FRONTROW

ソフィア・コッポラ、デル・トロ、そしてリドリー。エロルディの“哀愁”

FRONTROW Editorial Dept.
BY FRONTROW Editorial Dept.
ソフィア・コッポラ、デル・トロ、そしてリドリー。エロルディの“哀愁”
©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

いま、ハリウッドの巨匠ソフィア・コッポラ、ギレルモ・デル・トロ、リドリー・スコットたちが同じ俳優に注目している。それがジェイコブ・エロルディだ。大ヒット上映中のリドリー・スコット監督最新作『ラスト・サバイバー』でも主演を務めた彼に、公開後の反響が集中している。彼らが揃って惹きつけられているのは、その“哀愁”だ。(フロントロウ編集部)

3年で、巨匠が3人

1997年オーストラリアのブリスベンに生まれたエロルディは、2018年のNetflix映画『キスから始まるものがたり』で顔を知られ、HBOのドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」(2019年〜)のネイト・ジェイコブス役で世界的な人気を得た。ティーン向け作品の甘い顔として出てきた俳優、という入口である。

そこからの数年で、入口の印象は完全に上書きされた。2023年、ソフィア・コッポラ監督『プリシラ』でエルヴィス・プレスリーを演じ、同じ年、エメラルド・フェネル監督『Saltburn/ソルトバーン』では英国アカデミー賞(BAFTA)助演男優賞にノミネート。2025年のギレルモ・デル・トロ監督『フランケンシュタイン』では怪物を演じ、アカデミー賞助演男優賞に初ノミネートされ、クリティクス・チョイス賞などを受賞した。次期ジェームズ・ボンド候補の一人にも名前が挙がっている。

そして2026年、リドリー・スコットの『ラスト・サバイバー』で主演。さらに同年、ふたたびフェネル監督と組んで『嵐が丘』のヒースクリフを演じる。作風もジャンルもばらばらな監督たちが、示し合わせたように同じ俳優を選んでいる。

廃墟の摩天楼を背に愛犬ジャスパーと座るヒッグ
©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

リドリーが見ていたのは「自分の内側を多く語らない」という質

『ラスト・サバイバー』でエロルディが演じるのは、パンデミックで人類の90%が死滅した世界を生きるパイロットのヒッグ。人間性を失った者たちが奪い合い殺し合うなかで、彼の理性をつなぎとめているのは、愛犬ジャスパーの存在と、亡き妻の記憶だけだ。

本作はエロルディにとってリドリー・スコットとの初共演にあたるが、監督の側は起用のずっと前から彼を見ていた。プロデューサーのマイケル・プラスは、そう明かしている。

「リドリーは映画やテレビでのジェイコブの仕事を数多く見ていました。そして、彼が生まれながらに持つ、自分の内側を多く語らない神秘的な雰囲気をリドリーは高く評価していました」

評価されたのは、演じる技術ではなく、演じる前からそこにある質だった。196センチの長身がもたらす華やかな存在感と、眼の奥に潜む陰りのある表情。その落差こそが、多くを説明しない人物を成立させる。プラスがヒッグ役に求めたのも、複雑な感情のモザイクを表現できる俳優だった。

「私たちがヒッグという役に求めたのは、その複雑な感情のモザイクを表現できる俳優でした。観客が初めてヒッグと出会う時点では、彼は妻を亡くしてからすでに何年も経っている状態なんです。そんな状態の中でも、悲しみを今なお肩に背負い続けているような人物を見事に演じてみせたのです」

撮影に入ってからのエロルディを、リドリー・スコットは実直な人物だと評している。農作業のシーンが自然だったこと、トラクターを運転できること、動物の扱いがうまく、作中で重要な要素になる犬とも良い関係を築けていたこと。巨匠が挙げたのは、そういう地に足のついた資質だった。

焚き火を囲むヒッグ(ジェイコブ・エロルディ)とシーマ(マーガレット・クアリー)
©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

観客が反応したのも、同じ“哀愁”だった

公開後、作品には意外で面白かった、丹念な描写に惹き込まれたといった声が寄せられている。だがとくに目立つのは、エロルディへの反響だ。喪失感のなかで生き抜こうとする哀愁がいい。切ない顔をする俳優だと知って好きになった。巨匠たちが見ていたものと、劇場を出た観客が言葉にしたものが、ほとんど同じ場所を指している。

当のエロルディは、絶望のなかで希望を探す役を演じるにあたって意識したことをこう語っている。

「ヒッグは、自分の心のどこかで“まだ何かが残っている”と感じています。“世界は本当の意味では終わっていない”と信じているんです。彼は、世界が終わる前に存在していた“人間らしさ”の名残を探し続けています」

終わってしまった世界で、終わっていないほうに賭ける。エロルディが繰り返し任されてきたのは、ロンドンプレミアで共演のジョシュ・ブローリンが語ったような荒々しい混沌の只中で、それでも静かに何かを保ち続ける役どころだった。

小型機に寄りかかるヒッグ(ジェイコブ・エロルディ)
©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

共演はバングリー役のジョシュ・ブローリン、シーマ役のマーガレット・クアリー、ダーリーン役のアリソン・ジャネイ、ジャック役のガイ・ピアース、アーロン役のベネディクト・ウォン。賞レースの常連が脇を固めるなかで、真ん中に立っているのがエロルディだ。原作はピーター・ヘラーの『ドッグ・スターズ(The Dog Stars)』。飛行機乗りの主人公と愛犬の旅を通して終末世界に残された友情や希望を詩的に描き、世界26以上の言語に翻訳されたポストアポカリプス小説で、日本では2015年に「いつかぼくが帰る場所」として出版され、映画公開に合わせて『ラスト・サバイバー』(堀川志野舞訳)としてハヤカワ文庫で発売中だ。

『ラスト・サバイバー』は大ヒット上映中。

MORE

FEATURE

RECOMMEND