10月は、乳がんへの理解を啓発するピンクリボン月間。乳がんによって両胸の乳首を失くしたアクティビストのエリカ・ハートの勇気ある行動は、乳がんへの理解を深めてくれる。(フロントロウ編集部)
28歳で乳がんに
乳がんの生還者であり、アクティビスト、性教育者、大学教員、モデル、作家、そしてクィア(※)の黒人女性であるエリカ・ハートを一躍有名にしたのは、2016年に音楽フェスティバルのアフロパンクで撮られた、乳首のないトップレス姿の写真が拡散されたことから。
※クィア(Queer)とは、セクシャルマイノリティを表す「LGBT」に最近新しく加わった「LGBTQ」の「Q」のことで、使う人によって意味が変わるが、現代においては、「異性愛者」や「心と体の性が一致している人」以外の人のことを意味することが多い。
乳がんによって両方の乳房を全摘出したエリカは、男性がトップレスになるのと同じ感覚で上着を脱ぎ、「トップレス・アクティビスト」として乳がんの啓発運動を続けている。
エリカが乳がんと診断されたのは2014年5月、28歳の時。2種類の乳がんと診断されたエリカは、治療をするうちに、乳がん患者のイメージが白人であること、乳房切除する乳がん患者が多いなか両方の乳房を切除した黒人女性に焦点が当たっていないことを肌で感じたという。
「乳がんを持つ人のイメージは、子供が3人いてミニバンを走らせて郊外に住んでいる中流階級の白人女性。(ピンクリボン月間の)10月に流れるCMはそんなイメージのものばかりだった」
日本では「乳がんは女性の病気」というイメージが強く、乳がんにかかる男性患者になかなか焦点が当たらないように、アメリカでは性別のほかにも、黒人が乳がんで乳房を全摘出するというイメージもなかったとエリカは米Healthlineに話す。
また、アメリカでは白人より黒人のほうが乳がんによる死亡率が高いといい、こうした偏りを見直すためにも、エリカは乳がんについての正しい理解を広めるための活動をすることを決めたという。
エリカは乳がんの啓発運動に加えて、黒人を医療の人体実験に使った過去などがあるアメリカでは医者を信用していない黒人が今もいることや、黒人の医療へのアクセスが白人に比べて十分に行き届いていないなどの現状がある黒人コミュニティの医療環境を改善するための活動も行なっている。
そんなエリカは、自身のサイトやSNSを通して、乳がんをはじめとした人間の健康と、それに関わる人種やジェンダー、慢性疾患、障がいの問題について問題提起している。
最近では、ピンクリボン月間に合わせて自身のインスタグラムに動画を投稿。エリカとパートナーが乳がんのセルフチェックをするハウツー動画とともに、13のリマインダーとして、乳がんは性別やジェンダーに限らず誰でもなりうる病気であることや、健常者ががん患者に食事の指導をしてはいけないこと、乳がんは死刑宣告ではないことなど、乳がん生還者ならではの本音を明かしている。
早期発見・早期診断・早期治療が大切な乳がん。治せる病気である乳がんで命を落とす人が少しでも減るように、10月は、ピンクリボン月間に合わせたイベントが日本をはじめとした世界各地で行なわれている。(フロントロウ編集部)