュ』は全国公開中。

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