大人気番組『クィア・アイ』で美容担当を務めるジョナサン・ヴァン・ネスが、HIV陽性であることを告白した。(フロントロウ編集部)

HIV陽性であることを告白

 2019年のエミー賞で3部門を受賞したリアリティ番組『クィア・アイ』で、メインキャストの“ファブ5”の美容担当を務めるジョナサン・ヴァン・ネス(32)が、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していることを米New York Timesに明かした。

画像: 左から、カラモ・ブラウン、ボビー・バーク、アントニ・ポロウスキ、タン・フランス、ジョナサン・ヴァン・ネス

左から、カラモ・ブラウン、ボビー・バーク、アントニ・ポロウスキ、タン・フランス、ジョナサン・ヴァン・ネス

『クィア・アイ』ってどんな番組?
―5人の各分野のプロが集まった“ファブ5”と呼ばれるファビュラスな同性愛者5人組が、さまざまな理由で自信を失った人たちを外から内から大改造して、魅力的に生まれ変わらせるリアリティ番組。

 同性愛者であることで知られ、最近ではノンバイナリーであることもカミングアウトしたジョナサンは、同紙にセックスと薬物に依存していた過去や性暴力の被害に遭った経験を涙ながらに打ち明けた。

画像: HIV陽性であることを告白

 ジョナサンがHIV陽性の検査結果を告げられたのは25歳の時。美容師として働き、クライアントにヘアカラーを施している最中に気を失ったことがきっかけで、翌日に性病治療などを行なうNPO法人のプランド・ペアレントフッド(Planned Parenthood)でインフルエンザに似た症状の原因を調べたところ、HIV陽性であることがわかったという。

 ジョナサンがHIVに感染するまでの道のりを語るには、それ以前に抱えるトラウマや依存症を振り返る必要がある。

少年時代に性被害、セックス依存・薬物依存

「若い頃に性暴力を受けた多くの人は、色んな形のトラウマを抱えている」

 LGBTQ+に理解のある家庭で幼いころからゲイであることを自認して育ったというジョナサンは、少年時代に同じ教会に通っていた年上の男性から性暴力を受けたと告白。

 この経験がジョナサンの性生活を狂わせ、高校3年生を飛び級して進学した大学時代には、母親からの仕送りのお金でコカインに手を出したことで、お金が足りなくなるとセックスでお金を稼ぐ生活をくり返し、セックスと薬物に依存してしまったという。

 19歳で大学を退学すると、今のジョナサンの肩書となる美容の道に進むことに。自分のキャリアが順調に前に進んだ半面、セックスと薬物の依存症は悪化し、ついには2回もリハビリ施設に入所するほど、ボロボロの状態にあったと語る。

 ジョナサンがHIV陽性であることが発覚したのは、そんな日々を送っている時だった。

HIV陽性者であることを公表するまで

 これをきっかけに、ジョナサンはクリーンな生活を心がけるようになり、新たなに拠点をロサンゼルスに移す。

画像1: HIV陽性者であることを公表するまで

 そこのサロンでコメディアンのエリン・ギブソンと出会い、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の大ファンであることが高じて、ネット上で同ドラマのパロディ番組『ゲイ・オブ・スローンズ』のホストを務めるようになったことで、エンタメの世界に参入。大ブレイクしたNetflixのリブート番組『クィア・アイ』のメインキャストのオーディションを勝ち取り、人気セレブの仲間入りを果たした。

 ジョナサンのSNSには、ボサボサの髪の毛で踊ったり、趣味のフィギュアスケートを披露したりする動画がしばしば投稿されており、その自然体な姿が世間から親しまれている。また『クィア・アイ』では、相談者に自分らしくいることの素晴らしさを訴え続けている。

 そんなジョナサンが、このタイミングでHIV陽性であることを公けにしたきっかけは、アメリカの社会情勢にあるという。

画像2: HIV陽性者であることを公表するまで

 「『クィア・アイ』が世に出た時は、自分が抱えていることを話すべきか悩んでいた」と話したジョナサンは、現在のトランプ政権によって様々な差別意識が高まっていることで、LGBTQ+コミュニティでも危機感が漂っているのを肌で感じたことから、HIV陽性であることを「話すべき」だと決断したという。

 現在の医療では、HIVを体内から完全に排除できる治療法はまだないけれど、抗HIV薬によってエイズの発症を防ぐことで、長期間にわたり健常時と変わらない日常生活を送ることができ、HIVを持っていない人と変わらないくらいの寿命が期待できる。

 また、古い考えで“咳やくしゃみ、キスからでもHIVが移る”という偏見がいまだにあるが、唾液に含まれるHIVは人に感染させるほどのウイルス量はないため、唾液による感染はないと言える。近年では、こうしたHIVへの偏見を変える動きも進んでいる。

 HIVを持っていない人と変わらず健康に過ごすジョナサンは、「美しいHIV陽性者のコミュニティのメンバー」の当事者として、HIV患者への理解と気づきを求めるために隠してきた事実を打ち明けた。

 欧米諸国で9月24日に出版されるジョナサンの自叙伝『Over The Top(原題)』では、こうした経験談を通して、ジョナサンが自分を愛せるようになるまでの物語が語られる。(フロントロウ編集部)

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