ジョン・レジェンドが、ニュー・アルバム『Muse』を10月23日にリリースする。全編のプロデュースと共同ライティングを手がけたのは、20年以上の友人であるファレル・ウィリアムス。二人が本格的に組むのは、これが初めてだ。(フロントロウ編集部)
「最も反響を得てきたのは、ピアノのバラードだった」
エミー賞・グラミー賞・アカデミー賞・トニー賞という4大アワードすべてを受賞したEGOTを、アフリカ系アメリカ人男性として初めて達成し、グラミー賞だけでも13冠を持つジョン・レジェンド。その彼が、自分の代名詞をいったん脇に置いた。
「これまでのレパートリーも、とても幅広いものだったと思います。ただ、キャリアを通じて最も大きな反響を得てきたのは、やはりピアノを中心としたバラードでした。今回はその定型をあえて崩して、フレッシュで新しいことをやりたかったのです」と、ジョン・レジェンドは新作について語っている。
完成した『Muse』は、ゴスペル、スタンダード・ナンバー、ドゥーワップ、クラシック・ソウル、アフロビート、ヒップホップまでを織り合わせた一枚。ニーナ・シモン、ナット・キング・コール、マーヴィン・ゲイからの影響も反映されている。アルバムの発表に合わせて、リード・シングル「Daylight」も配信が始まった。現地時間9月7日には、NFLシーズン開幕を記念してCBSで放送された特別番組『America’s Tailgate』にナッシュヴィルから出演し、同曲を一足先に披露している。
きっかけは、クリプスのアルバムに参加した1曲だった
じつは、このプロジェクトが動き出したきっかけは、ジョン・レジェンド側からの持ち込みではない。ファレル・ウィリアムスがプロデュースしたクリプスのカムバック・アルバム『Let God Sort Em Out』に、ジョン・レジェンドがゲスト参加したことが始まりだった。収録曲「The Birds Don’t Sing」で聴かせたその声に触発されたファレルが、その声を軸にアルバムを作ることを思いついたのだという。
「ファレルから電話をもらった瞬間、”やろう”と思いました。僕たちなら、とっくにこういう作品を一緒に作っていてもおかしくないと、多くの人が思うかもしれません。でも実際には、まだ一度もなかった。むしろ、ようやくこの時が来たという感覚でした」
二人は2025年1月、ファレルがメンズ クリエイティブ・ディレクターを務めるルイ・ヴィトン本社内のスタジオに集まり、パリで作曲とレコーディングを開始した。制作の指針としてファレルが最初から掲げていたのは、意外な言葉だったという。
「クラシックでシネマティックな要素をふんだんに取り入れた、”ブラック・ジェームズ・ボンド”のような美学を持つ作品でした。ただ、その土台にあるのはあくまでモダンなバックビート。僕らしさも、彼らしさも感じられますが、どちらにとっても新しいサウンドになっています」
「僕にとっては、ほとんどないことです」
タイトル曲「Muse」は、パリと芸術を背景に、ある男性とその”ミューズ”との関係を、欲望から愛、そして裏切りまで描いた楽曲。モデルになった実在の人物はいない。「僕たちが自由に物語を書けるような人物像を、2人で作り上げたのです」とジョン・レジェンドは説明する。タイトルは、音楽・科学・文学・芸術を司るギリシャ神話の9人の女神にも由来しており、そこにもう一段の意味を重ねている。「祖先もまた、僕たちにとってのミューズです。僕の音楽はいつも、彼らから受け継いだものを自分の中に通し、それを新しい形へと生まれ変わらせることでもありました」。

全16曲のうち、ファレルは7曲にフィーチャリングとして名を連ねる。ドゥーワップとゴスペルで恋に落ちる瞬間を描いた「Her」、壮大なホーンとストリングスで”ブラック・ジェームズ・ボンド”の美学を全面に出した「Get Back」、恋人同士の口論を厳しさのある愛情へと昇華させた「Are You OK?」。クリプスを迎えた「Bodies on the Floor」では、ギャング同士の抗争を思わせる言葉が、抗いがたい関係性の比喩へと転化されている。ちなみに二人の共作は、ルイ・ヴィトンの2026年秋冬メンズ・ファッションショーで流れたゴスペル調の「Pray For Ya」で一足先に世に出ていた。
興味深いのは、ジョン・レジェンドがこの作品で主導権をかなり手放している点だ。「このアルバムには、ファレルがすべて書いた曲を僕が歌っているものもあります。僕にとっては、ほとんどないことです」。最終ミックスが上がった時、ファレルからは「信頼してくれてありがとう。辛抱強く付き合ってくれてありがとう」というメッセージが届いたという。
「議論でどちらが勝つかでも、エゴでもありません。勝つべきなのは音楽そのもの」とジョン・レジェンド。キャリアの折り返しをとうに過ぎたアーティストが新作を作る理由についても、こう続けている。「ヒット曲だけを演奏して、自分たちのコンフォート・ゾーンにとどまることだってできる。でも僕は、”これからも自分自身を証明し続けなければならない”という気持ちを失わないことが大切だと思っています」。

















