京都から米国へ渡ったニホンザル、ウイルス流行のあとに起きた“変化”


米テキサス州で暮らすニホンザルの群れが、ウイルスの流行を経験したあと、汚れて見えるエサを避けるようになったことが、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究で明らかになった。感染経路はエサとはまったく関係がなかったにもかかわらず、行動に変化が見られたという。(フロントロウ編集部)
祖先は京都・嵐山の群れ
研究の舞台となったのは、米テキサス州南部にある動物保護団体ボーン・フリーUSAの霊長類保護施設。ここで暮らすニホンザルは、1972年に日本から渡ってきた群れの子孫にあたる。
同団体によると、群れはもともと京都・嵐山の森で暮らしていた。個体数が増えて人里に近づくようになり、一部の住民から「害獣」とみなされたことから移送が決定。アメリカ人の支援者が輸送費を負担し、テキサス州エンシナルへ送られたという。半世紀以上が経過した現在も、その子孫たちが同州で暮らしている。
ウイルスの流行を経験した群れだけが「潔癖」に
2020年1月、この施設のニホンザルのあいだで、サルレトロウイルス2型の感染が確認された。エイズに似た免疫不全を引き起こすウイルスで、主にケンカの際にできたかみ傷や引っかき傷などを通じて感染する。重症化して命を落とす個体も出たため、施設側は群れを分け、検査や隔離を徹底した。
施設にいた4つの群れのうち、ウイルスにさらされたのは3群。「キョウト」と呼ばれる残りの1群は感染を免れた。研究チームはこの違いに着目し、2022年10月から2024年3月にかけて、55頭を対象に実験を実施した。
用意したのは、清潔な木製の台に置いたブドウと、本物のサルのフンを樹脂で固めた表面に置いたブドウ。フンは樹脂で封じ込められているため、臭いや感染の心配はなく、見た目だけで汚れているように感じさせる仕組みだ。
その結果、ウイルスの流行を経験していない群れが、汚れて見える側のエサを食べた割合は79%だったのに対し、流行を経験した群れでは47%にとどまった。さらに、個体自身が感染したかどうかにかかわらず、仲間が病気になるのを目の当たりにしたサルにも、同様の慎重な行動が見られた。
「群れには歴史がある」
研究の筆頭著者であるステファン・カウフホールド氏は、米Popular Scienceの取材に対し、「群れには歴史があり、その歴史が行動に表れるのです」とコメント。上級著者のフェデリコ・ロッサーノ准教授は、経験によって病気を避ける行動が変化することを「人間以外の霊長類でも示すことができた」と語っている。
同じ研究では、かつてペットとして人間に育てられたサルが、母ザルや仲間に育てられたサルよりも、汚れて見えるエサを口にしやすいことも明らかになった。病気を避ける行動は、生まれつき備わっているだけでなく、群れのなかでの経験や学習によっても形成される可能性がある。
研究チームは今回の結果が、人間の「嫌悪感」がどのように進化してきたのかを考える手がかりになるとしている。新型コロナウイルスの流行を経て、手洗いや消毒が以前より習慣になったという人も、日本では少なくないだろう。京都から海を渡ったサルたちの変化は、どこか人ごととは思えない話だ。

















