同曲は2016年のグラミー賞やアカデミー賞で話題になり、アメリカ社会に陰を落とす深刻な問題に光を当てている。曲の内容や、ガガが参加した理由、さらにはガガの参加によって生まれている結果などを、フロントロウ編集部が伝える。
この曲が浮き彫りにするアメリカの社会問題とは?
曲が題材にしているのは、アメリカの大学キャンパスで多発し、社会問題に発展しているレイプ事件。
レイプ被害者へのインタヴューなどから制作された2015年のドキュメンタリー映画『ハンティング・グラウンド』によると、大学または短大に在学中にレイプもしくはレイプ未遂の被害にあう女性の割合は、なんと5人に1人。大学側の対応の問題も指摘されていて、映画では、多くの有名校が大学の評判を落とさないために事件を隠ぺいする傾向にあると主張されている。
今回ガガが制作した「ティル・イット・ハプンズ・トゥ・ユー」は、この映画『ハンティング・グラウンド』のテーマ曲。収益の一部は、レイプ被害者の支援団体に寄付されるという。
ちなみに映画『ハンティング・グラウンド』は、日本ではネットフリックスで視聴できる。
ガガがレイプ被害者たちを積極的に支援する理由
ガガがこの曲の制作に参加することを決めたのには、ある重大な理由が。
それは、彼女自身がレイプの被害者だから。
2014年にのラジオ番組のインタヴューで、19歳の頃に1歳年上の男性に無理やりレイプされた経験があると明かしたガガ。自身の経験について、こう語っている。
「レイプは毎日のように起こっているわ。とても怖くて悲しいことよね。自分の身に起きたとき、最初のうちはそこまでショックは感じていなかったんだけど、4、5年経って急にトラウマに悩ませれるようになったの。“レイプの被害者”だっていうレッテルを貼られたくなくて、誰にも言えずにいたわ」―ガガ、ラジオ番組『スターンショー(原題)』で語って。
被害者たちのリアルな心情を歌った歌詞
曲のタイトルである「Til It Happens To You」は、日本語に訳すと「それがあなた自身に起こるまでは」という意味。
周囲の人たちからの励ましの言葉も届かないくらい、深い闇に陥ってしまったレイプ被害者たちの心の葛藤をリアルに表現した歌詞が話題になっている。
You tell me it gets better, it gets better in time
時間が経てば、そのうち良くなるよってあなたは言うけど
You say I'll pull myself together, pull it together, you'll be fine
しっかりしなさい、きっと大丈夫だから、なんて言うけど
Tell me, what the hell do you know? What do you know?
あなたに何がわかるっていうの? 何を知ってるって?
Tell me how the hell could you know? How could you know?
一体何を知ってるのか教えてよ、何が分かるっていうの?
'Til It happens to you, you don't know how it feels, how it feels
それがあなた自身に起こるまでは、本当はどんな感じかなんて分かるわけないわ
'Til it happens to you, you won't know, it won't be real
あなた自身に起こるまでは、知るわけがない、リアルじゃないもの
No, it won't be real, won't know how it feels
リアルじゃない、私の気持ちなんて分かるわけない
(※歌詞の一部抜粋)
世界が衝撃を受けた迫真のMV
この曲がさらに注目を集めるきっかけとなったのが、思わず目を背けたくなるような映像を収めたMV。
下記の冒頭メッセージでスタートするこの衝撃作には、平和な学生生活を送っていたはずの4人の女子生徒たちが、ある日突然、思いもよらなかった相手から性的暴行を受け、レイプ事件の被害者として苦悩する様子が生々しく描かれている。
“The following contains graphic content that may be emotionally unsettling but reflects the reality of what is happening daily on college campuses."
訳:これから流れる映像には、精神的に動揺をきたすような内容が含まれています。でも、これらの出来事は、今日もどこかの大学のキャンパスで実際に起こっていることなのです。
監督を手がけたのは、映画『トワイライト ~初恋~』のキャサリン・ハードウィック監督。さらに同シリーズに出演した女優のニッキー・リードが被害者の一人を熱演するなど、プロジェクトに賛同した実力派たちが制作陣に名前を連ねている。
ガガの曲が与えている社会的な影響
「ティル・イット・ハプンズ・トゥ・ユー」は、映画『ハンティング・グラウンド』の挿入歌として、2015~2016年にかけて多くの賞を受賞。
グラミー賞やアカデミー賞にもノミネートされ、2016年のアカデミー賞ではレイプ被害者たちをステージに上げ、曲を熱唱。パフォーマンスはスタンディングオベーションで称えられ、同イベントにおける最もパワフルなシーンのひとつとして話題になった。
この日のガガのパフォーマンスを受け、バラク・オバマ米大統領が立ち上げたレイプ撲滅運動It’s On Us(訳:私たちにかかってる)の登録者数が普段の10倍に急増。ツイッターでも「#ItsOnUs」というハッシュタグがトレンドし、ガガの影響力の大きさを見せつけた。
レイプ被害者の1人として、同じように苦しい体験をした女性たちの力になりたいと、楽曲への参加を決意したガガ。
絶大な影響力を持つ彼女が発信するメッセージは、アメリカに、そして世界に、変化を与えている。